2007-12-16
2007年12月16日 日常地下鉄の入り口の終電の時刻表を見ると、終電から15分過ぎていた。遅過ぎたのだ。「電車ないね。」と詩子は言いながら、本なんかで読んだり見たり聞いたりする通りだったら、ここで私達はラブホテルに二人仲良く入っていくに違いない。「タクシーで送るよ。」「言ったでしょ。私、帰りたくないの。」フルカワは頭を掻いて「お母さんだって、家に帰ってきて君がいなかったらびっくりするんじゃないかな。」「いつものこと。」
フルカワがここまで話をして、僕の携帯の電話が鳴って、電話に出て、自身をデリバリーすることをフルカワに伝えて、急いで部屋を出た。玄関に見送ろうとしたフルカワに「その話の着地点は予想がついてる。」と靴を履きながら言った。そう言ってフルカワが何かを考えているあいだに「急ぎなんだ。」と言って礼儀を無視していることを分かったうえで、家をすぐに出た。
女性の口が’女性の口’の大きさと比例するというのに気付いたのは、彼女が二人目の口の小さな女性で、鰐の顎のように噛んだからだ。一人目は僕の書くブログで知り合った女で、美人で自身を創作する才能を持ちながら、付き合う男は売れないミュージシャンで、彼氏に自分を高く引き上げるほどの力が無いことを知りながら、野心を満たすために男を乗り換えようとすることすら彼女には手間だった。いや、それは真実の半分でしかない。成功したミュージシャンを選ぶことをできたとしても彼女はしないだろう。それは、美人が醜男と付き合うことや、母親が娘が自分より幸せになることを望まないことや、ある種の女がゲイの男を友人にすることや、自分より幸福な男とは付き合わない女や、そういった惨めな人間達と共通している。潰れた会社社長夫人で家計を助けるためにパートで働いていた僕の母親が、僕が上手くいったことを自慢するときに’絶対に’僕を褒めなかったこともそれに並べることができる。ただ、優れたヴァギナを持っていることは人間性とは関係はない。ある日起きて隣で寝ているのが、成功していないミュージシャンで顔が好みであれば、全く別人であっても彼女は気にも留めないだろうが、彼女と同じように僕も鰐の顎を持つ美女であれば誰であっても構わないと思っている。
二人目の女性を仮にBOと呼ぶ。新しい名前を思い付いたら、書き換えようと思う。
純粋な俗物。という表現が成り立つなら、それは体現するのが彼女だ。美貌、高級ブランド、セックス、男、愛人関係、車、海外旅行、同性からの羨望、それらが彼女の構成する要素だった。僕にとっては興味深くはあれ、ほぼ無関係なそれらで生活を作り上げた彼女が、僕に興味を示したのが理解できない。なぜなら、僕のブログ『god is nowhere』(これも後で必要があれば書き換えられるだろう)の要素は文学や音楽やアートやモラルについての考え方で、彼女の興味を引きそうな、高級ディナーもタヒチもメルセデスベンツも出てこない。別に自分が高尚な人間で彼女が低俗な人間だと言うつもりはない、むしろ、欲求を効率よく満たす彼女を尊敬すらしていた。だけど彼女は僕に軽蔑されていると考えていたが、それは間違っている。あることをしたいときに、何か事情でそれできない時に感じる苛立ち、と言えばあなたは分かってくれるかもしれない。彼女の価値観に沿うことはできないのに、彼女は僕からの愛情を求めている。要するに、彼女に買うバッグを金がないから、彼女の気持ちに応じることができない。それでも、彼女は魅力的(それがどれだけ通俗的な魅力であれ)で、なおかつ自分を求めている。自分も彼女を求めている。でも金がない。英語を喋れない男と日本語を喋れない女が、道で偶然にお互いを本能的に引き寄せたようなものだ。だけど、このことについて、その動物的な本能は当てはまらない。文章のうえでしか、彼女は僕のことを知らない。いや、これは厳密には本当のことじゃない。インターネット上で初めてきちんと会ったのは実際は二度目だった。それは元町のサンマルクカフェで僕が小説を書いていたときに、正面に席に座った女性(はっきりと分かるほどの美女ではなかったが、それでも整った顔立ちをしていて、高そうな服を着ていて、財布はルイ・ヴィトンのモノグラムだった。)を直感的にBOではないかと思ったときに、僕を一瞥したあと、携帯電話の操作(きっと電話の向こう側は社会的に成功したの腹の出た中年男だろう)に集中し始めたとき、彼女が僕を『god is nowhere』の作者であることを分からせる何か(なんと言ったのかよく覚えてない。『萩の月』がなんとかって言った気がする。)を大きめの声で電話で話して、彼女は僕の方を目を見開いて見て、僕は了解した。ただ、そのときはそれ以上何かが起こるでもなく、僕と彼女の間に橋はかからなかった。現代的な狼煙のようなものだ。
BOには女性の注目を集めるという才能があった。大半の女性が心底で望みながら彼女達ができないこと(刺激的なセックス描写、豪奢な生活、数多くの男性からの求愛と贈答、それとなく分かる優れた容姿、などなど)をして、そしてその経験や生活を文章にして、羨望を感じることで、さらに優越感を満足させた。そのブログにはいつも沢山のコメント(男女問わず)が付き、アクセス数は僕のブログの100倍くらいあったし、2ちゃんねるで僕たちが書いているブログサイトのスレッドを一度だけ見たときに、そのサイトのなかで注目するブログの話になったとき、彼女のブログがそのひとつとして挙がっていた。彼女のブログ以外には、異常にコンプレックスが強そうなひとが書いている、週刊誌の記事のようなこと(収入とか芸能人のこととか)ばかり書くブログが載っていて、僕のブログのことはほんの少しも書いていなかった。オーケー、あなたは僕が自慢をしたいだけだって思うかもしれない。それは半分は当たっている。もう半分は、僕は僕自身を客観的に興味深く感じることがあって、その秘密を自分でも分からないからだ。いちばん身近な人間が、偶然、誰よりも不可解なのだ。例えばその男自身は知名度が低いにも関わらず、知名度の高い連中からは注目されやすい。これが高い知名度と高い知名度であれば理解できる。人間(もとい動物は)は自分に似た人間といると安心して、引き寄せあうものだけど、僕と彼らでは名前の売れ方が、ウォールストリートジャーナルと町内会の掲示板に張ってある新聞くらいに違う。そういった構造を僕は自慢に思ったことは全くないと言えば嘘になるだろうけど、それは僕のエゴを満たすことは無かった。
クープランドという作家が書いた『ジェネレーションX』という小説のなかで、主人公とその友人達は、都会を離れ、消費が動かす社会を離れ、砂漠と谷しかない田舎で、資本主義を否定した生き方(ちなみ共産主義ではない)を選び取る。僕は金の無い幼少時代のせいで(卑屈になるつもりも自己憐憫するつもりもないが)、比較的安くて効果の大きい娯楽で自分を満足させる方法を学び、それはほぼ本能と化した習性だった(元々は発売されているミニカーを全部手に入れなければ満足しない強欲なガキだったが)。だから、僕が音楽や文学を求めるのは、ある種の偽りかもしれない。我慢するということができないのは僕の核のうちの一つで、それはBOも同じだ。
