プールでクロールで30往復したあと、いま’僕’は、横浜駅西口のスターバックスのソファに座っている。夜10時29分。イヤフォンでaphex twinのfingerbibが流れている。昨日見つけた昨日オンラインゲームをやっていると、自動で動くゲーム上の女性キャラクタが、二人の警官のキャラクタ(彼らも自動操縦だ)に殴られていた。警官に割って入って止めれば、その二人の警官は’僕’を排除すべき敵として認識するだろう。それに女性キャラクタを操作する他の誰かがオフラインにいるわけでもない。驚嘆してそれを眺めていると、僕はドストエフスキーが書いた一つの場面を思い出した。老いた貧相な牛が、飲み屋にいる男達に焚き付けられた持ち主が殴り殺そうとするシーンだ。ディスプレイ上の偶然に発生した場面を眺めていると、もう一人警官がやってきた。僕はその警官が取るべき現実の行動を考えたが、それを無視して、警官は二人の仲間に加わり、やがてその女性キャラクタは倒れて動かなくなった。警官達は画面上を移動していってどこかに消えた。僕はその場所に立って、じっと動かなくなった仮想の人物を画面一杯に写して、それから写った画面を記録した。老いた牛は何も抵抗せずに、口から血を流して、死にかけていたが、主人公は何もできず、それをただ傍観するだけだった。さっき、電車で目があった女性のことを僕は知っていた。彼女も僕のことを知っていた。それでも何も起こらず、出来事は通り過ぎて、いつか僕はその何分かのことを忘れてしまうかもしれない。黒目がちな髪の長い靴屋の女の子にはふられた。作文、作文。
’山下’はある点を越えて、疲れをバイタリティに変換していた。彼女の全身から全方位的に精力が発散されていて、獰猛な生き物のような目で「ねぇ、かけてみない?電話。彼に。」と言った。男はウィスキーのロックを一口飲んで向かい座った二人の女の子を比べていた。左側の女の子は背が高くて、髪が黒くて長くて、目はぱっちり開いていて、黒目がち、いつも何かに苛立っているように見えたし、それと同時に何かに対していつも怯えているようにも見えた。右側の女の子は髪が短くて、茶色がかっているけれど、無理矢理そこに黒を被せた色をしていて光の当て方で様々な色に見えた。中性的な顔だちをしていて、取り澄ましたような表情をすれば品を備えているように見えたし、少年のようにも見えた。ほぼ寂しそうにしている黒髪の女の子は男のほうを臆病そうに恐る恐る見て、それから視線を手元のサラダを乗せた皿に戻した。「かければ。」左の女の子のバッグから、ステルス戦闘機のような黒いツヤ消しの携帯電話をバッグを漁って、勝手に取り出した。山下は悲愴的な表情でサラダを眺めたままだ。なんで彼らはこれほど違っているんだろう。「ねぇ、この番号?」と右は左に訊いて、左はただこくりと頷いて溜息をついた。男は店員に水を頼んで、右は箸で魚の身をつまみながら、電話の応答を待っていた。

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