彼女が差し出した薬のシートを受け取ると、また現実感覚を失ってしまった。「何の薬?」「ただの安定剤よ。」「合法?」「もちろん。医者が処方する薬。私身体がが弱いから。」彼女の身体はマッチ棒みたいだったし、色々な種類の痩せ方があるが、細かな仕草、目の動きや、少しでも考えが必要な返答があると、人差し指で親指の爪を引っ掻く癖なんかを見ていると神経質さと一緒くたになった種類の生まれつきの病弱な痩せ方だった。「普通、何錠くらい飲んでいいのこれ。」「一日12錠。朝昼晩で4錠づつよ。」僕が受け取った銀色の薬のシートは9錠あった。彼女から与えられる物なら僕は何だって飲み込めると思う。そのあと彼女はそのシートを2枚分飲んで、彼女が持ち合わせてる薬ケースに睡眠薬があるのか尋ねると3つ入っていて、彼女のせがんだ。錠剤はただの錠剤だ。「目がいやらしいわ。」「君だってそうだ。」「欲しいの?」「何が?」「なんだろう。」彼女の手に乗った3つの睡眠薬を手に取って一つを口に放りこんで、ビールで流し込んだ。「どういった育ち方をすれば、あなたみたいに躊躇わないでいられるんだろう。」残りの2錠を彼女の舌の上に指を乗せて、指に吸いつくのを感じながら口から指を抜いた。視界がぼんやりしている。ムラハシはバーのカウンターに埋まっていって、回りにいる客がオブジェに見え始めた。僕が2週間後、ムラハシから聴いた話では、僕は’山下のどか’の太股の付け根の近くを回りの客が見てる中でキス(控えめに表現して)をしていて、それから立ち上がって、座っている彼女に「この続きがしたい?」と訊いて、黙った彼女の手を引いて店を出て行った、というのだ。僕はそれがムラハシの嘘だと思ったが、向かいに立っているライナァ(それがその店の名前だった。)の店員は僕と目が合うと急いで逸らした。その日の朝、新宿の喫茶店で彼女がコーヒーを飲んでいるのを眺めていると、彼女はバッグからデジタルカメラを取り出して、僕の全裸の画像を見せてくれた。それが僕がその夜から朝にかけて覚えてることの全てだ。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索