2007-03-12

2007年3月12日 日常
春が来たので家にあげて、お茶を出して世間話をした。
「やあやあ、春くん、少しずつ暖かくなってきたね。」
「うんうん、暖かいのは心地いいでしょ。」
「そうだね。でもそれなのに君の目は今年も透き通っていて、人を見透かすだけ見透かして、触れようとはしないんだね。」
「まったく困ったものだよ。触れようとしても、透けて見えてしまって、けっきょく嫌になっちゃうんだ。」
「でも君と一緒にいると幸せなんだ。」
「ありがとう。」
春はお茶を啜って、礼を言って、玄関を開けて家を出て行った。
彼を見送ると、通りの果てのほうで一瞬こっちを振り返った。
その姿は地図の海岸の端に貼り付けられて、永遠にそのまま動かない記号のようだった。
僕は悲しくて地面に膝をつけて、顔を両手で覆い、泣き出してしまった。
とても言葉にはできそうになかった。
涙が止まった頃には春はもういなくなっていた。

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