書くことについて(仮) 4/100
2008年4月19日 コミューンと記録メモと書くこと舞台(と言っても、階段一つ分上がった程度の高さの。)の上に二つ椅子が置いてある。鬚を生やして黒い丸縁の眼鏡をかけた猫背の40才くらいの男と、もうひとり髪が長く、大きな目をした女性が入ってきた。前者は有名な翻訳家で、僕の気に入った現代の小説はほとんど彼が手がけている。石川、という名の翻訳家だ。後から入ってきたのはヤマシタという名の小説家で最近有名な文学賞を取った。小説を書く様には見えない容姿で、1と2の観客は皆彼女を目当てに来ているのだろう。椅子にかけるに二人がかけると、さっきまでの泡のような客席の声が聞こえて、マイクを持った二人に空間は支配された。そっと、横目で隣に座る女性を眺める。彼女は1だろうか、2だろうか。どちらでもないように思える。対談が始まってから、隣の彼女は、ヤマシタのほうを睨む、睨むと表現したら強すぎるだろうけれど、彼女の顔の子細を調べ上げるように目を細めて見ていた。対談の内容は僕は覚えていない。隣のその人が僕の手に手を添えて、それが終わりまでずっと続いたからだ。そのあいだ、僕は意識が飛ぶように昔見た夢のことを思い出していた。僕の秘密の、誰にもまだ知られていない場所の話だ。真っ暗な部屋に僕はいて、目をつぶり、そして、暗闇の中で僕は彼女を待つ。死や不安、恐れ、孤独、惹きつけられずにいられないものを目の中に持った少女を待っていた。僕は彼女に魅了されていた。瞼の裏が真っ白な光に埋めつくされていく。眩しくて目を瞑ろうとして、そしてそれが叶わないことは分かっていた。身体中が暖かさを帯び始めた。頭の裏で画像が投影される。僕は遠く遠くの大西洋の北の奥にある、地図に載らない孤島、そこには打ちっ放しのコンクリートで出来たシェルターがあって、あらゆる肌の色をした人々が愛し合っている。真っ暗な闇のなかにオレンジのライトがあって、そこに人の肌の端が照らされている。僕は茶色と灰色と緑色が複雑に混ざった感情を持つ女の子を抱いている。彼女と僕はゆっくりとお互いの身体を揺らしながら座り、抱きあい互いの深い心の中に触れようとしていたが、僕たちはお互いの孤独を理解していた。僕は眠りながら、意識が覚醒して、部屋のなかにいる自分を感じとった。僕の意識がその四角い4畳の部屋に浸透していく。木製の100cmのスピーカーのうえに意識を吊るすこともできたし、自分で印刷した部屋一杯に張った(繋ぎ合わせるように張ったのだ。)ムンクの『太陽』のポスターの裏側に居ることもできた。彼女が僕の前にいた。真っ黒な長い髪を掻きわけ、大きな目で吸い込むように僕をじっと見つめた。不安と恐怖に囚われながら、僕は彼女の前から動くことができなくなった。突然、部屋のドアに鍵を差し込む音が聞こえ、僕は目覚めてしまう。目を開く。ドアも開いた。対談が終わると、僕は意識を取り戻すと、隣を向いて、彼女のことを見た。彼女は眠っていた。少年のようにも見える顔立ちで、少女のようにも見える顔立ちだった。
「5分後より、サイン会を行います。」とアナウンスされた。席を立つ人、会話をする人、一息ついて飲み物を飲む人、手元にあるヤマシタの新作の本の表紙を眺める人(無表情だった)。手をそっと離して、サインを済ませ(流れてくる牛を解体するようサインを書く作業は淡々と済まされた。)席に戻るとその女性はいなくなっていた。彼女のいた席には今回のサイン会が置いてあった。サインが書かれるはずの裏表紙には名刺が挟まっていた。夜、部屋の机の上に、その本と名刺を置くと気分が浮わついて、なんとなく携帯電話を開いて、女の子に電話をかけた。その女の子について。彼女と出会ったのは新宿の小さなクラブで、彼女はだいぶ酔っ払っていて、あとで彼女が説明すると仕事のノリだったらしい(渋谷にあるハプニングバーで『陰核』という店。)。