フルカワの家から電車を乗り継いで、終電近い京浜東北線で彼女の家に向かう。
僕は上に書いたことの要点をブログに書いて、それから小説に書いて、少し考えた。このセンテンスを書く前に自分はカポーティの『叶えられた祈り』の文体をトレースするように書こうと思ったのに失敗した。冗長だ。
「種馬みたいに働いている。」と僕は言った。
垂れ目の彼女(名前を知らない)と渋谷ですれ違ったあと、それを埋め合わせるように道ばたで女の子に声をかけた。
「東急ハンズってどこにありますか?」
「そこを真っ直ぐ行って曲がったところです。」
水色の洋服を着た彼女は手振りを交えて言った。
「自転車の修理の工具を探していて。自転車がパンクしちゃって。」
僕は若干どもりながら言った。どもったのはそれがまるっきりの嘘だからだ。バスで渋谷に来ていた。
バスの隣にいたのは、一年ぶりくらいに会う大阪出身の女の子で、彼女は同棲する彼氏のもとに渋谷で僕と分かれて帰った。
「ほかに売ってそうなお店って知ってます?」
「そこのドンキホーテ」と彼女は言った。
「うーん。ドンキ以外にあるかな?」
「この時間じゃどこも閉まってる。」と腕時計を見ながら彼女は言った。時計は21:50を指していた。
「お姉さん持ってません?」と僕が言うと彼女は笑った。
ドンキホーテにさしかかったところで、
「このあとどこに行くんですか?」と訊いた。
「そのへんで買い物。」
何を思ったのか僕は「買い物が終わったあとでいいんで、」と前置きしたうえで「お茶しませんか?」と訊いた。
なんで自分がそのまま買い物に何気なくついて行かなかったのかが自分でも分からない。
彼女はびっくりしたみたいに、「いや、ドンキですよ。自転車。どうぞ。」と言った。
そのあと、僕は一応ドンキホーテのなかで自転車のタイヤ修理の工具を探した。ともかく。
自転車の修理工具は見つからなかった。
僕は近くのスターバックスに入って、ばつの悪さを誤摩化すのと、再来週のクラブ遊びに一緒に相手を決めるために医者の卵の友達に電話して、近況を報告して、一行目に戻る。
「今週で3人とセックスした。」
「まじで?」
「水曜に一人、
(元彼女で以前にブログで書いた。
ラブホテルに入ってなかで彼女とセックスをしようとしたところで泣き始めて、
そのとき、ホテルではソフィア・コッポラ(彼女は僕のセックスと因縁があるのかも。)の『マリー・アントワネット』がやっていた。
僕はそのときのことをブログに書いた。
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2007-12-16
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ラブホテル(ネーミングが気に食わない)でマリーアントワネットが上映されていて、3、4人のギタリストが彼らに音楽を演奏するところで、画面を消して、セックスを始めると、ペッティングしている最中に彼女に喘ぎながら涙を流していて、僕はびっくりして、抱き寄せると、彼女は泣き出して、僕はそれをなだめた。
抱いていると日常の不安と苛立ちを嗚咽に混ざて吐き出して、僕は彼女の頭を抱いて背中をさすっていた。
泣きやんでしばらく経って、僕は彼女のクリトリスを擦って3回いった。彼女は僕のを握って同じ回数だけ導いた。
ベッドの中からテレビをつけると、宮殿の前に市民が詰めかけるシーンで、そのあとの字幕が流れるエンディングまで眺めていた。彼らはそのあと首を落とされる。
僕は考える。歴史。
子鹿に会うまえに、靴屋に寄っていて、髪の黒い女の子と、短い女の子がいて、僕は黒い髪のひととほんの少し挨拶をした。レジのほうに戻っていって、台の上に置いてあった冊子のようなもの(確か、髪の短い女の子と僕が初めて会話らしい会話をしたときに彼女のシフトを何気なく(もちろん何気なくは無かったはずだ)尋ねたときのものだったと思う。)を叩きつけていた。彼女は戸惑っていた。髪の短い女の子は僕を一瞬だけ眺めて、それは何かを思い出すときの表情のようだった。
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彼女は’手でする’のが異常に巧い。彼女は看護士の卵でそれがセックスの巧さにどれだけ比例するのか気になった。
僕は彼女(というより彼女の右手)を失いたくなかったけど、その日とうとう「もう会わない」と言い渡された。
「これってセフレじゃん。」と言う彼女に「じゃあ付き合おう。」と言うと「’’じゃあ’がむかつくんだよ!」とキレられた。不注意。
それでも、きっと彼女はまた僕に会うだろう。
)
木曜に一人、
(会社の同僚が組んだコンパで知り合った女の子で24才、アパレル店員。
端的に言えば、ピンクの服でよく喋ってセックスが好き。
彼女の名前はユキ(有希)といって、垂れ目だから一目で気に入った、と僕は言った。
「中学のとき、初めて好きになった女の子が垂れ目だったから。」と言うと、
「私は誰かの代わりじゃない!」と牛角から僕の家に行く途中で手を繋いだ彼女は僕に言った。
そのとき、僕は心のなかで「’ユキ’、君は誰かの代わりなんかじゃないよ。」と言った。
牛角で彼女はひたすら喋り続けていた。飯を食い終わって彼女から「家に行っていい?」と言った頃には、
彼女の高校卒業からの成り行きのほとんどを知っていた。そのへんのことは、もう一度彼女とセックスをしたら書くかもしれない。
そのセックスの最中に僕が試したことは以下の通り。
・フィストファック
→指が五本入って彼女が何度も痙攣するみたいに噛み付いたのは良かったけど、親指の付け根で彼女が痛がってそこまでだった。
僕の手の平には白っぽい汁が溜まって、好奇心からすすってみたけど、生温くて塩っぽい味と匂いで気持ち悪くなった。
・アナルファック
→指を入れようとしたところで、彼女に拒否された。
2セット目(夜に二回、朝に一回、結局三回して、昼歩く時力が入らなかった。)のあと、「今度試そうね。」と彼女に言った。
・あそこの中を動かしてもらう
→1セット目のあと、僕の初めてした相手はできたと彼女に言うと、彼女は試そうとしたけど、できなかった。
代わりに彼女に「マンコ締めて」と言うと、それは上手にできた。
朝、彼女と手を繋いで歩いているときに「身体の一部が筋肉痛なんですけど。」と言われた。
女性の一部が異常に発達している図を想像した。それって、悪くない。
いつもならセックスしたあと、疲れてすぐに眠りに落ちるはずなのに、異常に興奮した僕たちは眠くならずに夜4時間くらいずっとセックスしていた。
