書くことについて(仮) 19/100
2008年6月11日 コミューンと記録メモと書くこと彼女の部屋に入ると、ふらふらしながら彼女は冷蔵庫からオレンジジュースを出して、グラスに二人分ついだ。「寝てないんでしょ?」と彼女に訊くと「寝たくないの。」と答えた。彼女がトイレに行っている間、部屋を眺め回した。そこには雑誌から取り出したような無機質で明らかに高級な家具が配置してあった。それらの家具から彼女の人間性はほんの少しも感じとれなかった。クールに見られるという目的を達成するために的確に選ばれて、その目的を存分に達成した家具の一群は、今までのレールの沿った人生にほんの少しの疑いも持たないで済んだエリートのような自己満足的な高慢さがあった。そこにいると僕はとてもクールで退屈で堅牢な牢屋に閉じ込められている気分になった。彼女がドアのそばで腕を組んで僕を眺めながら何事か考えていた。「そういえば、......あなた仕事してるんでしょ。」「してますよ。まぁ、言うといつも説明が長くなる仕事なんですけど。」「つまらないこと聞いた。無しにして。」「いや、別にいいんです。」これで二つめの嘘だ。「カブトムシを育ててるんです。知ってますか?カブトムシのブリーダー。」彼女は組んだ腕の片方の手で頬に手を当てながら冗談か本気なのか真剣に考えているようだった。「なにそれ。」「カブトムシって、ほら、角が生えてる、「分かってるわよ。」僕は肩をすくめて話を進めた。「デパートの上の方であるじゃないですか。小学生が夏の自由研究で使うような籠入りの。あれを育ててるんです。山の中に小屋があって、その回りに動物園の檻みたいなのがいくつもあって、そこで3万匹くらい育ててるんです。」苦いものを飲み下したような彼女の表情が可愛くて、僕は作り話を続けたくなった。「で、出荷の時はその籠の中に入っていって、小さなほうの籠に詰めていくんです。避けては通りたいんですけど、なにぶん数が数だから、潰れちゃって。それで売る分の籠に詰めたら、山を降りてシールを張って。簡単な仕事ですよ。」彼女が難しい顔をしてるのを見て僕は満足した。「好きなの?カブトムシ。」「好きですよ。」それから、ダグラス・クープランドの一句を思い出した。『我々は昆虫のように振る舞っている』。
ムラハシが就職活動している時に、「どんな仕事がしたいのか分からない」と相談されて、僕が勧めた職業は2つあった。1.霊媒師、2.カブトムシのブリーダー、3.AV監督。彼はそのときあるレンタル屋のチェーン店でアルバイトをしていて、彼の勤めるその店舗は全国cチェーンでAVのレンタル数トップの店だった。そして彼はその店舗のAVコーナーの担当だった。
「私には耐えられないわ。」「価値観ですよ。」「なるほど。」彼女は納得したようで、シャワー浴びるとだけ行って部屋を出て行った。
彼女が再び居なくなった彼女部屋で僕は溜息をついて、それも悪くないと思った。本当にカブトムシの養育業者になるのだ。朝早く起きて、土から這い出したばかりの成虫をゼリー状の餌といっしょに檻に放りこんで、生存競争に負けたやつを檻から出して、電話を取ってどっかの昆虫問屋と世間話して(「もう、ほんとに最近は廃棄になるやつばっかりでね。」)、朝食を食べながら、ネットで希少種は儲かるかどうかなんてことを調べるのだ。悪くない。テーブルに載った雑誌を見ると何人もの素敵な女性が素敵な服を着て素敵な表情を浮かべていた。どうにか僕に判ったのは、僕はきっとこの腰かけている椅子と同じだってことだった。僕は交換可能で市場があり競争があり檻から出ることは出来ないということだ。そんなことを考えていると、僕は無茶苦茶なことを起こしたくなって、部屋を出てバスルームのほうに向かっていった。廊下でシャツを脱ぎ、洗面所でズボンと靴下を脱いで、洗面所と戸を開けながら下着を脱いだ。バスタブに浸かりながら、平然を装う彼女に向かって宣言した。「僕たちは昆虫だ。」カブトムシやクワガタも恋をしたりするんだろうか。僕は麒麟や象が恋をすることを知っている。麒麟のカップルは恋をするとお互いの首を交差させて気持ちを確かめる。雄の象は恋に落ちると雌の象の回りをぐるぐると円を描いて走り回るのだ。泡の立ったバスタブに飛び込んで、水中で彼女の臍のすぐ下あたりにキスをした。水面の上に顔を出すと、彼女は言った。「私も昆虫かしら。」彼女は泡まみれの僕の髪を手で拭ってくれた。彼女にキスをして僕は言った。「君は違うかもしれない。」馬鹿げてるだろうか。でも僕は構わない。
ムラハシが就職活動している時に、「どんな仕事がしたいのか分からない」と相談されて、僕が勧めた職業は2つあった。1.霊媒師、2.カブトムシのブリーダー、3.AV監督。彼はそのときあるレンタル屋のチェーン店でアルバイトをしていて、彼の勤めるその店舗は全国cチェーンでAVのレンタル数トップの店だった。そして彼はその店舗のAVコーナーの担当だった。
「私には耐えられないわ。」「価値観ですよ。」「なるほど。」彼女は納得したようで、シャワー浴びるとだけ行って部屋を出て行った。
彼女が再び居なくなった彼女部屋で僕は溜息をついて、それも悪くないと思った。本当にカブトムシの養育業者になるのだ。朝早く起きて、土から這い出したばかりの成虫をゼリー状の餌といっしょに檻に放りこんで、生存競争に負けたやつを檻から出して、電話を取ってどっかの昆虫問屋と世間話して(「もう、ほんとに最近は廃棄になるやつばっかりでね。」)、朝食を食べながら、ネットで希少種は儲かるかどうかなんてことを調べるのだ。悪くない。テーブルに載った雑誌を見ると何人もの素敵な女性が素敵な服を着て素敵な表情を浮かべていた。どうにか僕に判ったのは、僕はきっとこの腰かけている椅子と同じだってことだった。僕は交換可能で市場があり競争があり檻から出ることは出来ないということだ。そんなことを考えていると、僕は無茶苦茶なことを起こしたくなって、部屋を出てバスルームのほうに向かっていった。廊下でシャツを脱ぎ、洗面所でズボンと靴下を脱いで、洗面所と戸を開けながら下着を脱いだ。バスタブに浸かりながら、平然を装う彼女に向かって宣言した。「僕たちは昆虫だ。」カブトムシやクワガタも恋をしたりするんだろうか。僕は麒麟や象が恋をすることを知っている。麒麟のカップルは恋をするとお互いの首を交差させて気持ちを確かめる。雄の象は恋に落ちると雌の象の回りをぐるぐると円を描いて走り回るのだ。泡の立ったバスタブに飛び込んで、水中で彼女の臍のすぐ下あたりにキスをした。水面の上に顔を出すと、彼女は言った。「私も昆虫かしら。」彼女は泡まみれの僕の髪を手で拭ってくれた。彼女にキスをして僕は言った。「君は違うかもしれない。」馬鹿げてるだろうか。でも僕は構わない。
コメント