フルカワが僕に渡したDVDの片方は肺癌患者の病闘生活を丹念に綴ったドキュメンタリーで、もう片方は末期の癌患者が死に至るまでの1週間を撮影したホームビデオだった。フルカワのそういったところが僕は好きだったけれど、僕はそれを見ずに返しにいくつもりだった。
彼女は穏やかに寝息をたてていた。髪を撫でて、それから、僕はもう一度そのビデオのことを思案していた。結局それは誰かが受け取るパイの一部なんだ。税金を納めれば、それは巡っていって人の身体をグシャグシャにする兵器を買う金になるし、どこかの誰かが愛人に渡すバッグを買う金になる。想像力を働かせないの誰だってそうだ。彼らとの違いはそを働かせていないことに気付いている。そのぶんずっとマシだろ。少し考えてから、服を着て、連絡先と勝手に消えた詫びを書いたメモを書いて置いた。玄関の男物の革靴が下駄箱に収まっていて、想像力についてもう一度考えを巡らして、それから家を出ようとすると、彼女が廊下を夢遊病者のようこっちに歩いてきた。「勝手に行っちゃうんだ。」「そういうのが流行ってるんですよ。」彼女は下着ひとつ付けず、浅黒い肌と29才的なだらしなさが魅惑的だった。

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