1セット目に「セックス好きでしょ?」と訊くと、彼女は素直に「うん。」と言った。少しだけ愛おしくなった。
お互いの性欲や素直さが均衡しているのは気分が良いものだの。どちらかといえば僕は素直な女の子が好きなのだ。
)
金曜はないか。
(
新宿otoに行った。
そこにいる女の子を見渡して、恋愛やセックスに対してストレートに向き合える女の子の数を数えていた。
20人いるなかで、そういう素直な女の子は一人か二人か、そのくらいだった。
その二人の片方は、僕を間違いなく好いていたけど(胸に腕を引き寄せて小さな胸に当たったあの感触!)、
金が無いとか、そういう理由で僕は彼女から逃げてしまった。臆病な自分が嫌いだ。
中田ヤスタカの元マネージャーがいて、彼の話(「17才のヤマハのオーディションの時から全然変わってない。」)や、
最近何しているか、なんてことを話していると、上記の女の子がうつむいたまま僕と元マネージャーの間に割って入って、無言で自分が置いていたグラスを掴んだ。
彼女の考えているや感じていることが僕には分かったけど、どうしようもない。
ともかく、それでも彼女は自分に正直だってことをやめていなかったし、もしもう一度彼女が僕にチャンスをくれるなら、シャンパンでも何でもプレゼントしようと思う。勇敢で素直な人間にはそうするだけの価値がある。
いわゆる、芸能人と呼ばれる人達が何人かいた。
長谷部千彩(いつも通り隙のないファッション。彼女に緊張して上手く話すことができなかったし、ナイーブな彼女は、疲れていて僕が上手く会話できないことに気付く余裕すら無かった。脆い心を抱えたまま沢山働く彼女に感心した。)、
ジャズシンガーのakiko(内向的で同業者か近しい友人のどちらかとしか話そうとはしなかった。僕はそれについて特にどうも思わない。そういう人間はそういう人間で、そうじゃない人間はそうじゃない、というだけの話だ。)、
官能小説家の吉良光(「先生、僕がもし官能小説を書いたら読んでくれますか?」、彼がなんと答えたのかを僕は覚えてない。彼が物を書く時は美しさを意識するらしい。それなら、僕は報告書としての官能小説(つまり一般的なポルノと対立する)を書こうと思う。事実の列記。)、
その他諸々。
あと、あえて挙げるとすれば、双子の女の子の片方が僕に「怒ってるでしょ。」と言っていた。デートの誘いを断られたことで僕が気を悪くしてると思ったんだろうけど、彼女は思い違いをしている。
何人もの女の子と寝るのは、心を恋愛や一人への気持ちの偏りを無くして、自分の性欲を、日常的にこなす食事や睡眠のように、髭を剃ったり、風呂に入ったり感情から引き離された純粋な行為にするためなのだ。
僕は恋愛に何度も失敗したせいで、それを純粋なセックスで埋めている負け犬だ。
ただ、この代替行為はうまくいっている。孤独から、誰かへの遂げることのできない気持ちから、僕を遠ざけてくれる。
セックスに恋愛が付随しているのか、恋愛にセックスが付随しているのか、僕は知らない。けれど、前者のセックスの部分を抽象化するまで徹底すれば、純粋なものに変わって、付随する恋愛は不純なものとして取り外すことができる。
)
えっと、今日で一人。
(
憧れの大阪出身の女の子!!少年期の僕の憧れ!!そして、青年期(初期)の失望!!
彼女の10:30に池袋で待ち合わせ。セミロングだった髪は短く&明るく、髪型は椎名林檎を意識したのかも。
要望通り、彼女を楽器屋へ連れて行って、midiキーボードを選ぶ彼女の相談&購入、発送。池袋のイシバシ楽器から商品発送した言い訳を同棲してる彼氏になんて言うんだろう、と思いつつ、パルコを出て池袋東口へ。
前から誰かを連れて入って見たかったロクシタンのカフェでランチ。’2,30代の女性が充実した生活’的なお洒落なランチ、と見せかけてビールを頼むP嬢と僕(赤ワイン)、二杯目を飲んだところで周りで昼から酒を頼んでるのが自分達だけだって気付く。
それでも、会話はピンポンのラリーのように続く。妄想を展開する会話(「ロクシタン!ミュージカル的な!農婦が野菜持って出てくる的な!」)をできる女の子の知り合いは彼女だけなのだ。
「うちにあるキーボード見せてあげるよ。」と言って、バスに乗って僕の家へ。
相変わらず、彼女は最高だった。円を描くようにクリトリスに触れるのが彼女のお気に入りで、セックスの快楽にたいして貪欲な彼女が素敵で、寝顔を眺めていると、愛おしい気持ちで心が暖かくなった。
)
このあともう一人と会う。
(
名目上の彼女。可愛くもないし、面白くもない。
僕は彼女のことを好きじゃなくて、どちらかといえば、孤独を紛らわすための道具だと思っている。彼女といるとなぜか僕は苛立ってしまう。この倦怠感を少なくない女の子が共感できると思う。
そういう女の子。周りの女の子を増えたら、きっと僕は躊躇なく彼女を捨てるだろう。そう、僕は冷たくて残酷な人間だ。
)
」
「馬鹿だなぁ。」
「頭が悪くなってる。仕事中に『あれ』とか言葉が全然出てこない。」
「このあとにもやるの?」
「いま空き時間。」
「ほんと、そういう仕事やったほうがいいんじゃない?」
「精子提供しますって?つか、ぶっちゃけ疲れた。今日会いたくない。」
「あー。」
「で、今度遊びに行かない?再来週の金曜。」
「九時からとかでしょ。」
「いや、オールで。クラブ。」
「頭悪くなっちゃう遊びだぁ。」
「一緒に行く女の子がいて、男友達連れてくから、そっちも友達連れて来なよ、って。」
「ちょっと待って。予定確認する。」
向こう側で友達が予定を確認している。僕はこちら側でノートPCを開く。
「空いてる。」
「次の日は予定ある。」
「予定ない。」
「オーケー。また連絡するよ。じゃあ。」
「じゃ。」
電話を切った僕はこの文章を書いている。
「人は真実を知らないほうがずっと幸せだ。少なくともほとんどの弱い人間にとっては、真実は重荷でしかない。」
その書き出しから、のどかの長編小説は始まっていた。
小説の序盤は一人の男が韓国の貧民街から違法入国した大男が成功について。
中盤はその男が血の繋がりの無い二人の女の子と、実の息子を得るに至った経緯と、二人の女の子と後見人になった男の話。
(その息子の母親について小説では触れられていない)
終盤は、二人の女の子が支配的な環境から逃げ出す話。
ここで『Fine Romance』の上巻は終わる。
下巻は、後見人になる男がいかにして、大男(父)に取り入って成功し、
そして、なぜ男がわざわざそのレコード会社を手に入れようとしたかの話になる。
フルカワの恋の話。
学生の頃にクラブで見つけた女の子に恋に落ちる。
金のないことや、相手には成功したミュージシャンの彼氏がいて結局恋は実らない。
落ち込んでいたところにアルバイトを見つけてシロの父親の会社の求人をみつける。
