書くことについて。書くこと。文章を書くこと。前に進むこと。誰にも知ることのできないことを知りたいと思うように、前に進もうとするように、真っ暗な無の中を切り裂くように、言葉を松明として、僕は前へ進む。誰もいない。時間は進む。世界を捉えること。僕は時々、自分以外が誰も存在しない、全てが僕の想像の中にしか存在しない、ただ、僕は、僕自身が眠っていて、これは長い長い長い夢なんじゃないか、と、思うことがある。夢の中の出来事。僕が生まれて間も無く、僕の最初のころの記憶、僕は恋をしていた。髪の毛がくるくるとした茶色い目をした女の子に恋をしていて、彼女が僕に保育園の裏で「エッチごっごしようよ。」と持ちかけたのだ。僕はどうすればいいのか知らなくて、彼女の股ぐらに手を突っ込んで、その匂いを嗅いで満足していた。彼女も満足していたように思える。そのあと僕を夢中にさせたのは、幼女の股の匂いではなくて、世界中の国旗が載った国旗のカタログだった。字も読めず一日中それを読んでいた。いま僕は夜の渋谷のファミレスでこの文章を書いている。松明。終電はとっくに過ぎている。前に進むのみだ。小学校に上がる。字を覚えるのが同級生に比べて遅かった。小学校3年生の頃、漢字で自分の名前を書く連中さえいたなかで、僕はひらがなですら自分の名前を書けなかった。その頃、僕が夢中になっていたのは、ファミリーコンピュータのキャラクタに無理矢理長い手足を生やした自家製のヒーローだった。僕は周囲の誰にも興味を示さなかった。そのヒーローのバリュエーションは絵描き帳に増えていった。僕が好きになった人はそのときとても有名な人になっていて、彼女が僕を知ったのは彼女が有名になったからだ。夕暮れに紛れて彼女がいる場所に向かう。彼女は話す。僕に向けて、ではないだろう。彼女はその他大勢の人たちに向かって語りかけるのだ。僕は彼女のことを知りたいと思うけれど、彼女は別に僕には興味は無いだろう。********************************例えば、仮に彼女が僕を知っていたとしても、僕は彼女にとっての何者かには成れないだろう。だから、僕はこうして、タイプし続ける。彼女がもしこの文章を読むとしたら、僕はとても幸せだ。僕の言葉は彼女の脳内で想念として浮かびあがり、ひとつ、ひとつ、とシワを作るのだ。彼女の中で僕の言葉、僕の分身とも言える言葉が、彼女のなかで生きつづけるのだ。********************************その文章を僕は書いて、ブログのひとつの記事として投稿した。これじゃあ、まったくのストーカーだ。変態だ。お前は名もないただの一人の男だ。とはいえ、彼女の言葉だって、それはほんの少しの人たちだけの頭の中のシワだったじゃないか?そうだろうよ。でもな、お前は彼女の様に有名になるような才能があるのかい?ロマンチストを気取ってるだけ、そんなのただの1人善がりじゃないか。そうかもしれない。でも、そうだな、近付きたいと思うのは間違っているかい?僕は確かに彼女にとっても何者でもないし、才能の無い、彼女が興味を寄せるような人間じゃない。でも一瞬でもいい、彼女の心に触れることができるなら。会場に着くと、彼女の言葉を脳に刻まれた人達が沢山群がっていた。そうだ、お前はこいつらの一部なのさ。彼女が眺めて通り過ぎる景色の一こまだ。受付で入場料と彼女が書いた本の代金を払って整理券を受け取る。彼女はまだ会場に表れない。

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