ムラハシのことを好き(そう確信したのは、彼女がタニハシなんとかが昔プロデュースした女の子のことを好みだと、彼女に言ったとき、その次イベントに会ったとき(それはコスプレしてないと入れないという趣旨のイベントだった。僕は『寄生獣』のシンイチ君の格好(入口で「コスプレしてない」と、止められかけた。)をしていて、ムラハシは同じく『寄生獣』のミギーの格好をしていた。)、そのアイドルと全く同じ髪型をしていたからだ。彼女はとても可愛い。)な女の子を挟むような並び方で、僕はムラハシに挨拶して、それからビールを頼んだ。最近毎日酒を飲んでいる気がする。ムラハシがじっと睨むようにしてみていたいテレビに映っていたのは、ムラハシの好きなアイドルだった。どうりで。「あのアイドルのどこが気にいってる?」と、僕からムラハシへ。「昔好きだった女の子に似てるところ。」「どんな子?」とムラハシを好きな(半年前、ムラハシが偶然そのテレビに映るのアイドルとそのクラブで話したとき、その横で、彼女は突然僕とずっと前から親しかったといった風に酔ったフリをして抱きついたことがある。そのあいだムラハシはそのことに気付いてすらいなかった。)女の子。「うーん。説明が難しいね。現実離れしてる。人が思いつかないようなことをしてみせては、みんな驚かしてて、誰からも好かれてた。でも、目立ちたいとか、そういった風には見えなかったかな。.....顔が、似てるんだ。その子に。性格は似てないと思う。」ムラハシは、ウィスキーを一口飲んで斜め上45度の角度に吊るされてるテレビを引き続き見ていた。ムラハシのことを好きな(というのは、彼女もまたムラハシの好きな同じ色のウィスキーを飲んでいたからだ。)女の子はグラスを両手で挟んで、考えことをしているようだった。宙に浮く練習でもすればいいのかしら。カウンターから振り返ると双子の女の子と、ゲイの集まりと、原宿で美容師してますって感じの男と、そして、山下のどか、そう、現実離れしたほうの山下のどかがいた。彼女は笑って僕に手を振っている。なんてことだ。ムラハシとムラハシを好きな(映像を凝視するムラハシを凝視していた)を置いて、彼女のもとに向かった。
****************昔、僕が高校生の時に、講演に来た男は四肢を麻痺していた。首から下が動かない。彼は車椅子に乗って演壇に現れ、付添人が彼の車椅子の位置にマイクを合わせる。自己紹介を済ませ、いくつかの話をしたあと、彼が言ったセリフが今でも僕の中で何度も何度も繰り返されている。「夜、早く眠るようにしています。暗い考えはいつも夜に思いつきます。」と。夜中の3時、僕はこの文章を書いていて、もし自分が彼の立場に立つことを考えています。僕たちが語る不幸というのは、一種の前提の上に成り立っていて、それはあなたは触れたいと思うものに触れることができて、あなたは誰にも気をかけずにどこかに行くことができて、それから、山に登り、海で泳いで、夜になれば音楽にあわせて踊ることもあるかもしれません。恋をしたとき自分の立場というものを意識することがあるでしょうか。どこかで働きたいと思ったときに、それを断念する理由は私ほど深刻ではないでしょう。本当は、あなたが思っているほど、世界はあなたが思っているほど、辛い場所ではないはずです。少なくとも私には、あなたはそう望むなら、簡単に手に入れることが沢山あります。私の本棚のなかの一冊にこういった本があります。その小説の中の男は、どこにでもいる平凡な男で、故郷があって、そこには恋人と母親がいます。やがて戦争が始まり、他の多くの男たちと同じように彼も戦争に駆り出されます。いくぶんのためらいがあったが、国(そして、愛する人たちを)を守るため(という名目)に、従軍します。いくつかの戦闘があり、ある戦場で急襲され、一瞬のうち、その一瞬は彼にとって、人生を彼をそれ以前とそれ以後に分けます。数日間の意識の混濁を経て、気付いたとき男は地獄にいました。私は首より下を動かすことができません。あなたは自分が首だけの生き物になってしまったことが想像できるでしょうか?その男は地獄にいました。肩から下、腰から下、視覚?無い。嗅覚?これも無い。口は下顎が跡形も無く、耳は抉れている。男は何度も何度も何度もそれが夢であることを望み、眠りに付こうとして、それを幾度となく繰り返して、そしていつかそれを受け入れざるえなくなりました。彼に残っていたのは意識だけです。気は狂っていませんでした(私は彼の気が狂ってしまっていれば、救いがあったように思えますが。)。彼はベッドの上で感じる振動のみを頼りにして、その状況であれ、経験していきます。ある看護婦は彼のために涙を流して、クリマスの夜、男に寄り添うように眠ったこともありました。そして、物語のクライマックスで、男はひとつの情報の伝達手段を持っていることに気付きます。モールス信号です。男は身体全身で意識を伝えようとします。何度も何度も彼はそれらの意味することを解せず、気が狂っていると。しかし、それを諦めた瞬間に彼は伝達を失った死人に戻ってします。何度も何度も何度も、彼は試みます。そして、ついにそのときは来ました。男の元に表れたのは軍人です。そして、男は軍人にこう告げます。「俺を見世物にしろ。」と。そこには自由があります。彼は世界に出ることができます。自由をくれ。俺に自由を、くれ。ここではない場所に解き放ってくれ。軍人は「きみはなにを言ってるんだ?」と男に。そして男は絶望します。これが私の本棚にある唯一価値のある書物です。時計はam03:31を表示している。自由、自由、自由、自由。*****************************「もう会えないかと思ってました。」「そう?」「電話しましたよ。あの番号に。」「楽しかった?」