最初は社長とは接点の無い部署で働いていたが、ドライバーの職を得て気にいられる。
仕事ができることを認められ、(その数々のエピソード)相談役になりその頃、司法試験にごう合格する。
ある出来事で憧れがシロの父親にバレる。
そこでシロ(父)にその女の子のマネージする仕事を任される。(作者はこれをシロの父親の悪意として書いている)
期待を持ちの仕事につき恋人との再会を果たすが、間もなく彼女が政治家やマスコミの役員などに愛人として身体を売っていることを知る。
(このあたりのシロ(父)とフルカワの言い合いは小説の最大の見せ場だ)
フルカワは絶望し、失踪するが、見つかる。
シロの父親に打ち明けられる。女の子を二人預かっていること。
(その女の子達はシロ(父)が良く使う高級な会員制の売春の店に残された名もない子供達だ。
文章ではこのあたりは信じられないくらいあっさり書いているけれど、考えるほどタフな内容だ。
なぜならシロ(父)も同じように貧民街で両親を持たず育ったからだ。)
自分がガンを患っていて、周りには信頼できる人間がいない。遺せるものについて話す。
そして、今フルカワは新しい形で夢を手に入れたが、だがそれでもフルカワは立場として手に入るかつての恋人を自分のものとはしようとしない。
夢を失って、それ幻影であることを理解しながらも、諦めるられないままでいる。
そして、同時に、いまアイドルを目指す女の子と愛人でいること。もう信じられるものない。
物語の最後、フルカワは新しく知り合った若い友人(これは僕とムラハシをミックスした人物を作り上げたキャラクタによって行われる)に、
自分がかつて持っていた幻想を見出して、それを壊そうとするところで終わる。
その夜、のどかと僕は『真実』について話をしていた。
ひとは本当のことを知るほうがいいのか、知らないままでいたほうがいいのか。
僕は後者の立場を取り、彼女は前者を選んだ。
「いろんな連中が自分を騙す瞬間を何度も見てきた。」
そう僕は言った。いくら酒を飲んでも酔わない夜だった。
「何かを隠されたまま生きてことは損だと思うの。別に善悪の問題じゃなくてね。」
「知って損することもあるんじゃないかな?」
「例えば?」
「好きなひとが別の異性と浮気してるとか、死んだら’何も無い’っていうこととか。」
「そんなの気付くに決まってるじゃない。」
「気付かない連中もいる。」
「私、そんな無神経な連中耐えられないわ。」
「自分にとって不都合なことに目を向けようとしないのは誰だって同じだし、それは本能みたいなものだからどうにかなるものじゃないんじゃないかな。」
「でも、だとしたら、その本能を利用しようとしたら、利用としようとするやつの言いなりじゃない。」
「そうかもしれない。」
のどかは腕を胸の下で組んで斜め右下のあたりを睨んでいた。
僕はこう付け加えた。
「でも、どっちが悪いってわけじゃないんだ。騙されるやつは嘘を必要としているし、騙すやつだって与えてほしいことが分かってるから。」
「なんで虚構と欺瞞が必要なのかしら。」
「弱いからだよ。強く現実的であろうとするより、弱いままで怠惰でいるほうが損をするとしても楽なことだから。君はどう思う?」
「想像力の問題だと思う。」
腕を解いて彼女はテーブルの上に人差し指で線をひいていた。
「ねぇ、小説は嘘じゃないの?」
「嘘よ。でも、それは真実なのよ。宝石のようなもの。岩石を削って形を整えた本質が真実なの。」
僕はこんなこと話をしていてもキリがないと思った。
「そんなことよりゲームをしようよ。」
「いいよ。」
「じゃあ今日は『使ってると知的っぽい言葉。』」
「『スキーム』」
「『モダン』」
「『ロジック』」
「知的っぽい言葉といえば村上春樹の新しいの読んだ?」
いつも通り彼女の思考の飛躍と、唐突さに呆れながらも僕は答えた。
「読んだ。」
「どう?」
「面白かったよ。」
「そう、確かに面白かったけど、でも、あの『パッシバ』がなんちゃらっていうところは最悪よね。」
僕は肩をすくめた。彼女は続けた。
「面白いのは認めるわ。少なからず影響も受けたしね。でも、やっぱりあのインテリ気取りの部分が耐えられないの。」
「実際にインテリなんじゃないかな。」
「絶対に本人は認めないんじゃない。私、小難しい言葉を使って自分を良く見せようとするのって、いっつもダサいって思うの。」
「そこに置いてある君のプラダだって同じだよ。」
「これはただの商品よ。」
「小説だって、デザイナーがいて、生産があって、宣伝がある。モダンでロジカルなスキームに支えられた立派な商品だよ。」
僕も彼女もむきになっているのは分かったけど、彼女と議論ごっこをするのは飽きないので続けた。
「でも、洋服やバッグは買った人間をよく見せるものでしょ。作家が自分自身を飾るために物語を書くなんてちょっと不誠実だと思う。」
「洋服デザイナーだって、ショーの最後に出て顕示欲を満たす。」
僕はビールを飲み干して付け加えた。
「君にはきっと、色んな内心の規則が沢山あって、それには、小説かくあるべし、とか、人間かくあるべし、とか、そういうのが沢山あるんだろうね。」
「スノッブの作者が気取って書いた小説を、スノッブな読者が喜んでそれを読むのってちょっと気持ち悪いの。」
「まぁ、彼の小説を貶す人達の嫌悪感を言葉にしたら、まさにその通りだろうね。でも、ほとんどの人間にとって創作に触れることは少なからずファッション的なものだよ。」
「自己表現。」
「そう。誰かが作ったものを選び取ることが表現なんだよ。」
「その自己表現だって盗品だと思うの。」
「創作する者にとっての常識だよ。」
「じゃあ、まとめるとこういうことよね。盗作の継ぎ接ぎで出来た作品を、購入者が自己表現として身に付けて、作者とエゴを擦り合わせて快楽を得る。」
瓶からビールをグラスに注いで、僕は彼女のグラスにも注いだ。
「むかし、友達が芸術作品の展示をしていて、僕はその作品の一部を盗んだんだ。トイレの水が流れるところに転がってる透明なクリスタルもどき。」
ビールを飲む。この商品はシンプルだ。飲めば気分が良くなる。それだけだ。
「それをポケットいっぱいに詰め込んで会場を出ようとしたときに、出口の脇にあった照明のスイッチのすぐうえに小指の爪くらいの大きさのシールが張ってあったんだ。
真っ赤な色の象のシール。真っ赤な象なんて見たことないだろ。鳥肌が立ったよ。だって赤色の象だぜ?たまんないよな。
その象をシールを剥がして(千年の呪いから解き放つように)、安っぽいクリスタルもどきを一つポケットから取り出して張ろうとしたんだ。
そうすると、展示をしていた人達のなかのひとりの女の子が来て、僕は叱られたんだ。
でも、だからって自分のやったことが、自分以外の人間にとってはただの盗難だなんてことは分かってるし、罰は認めるよ。ただ、罪を認めるつもりはないけどね。」
「そのクリスタルを使った作品ってどんな作品だったの。」