酔っ払った彼女はなんの流れそう言ったのか僕は忘れたけれど、「でも、わたし、締まりいいよ。」と言って、その夜が明けて、酔った彼女はクラブの外のコンビニエンスストアのトイレで嘔吐していた。余談だけれど、彼女と一緒に遊びに来ていた、彼女と同じ新宿の服飾の学校に通っていた女の子はその夜知り合った男と付き合って、処女をその男に奪われる。その友達は彼女いつもの彼女かの豹変ぶりに驚いていた。学校ではクールに振る舞っているらしい。彼女が『陰核』で働いていることをその友達は知らない。2週間後の夜、僕は恵比寿のカフェのイベントにいた。その日はイージーリスニングをかける、ゆったりとした雰囲気のイベントだった。その店のオーナーの夫婦が赤ん坊を連れて、店に入ってきたのと同じタイミングで僕は店の外に出て、彼女に電話を掛けた。いつものように6コール目で彼女は電話に出て、ざわついていた向こう側、新宿カラオケボックスの一室を出た。飲み会の2次会で、彼女はその日、いつもと違うギャルの格好をしていたらしい。していた、とするのは、彼女にその夜会わなかったからだ。だいぶ酔っ払っていて、少し寂しかった僕は、彼女に「会いたい。」と伝えたけれど、結局お互いの腹を探り合っているうちに、どうでも良くなって電話を切った。それからしばらく経って、僕が彼女と話したとき、彼女は落ち込んでいた。たしか、彼女が実家に戻った夜だったと思う。僕は自分の部屋で毛布に包まっって、携帯電話をぎゅっと耳に押し付けて、彼女を近くに感じようとした。彼女が小さな、弱い声で話しはじめて、彼女の昔の恋愛について。それから彼女の家族の事情について。僕は彼女に「触れたい。」と言った。それは、物理的な意味ではなくて、彼女の一番、最も根本的な意味で。その晩、彼女とどこか遠くに行く約束をした。果たされないまま、昨日の夜に彼女に電話をした。「沖縄に行ってきたの。」「どうだった?」彼女は現地の男と寝た。僕はそれを聞いて愕然とした。彼女は僕との約束をふいにしたのに、偶然知り合った男と寝るのは簡単なのだ。少し悲しくなって、僕はすぐに電話を切った。
ビールを空けてテレビを付けるとデブのアイドルグループが歌っていた。グループ名は『カロリーメイツ』。ベッドに入って、瞼を瞑ってしばらく考えていた。今日のあの人は、眠る表情は、フリで、実は起きていたんじゃないのか、と。明け方悪夢(起きてからは悪夢だとは思えなかったけれど、その最中は身体が真ん中から捻る切れるような苦しみを感じていた。)カロリーメイツのセンターのポジション(衣装が赤いのでここで’赤’とする。)、赤が肉を食っている。焼き肉屋で、周りには僕と赤だけで他には誰もいない。店員すらいない。薄暗い地下にいた。僕たち以外だれもここにいることを知られていない。僕は抜け出せないようだった。赤に閉じ込められているのだ。赤は肉をひたすら食べている。僕はそれを止めようとするのには、彼女はまったく意に介さずにひたする無心で肉を食べている。肉肉肉肉肉野菜を5時間前からずっと繰り返している。起きてから、僕はそのコミカルさを笑ってしまったけれど、実際、そのとき僕はおそろしかった。まったく、あの姿や目つきは狂人のものだった。圧倒的食欲パワー。その夢のなかで彼女達に作った曲は僕が作ったことになっていた。世間を評価した理由が僕にはそのときまだ分からなくて、僕は真っ赤な(ドス黒い、凶々しい淀んだ血のような赤だ。)ドレスを着た赤に訊いた。「なんであんなに君たちの、僕が作った曲は売れたんだろう。」肉肉肉肉肉野菜の肉肉肉のあたりだった思う。打ちっぱなしのコンクリートと配管剥きだしになった天井を仰いで、そして、こっちを好色な目つきで、僕の身体全身を舐め回すように言った。「みんな傷ついてるのよ。知らなかった?」「僕だって傷ついてる。」彼女が僕のさらの上にハラミを、鉄板から移した。「でも、俺は...。」、「あなたはそれを食べるべきよ。」さらの上に乗った、彼女のドレスと同じ色の食肉。