「すこし怒るってるみたいでした。」手元にある赤い色のカクテルを飲みながら少し考えるように目を右上を向いた。「教えてほしいんです。あなたは誰なんですか?」「私は私よ。むかし読んだ文章に"人は全て環境によって作られた結果"っていうのがあったわ。」「それ、僕が書いた言葉です。」「そうね。じゃあ、私の考えの中にあなたの言葉が根ざしてるわけね。」「それも僕の文章です。」嬉しそうに彼女は笑った。ずっとこのまま彼女と居れればいいのに。ムラハシはモニタに映った少女を眺め続けていて、ムラハシを好きな(彼女はムラハシの気を引くためにムラハシの反対に立つ男と楽しそうに見えるように喋っていた。)女の子はいつものようにその位置から動かないままだ。「’山下さん’とは知り合いなんですか?」僕は彼女のことを何も知らない。「彼女のどこが好きなの?」「誠実なところが。」「容姿じゃなくて?」僕のブログに書いたのが、この山下のどかだとしたら、彼女には僕が褒めちぎっていたのがルックスだけだったことは知っているだろう。「あなたの書く物語が。」「どんなところが?」ムラハシはこっちを向いた。ムラハシのことを好きな女の子はいまや反対側の男(職業が何か検討がつかない)の腰に手を回されている。「視点が好きです。世の中にあることはあることのままです。どこがでいつも何かが起こってる。例えば、」言いかけて、彼女の表情から、話を続ける許可をもらう。「例えば、あなたがチベットの密教の寺院を男と二人で詣でるために、えんえんと山奥をずっとずっと進みつづけています。隣には旅をともにするアメリカ人の男がいて、彼はipodを聞きながら登山をしています。その寺院はマスコミが一度も踏み込んだことの無い場所で、そこに辿り着いたとき、あなたはその場所にしか無い時間を過ごそうとします。礼讃を済ませて、辺り見回すと、僧侶が経を唱え、あたりにはお香の煙の匂いがしていて、食事をとっていると、ふと、さっき同行者のポケットから垂れ下がったイヤフォンに目が止まって、それを聴くと、マイケル・ジャクソンがシャウトしてる。」僕はハイネケンを一口飲んで酔いが進むのを感じた。’山下’は僕の話のまとめを待っていた。「つまり、あらゆる場所があり時間があり出来事があり、そういった物事の全てをまとめあげようとしてるような、あなたの物語が好きなんです。」彼女は深く頷いた。
ある種のバイタリティーのようなものを考えるときに、僕はいつも自分を含む’人種’のようなものに触れてしまう。「生きていくの勇気なんて必要ない。」と断言した人を知っていて、彼女はやはり僕とは違う’人種’に含まれているように思える。いつも何かしらの不安を抱えて生きていくことを、僕は口にせずにはいられない。不安という名の獣が暗闇のほうから僕を喰い千切ってやろうと睨んでいるような、そういった不安。その方向に進むほど、それは後退りして、追い払おうとしても、それでも睨んだまま、いつか、いつかお前を喰ってやる、と唸っている。本当はそんなものは存在しないことを頭は知っている。知っているが、身体中がそれを意識させる。目隠しを付けられて、それでも手に入れようとしたものに裏切られて傷ついてしまったこと記憶なんかが。お前は恐れている。何を?人から見捨てられてしまうことさ。そんなことない。いや、お前は恐れている。大丈夫さ。どうかな、何度も何度も裏切る瞬間に立ち会ってきただろ。そう、お前がその引き金を引いていた。そうだ。間違いないよ。でも、僕はただ恋をしていたんだ。間違ってたかな?正しさなんて無いのさ。ただお前は幕の裏側を覗いた。そしてその代償を払ってるのさ。そんなもの本当は見たくなかったよ。お前が望んだことだ。そう、知ってしまったら、知らなかったときに戻ることはできない。答えろ、欲しいものはなんだ?醜い真実か?それとも、美しく脆弱な欺瞞か?僕はある種のバイタリティーについて考えるとき、彼らが持ち合わせない幻想を思い知る。そこには、ただ、ルールがあって、効率良くそれらが処理されていくだけなのだ。僕は彼らのグループにもなれなかった。だからといって、目をつむることもできなかった。「私はどこにもいないわ。」男は煙草の火を消して、答える「君はそこにいる。君のイメージは沢山の人の心のなかにコピーされていく。君の望んだことだろ。」「そうね。そうかもしれない。でも、彼らの目を見てよ。彼らは私にも、いや、もしかしたら、彼女の書いた物語にすら興味は無いのよ。」「そうかな。」「彼らの頭を開いてもそこには何も無いのよ。あいつら、狂ってるわ。」男はすこし微笑んだ。彼女がちょっとおかしくなったとき、いつも嬉しかった。「記号、記号、記号、そう、彼女も言ってたわ。あいつらは消費しているのよ。次から次に飽き足らず、ワイドショー、週刊誌、去年流行ったアイドルもニュースも覚えてないわ。」「君は、自分で、望んで、ここにいる。そしてこれからもずっとここにいようとしている。」次の煙草を取り出して火を付ける。そう、消費、そして、消費だ。彼女は苛立っているように見えた。どこまでいっても不誠実だったが、彼らほどではないし、ましてや僕とは比べようもない。僕は彼女のこういった弱さが好きだ。愚かに振る舞うことと、愚かでいることは、まったく別のことだった。「ねぇ、あなたは有名になりたいとか、思ったことないの。」「ここでこうやって君と話しているのがその結果じゃないかな...。心理学でそういう現象に呼び名がありそうだ。『欲求の代替処理』とか。」「私があなたの代替処理をしてるわけね。」「さて。....彼らの欲求を処理する時間だ。」二人は煙草を灰皿に押し付けて、女は控え室から出る。

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