「そんなことどうでもいいよ。」
その時になって急に自分の大人げなさに気付いた僕は話を逸らした。
「うちに来なよ。小説よりもアートよりもファックのほうがずっと良い。」
フルカワがここまで話をして、僕の携帯の電話が鳴って、電話に出て、自身をデリバリーすることをフルカワに伝えて、急いで部屋を出た。玄関に見送ろうとしたフルカワに「その話の着地点は予想がついてる。」と靴を履きながら言った。そう言ってフルカワが何かを考えているあいだに「急ぎなんだ。」と言って礼儀を無視していることを分かったうえで、家をすぐに出た。
女性の口が’女性の口’の大きさと比例するというのに気付いたのは、彼女が二人目の口の小さな女性で、鰐の顎のように噛んだからだ。一人目は僕の書くブログで知り合った女で、美人で自身を創作する才能を持ちながら、付き合う男は売れないミュージシャンで、彼氏に自分を高く引き上げるほどの力が無いことを知りながら、野心を満たすために男を乗り換えようとすることすら彼女には手間だった。いや、それは真実の半分でしかない。成功したミュージシャンを選ぶことをできたとしても彼女はしないだろう。それは、美人が醜男と付き合うことや、母親が娘が自分より幸せになることを望まないことや、ある種の女がゲイの男を友人にすることや、自分より幸福な男とは付き合わない女や、そういった惨めな人間達と共通している。潰れた会社社長夫人で家計を助けるためにパートで働いていた僕の母親が、僕が上手くいったことを自慢するときに’絶対に’僕を褒めなかったこともそれに並べることができる。ただ、優れたヴァギナを持っていることは人間性とは関係はない。ある日起きて隣で寝ているのが、成功していないミュージシャンで顔が好みであれば、全く別人であっても彼女は気にも留めないだろうが、彼女と同じように僕も鰐の顎を持つ美女であれば誰であっても構わないと思っている。
二人目の女性を仮にBOと呼ぶ。新しい名前を思い付いたら、書き換えようと思う。
純粋な俗物。という表現が成り立つなら、それは体現するのが彼女だ。美貌、高級ブランド、セックス、男、愛人関係、車、海外旅行、同性からの羨望、それらが彼女の構成する要素だった。僕にとっては興味深くはあれ、ほぼ無関係なそれらで生活を作り上げた彼女が、僕に興味を示したのが理解できない。なぜなら、僕のブログ『god is nowhere』(これも後で必要があれば書き換えられるだろう)の要素は文学や音楽やアートやモラルについての考え方で、彼女の興味を引きそうな、高級ディナーもタヒチもメルセデスベンツも出てこない。別に自分が高尚な人間で彼女が低俗な人間だと言うつもりはない、むしろ、欲求を効率よく満たす彼女を尊敬すらしていた。だけど彼女は僕に軽蔑されていると考えていたが、それは間違っている。あることをしたいときに、何か事情でそれできない時に感じる苛立ち、と言えばあなたは分かってくれるかもしれない。彼女の価値観に沿うことはできないのに、彼女は僕からの愛情を求めている。要するに、彼女に買うバッグを金がないから、彼女の気持ちに応じることができない。それでも、彼女は魅力的(それがどれだけ通俗的な魅力であれ)で、なおかつ自分を求めている。自分も彼女を求めている。でも金がない。英語を喋れない男と日本語を喋れない女が、道で偶然にお互いを本能的に引き寄せたようなものだ。だけど、このことについて、その動物的な本能は当てはまらない。文章のうえでしか、彼女は僕のことを知らない。いや、これは厳密には本当のことじゃない。インターネット上で初めてきちんと会ったのは実際は二度目だった。それは元町のサンマルクカフェで僕が小説を書いていたときに、正面に席に座った女性(はっきりと分かるほどの美女ではなかったが、それでも整った顔立ちをしていて、高そうな服を着ていて、財布はルイ・ヴィトンのモノグラムだった。)を直感的にBOではないかと思ったときに、僕を一瞥したあと、携帯電話の操作(きっと電話の向こう側は社会的に成功したの腹の出た中年男だろう)に集中し始めたとき、彼女が僕を『god is nowhere』の作者であることを分からせる何か(なんと言ったのかよく覚えてない。『萩の月』がなんとかって言った気がする。)を大きめの声で電話で話して、彼女は僕の方を目を見開いて見て、僕は了解した。ただ、そのときはそれ以上何かが起こるでもなく、僕と彼女の間に橋はかからなかった。現代的な狼煙のようなものだ。
BOには女性の注目を集めるという才能があった。大半の女性が心底で望みながら彼女達ができないこと(刺激的なセックス描写、豪奢な生活、数多くの男性からの求愛と贈答、それとなく分かる優れた容姿、などなど)をして、そしてその経験や生活を文章にして、羨望を感じることで、さらに優越感を満足させた。そのブログにはいつも沢山のコメント(男女問わず)が付き、アクセス数は僕のブログの100倍くらいあったし、2ちゃんねるで僕たちが書いているブログサイトのスレッドを一度だけ見たときに、そのサイトのなかで注目するブログの話になったとき、彼女のブログがそのひとつとして挙がっていた。彼女のブログ以外には、異常にコンプレックスが強そうなひとが書いている、週刊誌の記事のようなこと(収入とか芸能人のこととか)ばかり書くブログが載っていて、僕のブログのことはほんの少しも書いていなかった。オーケー、あなたは僕が自慢をしたいだけだって思うかもしれない。それは半分は当たっている。もう半分は、僕は僕自身を客観的に興味深く感じることがあって、その秘密を自分でも分からないからだ。いちばん身近な人間が、偶然、誰よりも不可解なのだ。例えばその男自身は知名度が低いにも関わらず、知名度の高い連中からは注目されやすい。これが高い知名度と高い知名度であれば理解できる。人間(もとい動物は)は自分に似た人間といると安心して、引き寄せあうものだけど、僕と彼らでは名前の売れ方が、ウォールストリートジャーナルと町内会の掲示板に張ってある新聞くらいに違う。そういった構造を僕は自慢に思ったことは全くないと言えば嘘になるだろうけど、それは僕のエゴを満たすことは無かった。
クープランドという作家が書いた『ジェネレーションX』という小説のなかで、主人公とその友人達は、都会を離れ、消費が動かす社会を離れ、砂漠と谷しかない田舎で、資本主義を否定した生き方(ちなみ共産主義ではない)を選び取る。僕は金の無い幼少時代のせいで(卑屈になるつもりも自己憐憫するつもりもないが)、比較的安くて効果の大きい娯楽で自分を満足させる方法を学び、それはほぼ本能と化した習性だった(元々は発売されているミニカーを全部手に入れなければ満足しない強欲なガキだったが)。だから、僕が音楽や文学を求めるのは、ある種の偽りかもしれない。我慢するということができないのは僕の核のうちの一つで、それはBOも同じだ。