死んでいった動物達、彼らも傷つきそして、自由になれないことを知っている。僕が昨日、世界が終わるその瞬間に巨大化した太陽に照らされる大地のような道路を歩いていると、電信柱に結ばれた首輪を嵌めた犬は、自らの尾を追い回して、そのことに気付きながら、それでもやめずにひたすら、ぐるぐるぐるぐるぐる回り続け、そしてそれは、彼はそれを死ぬまで延々と繰り返すのだ。彼らは声を知らなかった。それを死ぬまで繰り返すことを知っていた。知っていたが、それをやめることはできなかった。言葉を知らず、そしてひたすらそれを繰り返し続けることで自らを表現していた。そう、僕たちは救いを求めていた。
彼女の手元には煙草の箱が置いてあった。煙草は心理学では現実の象徴だと、大学で心理学を学んでいる女の子(彼女は今看護師の仕事をしている。別れるとき、彼女は「あなたは’誰にも’興味を持てない人間なのよ。」と告げられた。)が僕に教えてくれた。僕の父親が脳溢血で倒れた原因の一つは過度の喫煙だった。僕は16才のときからアルバイトした金の半分は、家庭に入って、もう半分は煙草会社の株式に充てられた。
机の引き出しから煙草とマッチ(麻布にあるSM専門のラブホテルのものだ。)を取り出して、火を着ける。PCのスイッチを入れて煙を肺に入れて、それから吐き出して、せきこんだ。画面を覗き込んでカロリーメイツと打ち込んで検索して、彼らのプロフィールを眺める。現実、現実。赤の写真を何枚か眺めて、夢のなかでみた女の子の顔を思い出したけれど、まったくの別人、別人格だった。そして、ここに映る赤の顔をどこかで見たことがあることに気付いた。しばらく画面の前で腕を組んで考えてから、諦めて煙草の火を消して、PCの電源を落とした。
明け方、真っ暗な部屋でのどかの唇を唇を合わせると、彼女のキスのしかたがまた変わったことに気付いた。そのことで理由が解からない劣情に駆られて、腰から肩にかけて身体をさすった。弓のように伸びる背中、肩から胸に、手を滑らせて、彼女の胸を指で掴んだ。彼女の乳首を指でこすると、腰がびくっと反応して、唾を指にからめてから、こすると人形のように腰を何度も跳ねるように反応させた。右手で彼女の股の間に手を入れて、クリトリスを触ると、身体を捻るようにして、抜け出そうとしたので、彼女の胸をベッドに押し付けるようにして押さえつけた。爪を立てて彼女を触れると、動物が死ぬ間際に出す声のようにあえいだ。弾くほど大きくなっていく。彼女を四つん這いにさせて、尻を突き出せて2本指を入れる。彼女の奥まで指を伸ばして、それから彼女の口から涎をかき出すようにして、何度も往復させると、指が彼女に握られた。指をもう一本入れると、彼女は自分の指を加えて、涎を流した。彼女の中をこすりながら、左手で彼女のクリトリスを指を爪で挟むと、指がぎゅっと握られたので、奥から手前に筋が通る部分をこすりながら、爪で引っ掻くようすると、やがて彼女は果てた。彼女の中に僕が入ると、彼女は動物のような声をあげて、クリトリスをこすりながら彼女の奥を小刻みに動かすと、朦朧とした声で懇願した。ベッドの上の時計を眺めるとam4:07を示している。彼女の匂いがして、きつくなると、彼女がもう一度果てて、中から熱い液体が流れだした。鼻をさすような、強い匂いがして、男は女の中に出した。
朝起きて、朝食(目玉焼きを挟んだトーストに、ヨーグルト、野菜スープ。完璧だ。)を食べて、白いシャツに黒いパンツ、2年前から履いてるテコンドーシューズを履いて、僕は家を出た。電車を二つ乗り継いで、海に沿って走るローカル線を5駅分乗って、無人の小さな駅の改札を出て海の匂いを嗅いだ。いつもの道を辿りながら、あちら側とこちら側について考えていた。僕が最近書いた小説の場面の一つに、動物園で恋人と歩く主人公が見た檻のひとつでは、片方の檻ともう片方の檻が接していて、ワラビーと鹿が檻越しに口づけを交わしていた。