「あなたは他人に興味が無いのよ。」17才で、そのころ僕が好きだった女の子にそう言われた経緯はこうだ。ある音楽グループを好きな共通の友人(友人というには因縁があり過ぎたけれど)がそのミュージシャンと知り合って、彼らはその距離を少しづつ詰めて、やがて彼らは友人になった。マイナーなパンクバンドだったが、音はただのパンクロックと評するには、音楽的過ぎた。そのロックバンドの作曲をしているベーシストと、そのベーシストの友人(その男もベーシストだった)、そして、彼女、以下’青’(何度目かのセックスで彼女が僕に尻を向けて、蒙古斑の青い斑点を僕に見せてくれた。「ねぇ、だから、まだ子供なの。」)、作曲をしないほうのベーシストの恋人だった(そして僕は彼女にとって二人目の恋人だった。)。彼ら3人と、さらに彼らの音楽のファンの二人の女の子、片方は少し太っていて、もう片方は背が高かった。僕を含めて6人のグループのひとりとして、僕を含めたままにしたかった青が、僕が約束を破って彼らの夜遊びに付き合わなかった夜、彼女は捌けなかったチケットのことで僕に怒って(そして面子を潰したことに対して)、それで、話が色々なごたごたを絡め取って、そして、最後に彼女は僕に「あなたは他人に興味が無いのよ。」と泣きながら言った。何度も人に話して回りたくなるような話じゃないけれど、僕が書きたくなったのは、そのとき、彼女が灰皿に煙草を押し付けて、マスカラごと涙を拭って、とても大きいけれど、頼りない、大人にどんなこと許させるような目で僕にそう言ったことを僕がこれは一生忘れないぞ、と決めたからだ。とにかく、僕はいまこうやって文章を書く理由も、そういったいくつもの忘れたくない出来事を再現するためなのかもしれない。再現させながら、僕が他人に持ったことがあるのかどうか、思いだそうとしている。僕は両親の誕生日も年齢も覚えていない。一度母親の名前を書き間違えたことがある。今も正しく書ける自信は無い。肉親以外、友人。これもいないわけでもないし、彼らからは概ね好かれていると思う。ただ、僕は彼らの簡単なプロフィールを覚えていない。他者。考え方を変えてみる必要があるかもしれない。君は人に興味を持てない。一般的、標準的、平均的、そういった水準に比べて僕の興味はまず間違いなく他者には向いてはいない。17才から4年経っているけれど、僕の興味はそのときから人間には向いていない。オーケー、じゃあ、人間性は?人間性。性格、性向、個人性。これは星座や血液型に比べたら、多少は、うまくいくかもしれない。自分以外の出現の無い物語は小説とは呼べない。ある翻訳家は自分の書いた小説をそう評した。私ではなくて、あなたや、彼や彼女、彼らに関すること。彼ら。彼らに関してなら僕は2人称や3人称に比べてもう少しうまくいくかもしれない。それとも、もしかしたら、僕は彼らと自分という二分割で世界を捉えているんだろうか。あなたがたと僕。僕は個人について語ることを恐れている。書くことは長い時間を簡単に圧縮して短いいくつかの言葉に変換できてしまう。例えば、こうだ。ある男が自殺した。彼は精神科医だった。これが脅威じゃないなら何が脅威なんだろうか。いや、それは日常的で慣れてしまった類の脅威だ。テレビを付ける。ヴェトナムで竜巻が怒って沢山の人が死にました。彼らヴェトナム人の死体が田んぼに転がっています。それは全線にいる大将にとっての数字や、補給される数、所有する武力の数になる。僕は他者の成り立ちやその失敗や憂いや微かな望みなんかを尊重したまま編み上げることなんてできないだろう。まるで、彼らのコミックキャラクター化を防ぐように、そう、でも、僕は書く必要がある。誤解であって、それから僕の勝手な解釈があって、物語の上を走ることを強制させることになっても、それでも存在しないよりかはずっといいだろう。覚えていてほしい。沢山の人が居た。彼ら(そしてあなたは)はいつか死んでしまう。簡単な数字以外は何も残さず、砂漠に消えたカルタゴの帝国のように。
酔った頭で僕は薬効の旅が終わるのを待っていた。タクシーに乗って、彼女はその魅惑的な世界に戻っていった。エレベータの無いアパートの最上階、7階で、メモに簡単な走り書きをして、それから、起きたはずの出来事の数々を想像していた。黒いボールペンで殴るように『書くことについて。書くこと。文章を書くこと。前に進むこと。誰にも知ることのできないことを知りたいと思うように、前に進もうとするように、真っ暗な無の中を切り裂くように、言葉を松明として、僕は前へ進む。』とだけ書いた。ドラマみたいだ。

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