フルカワの家から電車を乗り継いで、終電近い京浜東北線で彼女の家に向かう。
僕は上に書いたことの要点をブログに書いて、それから小説に書いて、少し考えた。このセンテンスを書く前に自分はカポーティの『叶えられた祈り』の文体をトレースするように書こうと思ったのに失敗した。冗長だ。
「種馬みたいに働いている。」と僕は言った。
垂れ目の彼女(名前を知らない)と渋谷ですれ違ったあと、それを埋め合わせるように道ばたで女の子に声をかけた。
「東急ハンズってどこにありますか?」
「そこを真っ直ぐ行って曲がったところです。」
水色の洋服を着た彼女は手振りを交えて言った。
「自転車の修理の工具を探していて。自転車がパンクしちゃって。」
僕は若干どもりながら言った。どもったのはそれがまるっきりの嘘だからだ。バスで渋谷に来ていた。
バスの隣にいたのは、一年ぶりくらいに会う大阪出身の女の子で、彼女は同棲する彼氏のもとに渋谷で僕と分かれて帰った。
「ほかに売ってそうなお店って知ってます?」
「そこのドンキホーテ」と彼女は言った。
「うーん。ドンキ以外にあるかな?」
「この時間じゃどこも閉まってる。」と腕時計を見ながら彼女は言った。時計は21:50を指していた。
「お姉さん持ってません?」と僕が言うと彼女は笑った。
ドンキホーテにさしかかったところで、
「このあとどこに行くんですか?」と訊いた。
「そのへんで買い物。」
何を思ったのか僕は「買い物が終わったあとでいいんで、」と前置きしたうえで「お茶しませんか?」と訊いた。
なんで自分がそのまま買い物に何気なくついて行かなかったのかが自分でも分からない。
彼女はびっくりしたみたいに、「いや、ドンキですよ。自転車。どうぞ。」と言った。
そのあと、僕は一応ドンキホーテのなかで自転車のタイヤ修理の工具を探した。ともかく。
自転車の修理工具は見つからなかった。
僕は近くのスターバックスに入って、ばつの悪さを誤摩化すのと、再来週のクラブ遊びに一緒に相手を決めるために医者の卵の友達に電話して、近況を報告して、一行目に戻る。
「今週で3人とセックスした。」
「まじで?」
「水曜に一人、
(元彼女で以前にブログで書いた。
ラブホテルに入ってなかで彼女とセックスをしようとしたところで泣き始めて、
そのとき、ホテルではソフィア・コッポラ(彼女は僕のセックスと因縁があるのかも。)の『マリー・アントワネット』がやっていた。
僕はそのときのことをブログに書いた。
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2007-12-16
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ラブホテル(ネーミングが気に食わない)でマリーアントワネットが上映されていて、3、4人のギタリストが彼らに音楽を演奏するところで、画面を消して、セックスを始めると、ペッティングしている最中に彼女に喘ぎながら涙を流していて、僕はびっくりして、抱き寄せると、彼女は泣き出して、僕はそれをなだめた。
抱いていると日常の不安と苛立ちを嗚咽に混ざて吐き出して、僕は彼女の頭を抱いて背中をさすっていた。
泣きやんでしばらく経って、僕は彼女のクリトリスを擦って3回いった。彼女は僕のを握って同じ回数だけ導いた。
ベッドの中からテレビをつけると、宮殿の前に市民が詰めかけるシーンで、そのあとの字幕が流れるエンディングまで眺めていた。彼らはそのあと首を落とされる。
僕は考える。歴史。
子鹿に会うまえに、靴屋に寄っていて、髪の黒い女の子と、短い女の子がいて、僕は黒い髪のひととほんの少し挨拶をした。レジのほうに戻っていって、台の上に置いてあった冊子のようなもの(確か、髪の短い女の子と僕が初めて会話らしい会話をしたときに彼女のシフトを何気なく(もちろん何気なくは無かったはずだ)尋ねたときのものだったと思う。)を叩きつけていた。彼女は戸惑っていた。髪の短い女の子は僕を一瞬だけ眺めて、それは何かを思い出すときの表情のようだった。
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彼女は’手でする’のが異常に巧い。彼女は看護士の卵でそれがセックスの巧さにどれだけ比例するのか気になった。
僕は彼女(というより彼女の右手)を失いたくなかったけど、その日とうとう「もう会わない」と言い渡された。
「これってセフレじゃん。」と言う彼女に「じゃあ付き合おう。」と言うと「’’じゃあ’がむかつくんだよ!」とキレられた。不注意。
それでも、きっと彼女はまた僕に会うだろう。
)
木曜に一人、
(会社の同僚が組んだコンパで知り合った女の子で24才、アパレル店員。
端的に言えば、ピンクの服でよく喋ってセックスが好き。
彼女の名前はユキ(有希)といって、垂れ目だから一目で気に入った、と僕は言った。
「中学のとき、初めて好きになった女の子が垂れ目だったから。」と言うと、
「私は誰かの代わりじゃない!」と牛角から僕の家に行く途中で手を繋いだ彼女は僕に言った。
そのとき、僕は心のなかで「’ユキ’、君は誰かの代わりなんかじゃないよ。」と言った。
牛角で彼女はひたすら喋り続けていた。飯を食い終わって彼女から「家に行っていい?」と言った頃には、
彼女の高校卒業からの成り行きのほとんどを知っていた。そのへんのことは、もう一度彼女とセックスをしたら書くかもしれない。
そのセックスの最中に僕が試したことは以下の通り。
・フィストファック
→指が五本入って彼女が何度も痙攣するみたいに噛み付いたのは良かったけど、親指の付け根で彼女が痛がってそこまでだった。
僕の手の平には白っぽい汁が溜まって、好奇心からすすってみたけど、生温くて塩っぽい味と匂いで気持ち悪くなった。
・アナルファック
→指を入れようとしたところで、彼女に拒否された。
2セット目(夜に二回、朝に一回、結局三回して、昼歩く時力が入らなかった。)のあと、「今度試そうね。」と彼女に言った。
・あそこの中を動かしてもらう
→1セット目のあと、僕の初めてした相手はできたと彼女に言うと、彼女は試そうとしたけど、できなかった。
代わりに彼女に「マンコ締めて」と言うと、それは上手にできた。
朝、彼女と手を繋いで歩いているときに「身体の一部が筋肉痛なんですけど。」と言われた。
女性の一部が異常に発達している図を想像した。それって、悪くない。
いつもならセックスしたあと、疲れてすぐに眠りに落ちるはずなのに、異常に興奮した僕たちは眠くならずに夜4時間くらいずっとセックスしていた。
1セット目に「セックス好きでしょ?」と訊くと、彼女は素直に「うん。」と言った。少しだけ愛おしくなった。
お互いの性欲や素直さが均衡しているのは気分が良いものだの。どちらかといえば僕は素直な女の子が好きなのだ。
)
金曜はないか。
(