言葉を探している。記憶は時間軸を持つのが苦手だって、脳の権威の学者が話していた。そこで感じたこと。懐かしいあの感覚。隣で喋っているカップル。彼らの会話は彼氏の靴について評している。30cm。僕が昔好きだった女の子は靴屋の店員で、彼女と話すためにその店に通い詰めて、その結果手に入れた5万円の茶色の革靴。靴屋で手に入ったのは靴だけだった。小さな赤ん坊は母親に揺すられて、心地よさそうな声をあげている。その母親の目の下に少し隈があって、まだ周りの女の子が遊んでいる頃に子供ができて、といった風だった。その車両に乗りあわせてたのは、白髪の老婆と、受験道具のようなものを膝の上に置いた神経質そうな眼鏡をかけた小学生の男の子だけだった。春の穏やかな陽射しが、窓を通して、電車を右から左へ突き抜けていた。僕はその時大きく息を吸い込んで、それから3万年くらいの時間をかけて吐き出した。橋を越えるとき、川から反射した光が眩しくて、目を細めた。そのときに、僕はその母親に抱えられた赤ん坊と同じ感覚を味わった。圧倒的なポジティブな感情の波が身体の端から端まで伝わった。それから僕はあの女の子のことを思い出した。言葉にできないことを言葉で伝えることは難しいけれど、僕は試そうと思う。それだけの価値があるのだ。まばたきをしたその100分の1秒の間に悪魔が僕の前に浮かび上がって消えた。江ノ島電鉄で、僕は言葉を知らない女の子、ジーニの物語を思い出していた。
「5分後より、サイン会を行います。」とアナウンスされた。席を立つ人、会話をする人、一息ついて飲み物を飲む人、手元にあるヤマシタの新作の本の表紙を眺める人(無表情だった)。手をそっと離して、サインを済ませ(流れてくる牛を解体するようサインを書く作業は淡々と済まされた。)席に戻るとその女性はいなくなっていた。彼女のいた席には今回のサイン会が置いてあった。サインが書かれるはずの裏表紙には名刺が挟まっていた。夜、部屋の机の上に、その本と名刺を置くと気分が浮わついて、なんとなく携帯電話を開いて、女の子に電話をかけた。その女の子について。彼女と出会ったのは新宿の小さなクラブで、彼女はだいぶ酔っ払っていて、あとで彼女が説明すると仕事のノリだったらしい(渋谷にあるハプニングバーで『陰核』という店。)。酔っ払った彼女はなんの流れそう言ったのか僕は忘れたけれど、「でも、わたし、締まりいいよ。」と言って、その夜が明けて、酔った彼女はクラブの外のコンビニエンスストアのトイレで嘔吐していた。余談だけれど、彼女と一緒に遊びに来ていた、彼女と同じ新宿の服飾の学校に通っていた女の子はその夜知り合った男と付き合って、処女をその男に奪われる。その友達は彼女いつもの彼女かの豹変ぶりに驚いていた。学校ではクールに振る舞っているらしい。彼女が『陰核』で働いていることをその友達は知らない。2週間後の夜、僕は恵比寿のカフェのイベントにいた。その日はイージーリスニングをかける、ゆったりとした雰囲気のイベントだった。その店のオーナーの夫婦が赤ん坊を連れて、店に入ってきたのと同じタイミングで僕は店の外に出て、彼女に電話を掛けた。いつものように6コール目で彼女は電話に出て、ざわついていた向こう側、新宿カラオケボックスの一室を出た。飲み会の2次会で、彼女はその日、いつもと違うギャルの格好をしていたらしい。していた、とするのは、彼女にその夜会わなかったからだ。だいぶ酔っ払っていて、少し寂しかった僕は、彼女に「会いたい。」と伝えたけれど、結局お互いの腹を探り合っているうちに、どうでも良くなって電話を切った。それからしばらく経って、僕が彼女と話したとき、彼女は落ち込んでいた。たしか、彼女が実家に戻った夜だったと思う。僕は自分の部屋で毛布に包まっって、携帯電話をぎゅっと耳に押し付けて、彼女を近くに感じようとした。彼女が小さな、弱い声で話しはじめて、彼女の昔の恋愛について。それから彼女の家族の事情について。僕は彼女に「触れたい。」と言った。それは、物理的な意味ではなくて、彼女の一番、最も根本的な意味で。その晩、彼女とどこか遠くに行く約束をした。果たされないまま、昨日の夜に彼女に電話をした。「沖縄に行ってきたの。」「どうだった?」彼女は現地の男と寝た。僕はそれを聞いて愕然とした。彼女は僕との約束をふいにしたのに、偶然知り合った男と寝るのは簡単なのだ。少し悲しくなって、僕はすぐに電話を切った。