新宿otoに行った。
そこにいる女の子を見渡して、恋愛やセックスに対してストレートに向き合える女の子の数を数えていた。
20人いるなかで、そういう素直な女の子は一人か二人か、そのくらいだった。
その二人の片方は、僕を間違いなく好いていたけど(胸に腕を引き寄せて小さな胸に当たったあの感触!)、
金が無いとか、そういう理由で僕は彼女から逃げてしまった。臆病な自分が嫌いだ。
中田ヤスタカの元マネージャーがいて、彼の話(「17才のヤマハのオーディションの時から全然変わってない。」)や、
最近何しているか、なんてことを話していると、上記の女の子がうつむいたまま僕と元マネージャーの間に割って入って、無言で自分が置いていたグラスを掴んだ。
彼女の考えているや感じていることが僕には分かったけど、どうしようもない。
ともかく、それでも彼女は自分に正直だってことをやめていなかったし、もしもう一度彼女が僕にチャンスをくれるなら、シャンパンでも何でもプレゼントしようと思う。勇敢で素直な人間にはそうするだけの価値がある。
いわゆる、芸能人と呼ばれる人達が何人かいた。
長谷部千彩(いつも通り隙のないファッション。彼女に緊張して上手く話すことができなかったし、ナイーブな彼女は、疲れていて僕が上手く会話できないことに気付く余裕すら無かった。脆い心を抱えたまま沢山働く彼女に感心した。)、
ジャズシンガーのakiko(内向的で同業者か近しい友人のどちらかとしか話そうとはしなかった。僕はそれについて特にどうも思わない。そういう人間はそういう人間で、そうじゃない人間はそうじゃない、というだけの話だ。)、
官能小説家の吉良光(「先生、僕がもし官能小説を書いたら読んでくれますか?」、彼がなんと答えたのかを僕は覚えてない。彼が物を書く時は美しさを意識するらしい。それなら、僕は報告書としての官能小説(つまり一般的なポルノと対立する)を書こうと思う。事実の列記。)、
その他諸々。
あと、あえて挙げるとすれば、双子の女の子の片方が僕に「怒ってるでしょ。」と言っていた。デートの誘いを断られたことで僕が気を悪くしてると思ったんだろうけど、彼女は思い違いをしている。
何人もの女の子と寝るのは、心を恋愛や一人への気持ちの偏りを無くして、自分の性欲を、日常的にこなす食事や睡眠のように、髭を剃ったり、風呂に入ったり感情から引き離された純粋な行為にするためなのだ。
僕は恋愛に何度も失敗したせいで、それを純粋なセックスで埋めている負け犬だ。
ただ、この代替行為はうまくいっている。孤独から、誰かへの遂げることのできない気持ちから、僕を遠ざけてくれる。
セックスに恋愛が付随しているのか、恋愛にセックスが付随しているのか、僕は知らない。けれど、前者のセックスの部分を抽象化するまで徹底すれば、純粋なものに変わって、付随する恋愛は不純なものとして取り外すことができる。
)
えっと、今日で一人。
(
憧れの大阪出身の女の子!!少年期の僕の憧れ!!そして、青年期(初期)の失望!!
彼女の10:30に池袋で待ち合わせ。セミロングだった髪は短く&明るく、髪型は椎名林檎を意識したのかも。
要望通り、彼女を楽器屋へ連れて行って、midiキーボードを選ぶ彼女の相談&購入、発送。池袋のイシバシ楽器から商品発送した言い訳を同棲してる彼氏になんて言うんだろう、と思いつつ、パルコを出て池袋東口へ。
前から誰かを連れて入って見たかったロクシタンのカフェでランチ。’2,30代の女性が充実した生活’的なお洒落なランチ、と見せかけてビールを頼むP嬢と僕(赤ワイン)、二杯目を飲んだところで周りで昼から酒を頼んでるのが自分達だけだって気付く。
それでも、会話はピンポンのラリーのように続く。妄想を展開する会話(「ロクシタン!ミュージカル的な!農婦が野菜持って出てくる的な!」)をできる女の子の知り合いは彼女だけなのだ。
「うちにあるキーボード見せてあげるよ。」と言って、バスに乗って僕の家へ。
相変わらず、彼女は最高だった。円を描くようにクリトリスに触れるのが彼女のお気に入りで、セックスの快楽にたいして貪欲な彼女が素敵で、寝顔を眺めていると、愛おしい気持ちで心が暖かくなった。
)
このあともう一人と会う。
(
名目上の彼女。可愛くもないし、面白くもない。
僕は彼女のことを好きじゃなくて、どちらかといえば、孤独を紛らわすための道具だと思っている。彼女といるとなぜか僕は苛立ってしまう。この倦怠感を少なくない女の子が共感できると思う。
そういう女の子。周りの女の子を増えたら、きっと僕は躊躇なく彼女を捨てるだろう。そう、僕は冷たくて残酷な人間だ。
)
」
「馬鹿だなぁ。」
「頭が悪くなってる。仕事中に『あれ』とか言葉が全然出てこない。」
「このあとにもやるの?」
「いま空き時間。」
「ほんと、そういう仕事やったほうがいいんじゃない?」
「精子提供しますって?つか、ぶっちゃけ疲れた。今日会いたくない。」
「あー。」
「で、今度遊びに行かない?再来週の金曜。」
「九時からとかでしょ。」
「いや、オールで。クラブ。」
「頭悪くなっちゃう遊びだぁ。」
「一緒に行く女の子がいて、男友達連れてくから、そっちも友達連れて来なよ、って。」
「ちょっと待って。予定確認する。」
向こう側で友達が予定を確認している。僕はこちら側でノートPCを開く。
「空いてる。」
「次の日は予定ある。」
「予定ない。」
「オーケー。また連絡するよ。じゃあ。」
「じゃ。」
電話を切った僕はこの文章を書いている。
「人は真実を知らないほうがずっと幸せだ。少なくともほとんどの弱い人間にとっては、真実は重荷でしかない。」
その書き出しから、のどかの長編小説は始まっていた。
小説の序盤は一人の男が韓国の貧民街から違法入国した大男が成功について。
中盤はその男が血の繋がりの無い二人の女の子と、実の息子を得るに至った経緯と、二人の女の子と後見人になった男の話。
(その息子の母親について小説では触れられていない)
終盤は、二人の女の子が支配的な環境から逃げ出す話。
ここで『Fine Romance』の上巻は終わる。
下巻は、後見人になる男がいかにして、大男(父)に取り入って成功し、
そして、なぜ男がわざわざそのレコード会社を手に入れようとしたかの話になる。
フルカワの恋の話。
学生の頃にクラブで見つけた女の子に恋に落ちる。
金のないことや、相手には成功したミュージシャンの彼氏がいて結局恋は実らない。
落ち込んでいたところにアルバイトを見つけてシロの父親の会社の求人をみつける。
最初は社長とは接点の無い部署で働いていたが、ドライバーの職を得て気にいられる。
仕事ができることを認められ、(その数々のエピソード)相談役になりその頃、司法試験にごう合格する。
ある出来事で憧れがシロの父親にバレる。
そこでシロ(父)にその女の子のマネージする仕事を任される。(作者はこれをシロの父親の悪意として書いている)
期待を持ちの仕事につき恋人との再会を果たすが、間もなく彼女が政治家やマスコミの役員などに愛人として身体を売っていることを知る。
(このあたりのシロ(父)とフルカワの言い合いは小説の最大の見せ場だ)
フルカワは絶望し、失踪するが、見つかる。
シロの父親に打ち明けられる。女の子を二人預かっていること。
(その女の子達はシロ(父)が良く使う高級な会員制の売春の店に残された名もない子供達だ。
文章ではこのあたりは信じられないくらいあっさり書いているけれど、考えるほどタフな内容だ。
なぜならシロ(父)も同じように貧民街で両親を持たず育ったからだ。)
自分がガンを患っていて、周りには信頼できる人間がいない。遺せるものについて話す。
そして、今フルカワは新しい形で夢を手に入れたが、だがそれでもフルカワは立場として手に入るかつての恋人を自分のものとはしようとしない。
夢を失って、それ幻影であることを理解しながらも、諦めるられないままでいる。
そして、同時に、いまアイドルを目指す女の子と愛人でいること。もう信じられるものない。
物語の最後、フルカワは新しく知り合った若い友人(これは僕とムラハシをミックスした人物を作り上げたキャラクタによって行われる)に、
自分がかつて持っていた幻想を見出して、それを壊そうとするところで終わる。
その夜、のどかと僕は『真実』について話をしていた。
ひとは本当のことを知るほうがいいのか、知らないままでいたほうがいいのか。
僕は後者の立場を取り、彼女は前者を選んだ。
「いろんな連中が自分を騙す瞬間を何度も見てきた。」
そう僕は言った。いくら酒を飲んでも酔わない夜だった。
「何かを隠されたまま生きてことは損だと思うの。別に善悪の問題じゃなくてね。」
「知って損することもあるんじゃないかな?」
「例えば?」
「好きなひとが別の異性と浮気してるとか、死んだら’何も無い’っていうこととか。」
「そんなの気付くに決まってるじゃない。」
「気付かない連中もいる。」
「私、そんな無神経な連中耐えられないわ。」
「自分にとって不都合なことに目を向けようとしないのは誰だって同じだし、それは本能みたいなものだからどうにかなるものじゃないんじゃないかな。」
「でも、だとしたら、その本能を利用しようとしたら、利用としようとするやつの言いなりじゃない。」
「そうかもしれない。」
のどかは腕を胸の下で組んで斜め右下のあたりを睨んでいた。
僕はこう付け加えた。
「でも、どっちが悪いってわけじゃないんだ。騙されるやつは嘘を必要としているし、騙すやつだって与えてほしいことが分かってるから。」
「なんで虚構と欺瞞が必要なのかしら。」
「弱いからだよ。強く現実的であろうとするより、弱いままで怠惰でいるほうが損をするとしても楽なことだから。君はどう思う?」
「想像力の問題だと思う。」
腕を解いて彼女はテーブルの上に人差し指で線をひいていた。
「ねぇ、小説は嘘じゃないの?」
「嘘よ。でも、それは真実なのよ。宝石のようなもの。岩石を削って形を整えた本質が真実なの。」
僕はこんなこと話をしていてもキリがないと思った。
「そんなことよりゲームをしようよ。」
「いいよ。」
「じゃあ今日は『使ってると知的っぽい言葉。』」
「『スキーム』」
「『モダン』」
「『ロジック』」
「知的っぽい言葉といえば村上春樹の新しいの読んだ?」
いつも通り彼女の思考の飛躍と、唐突さに呆れながらも僕は答えた。
「読んだ。」
「どう?」
「面白かったよ。」
「そう、確かに面白かったけど、でも、あの『パッシバ』がなんちゃらっていうところは最悪よね。」
僕は肩をすくめた。彼女は続けた。
「面白いのは認めるわ。少なからず影響も受けたしね。でも、やっぱりあのインテリ気取りの部分が耐えられないの。」
「実際にインテリなんじゃないかな。」
「絶対に本人は認めないんじゃない。私、小難しい言葉を使って自分を良く見せようとするのって、いっつもダサいって思うの。」
「そこに置いてある君のプラダだって同じだよ。」
「これはただの商品よ。」
「小説だって、デザイナーがいて、生産があって、宣伝がある。モダンでロジカルなスキームに支えられた立派な商品だよ。」
僕も彼女もむきになっているのは分かったけど、彼女と議論ごっこをするのは飽きないので続けた。
「でも、洋服やバッグは買った人間をよく見せるものでしょ。作家が自分自身を飾るために物語を書くなんてちょっと不誠実だと思う。」
「洋服デザイナーだって、ショーの最後に出て顕示欲を満たす。」
僕はビールを飲み干して付け加えた。
「君にはきっと、色んな内心の規則が沢山あって、それには、小説かくあるべし、とか、人間かくあるべし、とか、そういうのが沢山あるんだろうね。」
「スノッブの作者が気取って書いた小説を、スノッブな読者が喜んでそれを読むのってちょっと気持ち悪いの。」
「まぁ、彼の小説を貶す人達の嫌悪感を言葉にしたら、まさにその通りだろうね。でも、ほとんどの人間にとって創作に触れることは少なからずファッション的なものだよ。」
「自己表現。」
「そう。誰かが作ったものを選び取ることが表現なんだよ。」
「その自己表現だって盗品だと思うの。」
「創作する者にとっての常識だよ。」
「じゃあ、まとめるとこういうことよね。盗作の継ぎ接ぎで出来た作品を、購入者が自己表現として身に付けて、作者とエゴを擦り合わせて快楽を得る。」
瓶からビールをグラスに注いで、僕は彼女のグラスにも注いだ。
「むかし、友達が芸術作品の展示をしていて、僕はその作品の一部を盗んだんだ。トイレの水が流れるところに転がってる透明なクリスタルもどき。」
ビールを飲む。この商品はシンプルだ。飲めば気分が良くなる。それだけだ。
「それをポケットいっぱいに詰め込んで会場を出ようとしたときに、出口の脇にあった照明のスイッチのすぐうえに小指の爪くらいの大きさのシールが張ってあったんだ。
真っ赤な色の象のシール。真っ赤な象なんて見たことないだろ。鳥肌が立ったよ。だって赤色の象だぜ?たまんないよな。
その象をシールを剥がして(千年の呪いから解き放つように)、安っぽいクリスタルもどきを一つポケットから取り出して張ろうとしたんだ。
そうすると、展示をしていた人達のなかのひとりの女の子が来て、僕は叱られたんだ。
でも、だからって自分のやったことが、自分以外の人間にとってはただの盗難だなんてことは分かってるし、罰は認めるよ。ただ、罪を認めるつもりはないけどね。」
「そのクリスタルを使った作品ってどんな作品だったの。」
「そんなことどうでもいいよ。」
その時になって急に自分の大人げなさに気付いた僕は話を逸らした。
「うちに来なよ。小説よりもアートよりもファックのほうがずっと良い。」
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