ビールを空けてテレビを付けるとデブのアイドルグループが歌っていた。グループ名は『カロリーメイツ』。ベッドに入って、瞼を瞑ってしばらく考えていた。今日のあの人は、眠る表情は、フリで、実は起きていたんじゃないのか、と。明け方悪夢(起きてからは悪夢だとは思えなかったけれど、その最中は身体が真ん中から捻る切れるような苦しみを感じていた。)カロリーメイツのセンターのポジション(衣装が赤いのでここで’赤’とする。)、赤が肉を食っている。焼き肉屋で、周りには僕と赤だけで他には誰もいない。店員すらいない。薄暗い地下にいた。僕たち以外だれもここにいることを知られていない。僕は抜け出せないようだった。赤に閉じ込められているのだ。赤は肉をひたすら食べている。僕はそれを止めようとするのには、彼女はまったく意に介さずにひたする無心で肉を食べている。肉肉肉肉肉野菜を5時間前からずっと繰り返している。起きてから、僕はそのコミカルさを笑ってしまったけれど、実際、そのとき僕はおそろしかった。まったく、あの姿や目つきは狂人のものだった。圧倒的食欲パワー。その夢のなかで彼女達に作った曲は僕が作ったことになっていた。世間を評価した理由が僕にはそのときまだ分からなくて、僕は真っ赤な(ドス黒い、凶々しい淀んだ血のような赤だ。)ドレスを着た赤に訊いた。「なんであんなに君たちの、僕が作った曲は売れたんだろう。」肉肉肉肉肉野菜の肉肉肉のあたりだった思う。打ちっぱなしのコンクリートと配管剥きだしになった天井を仰いで、そして、こっちを好色な目つきで、僕の身体全身を舐め回すように言った。「みんな傷ついてるのよ。知らなかった?」「僕だって傷ついてる。」彼女が僕のさらの上にハラミを、鉄板から移した。「でも、俺は...。」、「あなたはそれを食べるべきよ。」さらの上に乗った、彼女のドレスと同じ色の食肉。死んでいった動物達、彼らも傷つきそして、自由になれないことを知っている。僕が昨日、世界が終わるその瞬間に巨大化した太陽に照らされる大地のような道路を歩いていると、電信柱に結ばれた首輪を嵌めた犬は、自らの尾を追い回して、そのことに気付きながら、それでもやめずにひたすら、ぐるぐるぐるぐるぐる回り続け、そしてそれは、彼はそれを死ぬまで延々と繰り返すのだ。彼らは声を知らなかった。それを死ぬまで繰り返すことを知っていた。知っていたが、それをやめることはできなかった。言葉を知らず、そしてひたすらそれを繰り返し続けることで自らを表現していた。そう、僕たちは救いを求めていた。
彼女の手元には煙草の箱が置いてあった。煙草は心理学では現実の象徴だと、大学で心理学を学んでいる女の子(彼女は今看護師の仕事をしている。別れるとき、彼女は「あなたは’誰にも’興味を持てない人間なのよ。」と告げられた。)が僕に教えてくれた。僕の父親が脳溢血で倒れた原因の一つは過度の喫煙だった。僕は16才のときからアルバイトした金の半分は、家庭に入って、もう半分は煙草会社の株式に充てられた。
机の引き出しから煙草とマッチ(麻布にあるSM専門のラブホテルのものだ。)を取り出して、火を着ける。PCのスイッチを入れて煙を肺に入れて、それから吐き出して、せきこんだ。画面を覗き込んでカロリーメイツと打ち込んで検索して、彼らのプロフィールを眺める。現実、現実。赤の写真を何枚か眺めて、夢のなかでみた女の子の顔を思い出したけれど、まったくの別人、別人格だった。そして、ここに映る赤の顔をどこかで見たことがあることに気付いた。しばらく画面の前で腕を組んで考えてから、諦めて煙草の火を消して、PCの電源を落とした。
明け方、真っ暗な部屋でのどかの唇を唇を合わせると、彼女のキスのしかたがまた変わったことに気付いた。そのことで理由が解からない劣情に駆られて、腰から肩にかけて身体をさすった。弓のように伸びる背中、肩から胸に、手を滑らせて、彼女の胸を指で掴んだ。彼女の乳首を指でこすると、腰がびくっと反応して、唾を指にからめてから、こすると人形のように腰を何度も跳ねるように反応させた。右手で彼女の股の間に手を入れて、クリトリスを触ると、身体を捻るようにして、抜け出そうとしたので、彼女の胸をベッドに押し付けるようにして押さえつけた。爪を立てて彼女を触れると、動物が死ぬ間際に出す声のようにあえいだ。弾くほど大きくなっていく。彼女を四つん這いにさせて、尻を突き出せて2本指を入れる。彼女の奥まで指を伸ばして、それから彼女の口から涎をかき出すようにして、何度も往復させると、指が彼女に握られた。指をもう一本入れると、彼女は自分の指を加えて、涎を流した。彼女の中をこすりながら、左手で彼女のクリトリスを指を爪で挟むと、指がぎゅっと握られたので、奥から手前に筋が通る部分をこすりながら、爪で引っ掻くようすると、やがて彼女は果てた。彼女の中に僕が入ると、彼女は動物のような声をあげて、クリトリスをこすりながら彼女の奥を小刻みに動かすと、朦朧とした声で懇願した。ベッドの上の時計を眺めるとam4:07を示している。彼女の匂いがして、きつくなると、彼女がもう一度果てて、中から熱い液体が流れだした。鼻をさすような、強い匂いがして、男は女の中に出した。
朝起きて、朝食(目玉焼きを挟んだトーストに、ヨーグルト、野菜スープ。完璧だ。)を食べて、白いシャツに黒いパンツ、2年前から履いてるテコンドーシューズを履いて、僕は家を出た。電車を二つ乗り継いで、海に沿って走るローカル線を5駅分乗って、無人の小さな駅の改札を出て海の匂いを嗅いだ。いつもの道を辿りながら、あちら側とこちら側について考えていた。僕が最近書いた小説の場面の一つに、動物園で恋人と歩く主人公が見た檻のひとつでは、片方の檻ともう片方の檻が接していて、ワラビーと鹿が檻越しに口づけを交わしていた。言葉を探している。記憶は時間軸を持つのが苦手だって、脳の権威の学者が話していた。そこで感じたこと。懐かしいあの感覚。隣で喋っているカップル。彼らの会話は彼氏の靴について評している。30cm。僕が昔好きだった女の子は靴屋の店員で、彼女と話すためにその店に通い詰めて、その結果手に入れた5万円の茶色の革靴。靴屋で手に入ったのは靴だけだった。小さな赤ん坊は母親に揺すられて、心地よさそうな声をあげている。その母親の目の下に少し隈があって、まだ周りの女の子が遊んでいる頃に子供ができて、といった風だった。その車両に乗りあわせてたのは、白髪の老婆と、受験道具のようなものを膝の上に置いた神経質そうな眼鏡をかけた小学生の男の子だけだった。春の穏やかな陽射しが、窓を通して、電車を右から左へ突き抜けていた。僕はその時大きく息を吸い込んで、それから3万年くらいの時間をかけて吐き出した。橋を越えるとき、川から反射した光が眩しくて、目を細めた。そのときに、僕はその母親に抱えられた赤ん坊と同じ感覚を味わった。圧倒的なポジティブな感情の波が身体の端から端まで伝わった。それから僕はあの女の子のことを思い出した。言葉にできないことを言葉で伝えることは難しいけれど、僕は試そうと思う。それだけの価値があるのだ。まばたきをしたその100分の1秒の間に悪魔が僕の前に浮かび上がって消えた。江ノ島電鉄で、僕は言葉を知らない女の子、ジーニの物語を思い出していた。
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