2006/06/26 20:30、この文章は渋谷サンマルクカフェで書かれた。僕は会社を終えて19時に五反田のオフィスを出た。この店に着いたのは19:45頃で、macBookで文章を書くための設定をさきほど(20:45頃終わらした。)終えた。文章を書くことは訓練が必要か。ノー!文章を書くことはとても簡単です。ABCのように簡単です。ドレミのようにシンプルです。
ドレミ、ABC、あいうえお。
ここにひとつのmacbookがおいてあります。これは表現です。そこには何がありますか?どのように表現しますか?あなたは何を喋りますか?あなたのことですか?あなたの好きなものですか?あなたの嫌いなものですか?あなたの友人ですか?家族ですか?恋人ですか?文章を書くことは簡単でシンプルです。僕は物語を書いています。なんのための物語かはまだ解りません。けれど、物語を書
くことは楽しいです。寓話の中に自分の会いたい誰かがいます。あなたの見たい何かがあります。あなたは有り得たはずの出来事をその文章のなかで想像し、創造します。
aaaaaaあいうえお
彼女が僕たちのそばに来たとき、彼女がひどく酔っていたことに気づいた。僕がビールを6杯くらい飲むとこんな感じになる。ロバに酒をバケツ一杯分飲ませてもこんな風になると思う。ひどく濡れた目をしていて、カウンターに来る10メートルの間にあれほど男に声をかけられた理由も分かった。強引に腕を引っ張っていけば、何かできるとでも思わせるようだった。ふらついたまま、ムラカワの腕に組み付いて、二の腕に噛みつくと、ムラカワが全身に針金を通したように動かなくなった。水泳選手のように、しなやかなムラカワの背中越しに彼女は僕にウィンクをした。今日ライナァに彼女が来るのを知っていたから、彼女に僕はごく最近発明して実践した斬新な異性へのアプローチの方法を彼女に伝授したのだ。急に無口になったムラカワの誕生日祝いだから、ということで、僕は店員(胸が大きく、それをいつも半分見せている。)にテキーラを瓶で頼んで、ムラカワのビールが入っていたグラスを飲み干して、ビールが入っていた量と同じだけ注いだ。目を見開いた以外の反応はしなかったので、「じゃあ、乾杯!」言って、僕たちは祝杯をあげた。
「動物園に連れて行ってほしいの。」紙ヤスリみたいにざらついた声で彼女は僕に言った。夜の12時過ぎ、部屋でWHOのタバコ規制に関する文章を翻訳しながら読み進めていると、電話がかかってきた。知らない番号からだったので、一度鳴らしたままにしておくと、次の着信は長く、執拗なものだった。元山下のどか、現無名の彼女が僕に自分の娘を明日の昼、上野動物園に連れて行ってほしい、と、僕は母親の名前すら知らないっていうのに。「なんでまた急に。」「仕事の都合上。」「それに君の、...。」「えっと...」「いや、君名前じゃなくて。せめて君の娘の。」僕はPCのウィンドウを閉じて、彼女の声に耳を済ました。紙ヤスリのような声というより、心を散々紙ヤスリで擦られたあとの声というほうが正確かもしれない。「ユキ。」「ユキ。」電源の切れたPCのディスプレイを眺めていると、真っ黒な液晶が不安そうな目つきをする男を反射している。「ねえ、こんなことを訊くなんて死ぬほど野暮だって分かってるけど教えてくれない?彼女の父親は?」画面に写った男を睨むと、僕を異常なほど憎んでいるように見えた。お前、俺、お前、俺。「離婚したわ。」電話越しにはっきりと断言した。ほんの少しの反論の余地もない。男はすがるような表情になってこっちを見ている。でも、君のことはどうしようもできないんだ、許しくれ。「そうよ。あの子の父親はシロくんで、私はあの人の元妻。」「そうなんだ。」自然に言ったつもりなのに、ひどくぎこちなく
なった自分にうんざりした。「連れて行くよ。」「ありがとう。」「用事ないし。それに僕でいいの?」「指名したのはあの子よ。」「嘘だろ。」「よろしくね。」
シロクマを柵越しに眺めるユキを眺める僕は世界の成り立ちの奇妙さに心を打たれた。柵から顔を出して食い入るよう見ながらユキは「ぜんぜんかわいくない。」と平坦なトーンで言った。「でも、こどものシロクマはかわいいよ。」「こども扱いしないでよ。」柵から出た顔は母親に似て驚くほど端正だ。アフリカの動物や熱帯の動物の檻がある通りを抜けると、どの檻にも分類されない動物達の檻が集まっていた。その柵のなかでワラビーとエゾシカの柵が隣合っていて、柵を超えて彼らは口づけをしていた。ユキはそれを見て驚いて、僕に言った「見て!こんなことってあるの!!」僕たちは彼らの柵の前のベンチに座って、彼らのネッキングをまじまじと観察していた。こんな小さな女の子とそれを見ているのは、論理的な面で多少の問題があるんじゃないかと思いあたって僕は落ち着きを無くした。ワラビーの背の高さにそれ以上は無いっていうくらい穏やかな目をした鹿が首を降ろして、長い舌でワラビーの口全体を舐め回すようにしていた。もしかしたら、それには性的な意味はなくて、毛繕いのようなスキンシップなのかもしれない。ユキはベンチに座った凄腕の野球のピッチャーのような姿勢で両膝に両肘を当てて、その前で手を洗うようにして合わしていて、その姿勢は彼女の父親を思い起こさせた。彼女が脇目で僕の目で一瞬見てすぐに戻した。僕にはユキ(ほかの誰でもなく、あの母親の娘なのだ。)が何を考えているか見当がついている気がした。それが気
のせいでもあってほしいと思って「そろそろ、何か食べない?お腹減ってるでしょ。」と彼女に言った。「もうちょっと見てたい。」「うん。」しかたなく、同じ姿勢で異種交遊の観察を続けることにした。途中で、ワラビーは何かを思い立って、檻の中を円の軌跡で跳ね回って、鹿のまえに戻ってもう一度キスを再開した。「素敵ね。」とユキは独り言を言った。「どう思う?」と僕に問いかけて、それが独り言じゃないことに気づいた。急に喉がカラカラに乾いて、足下に置いたコーラのペットボトルを手にとって開けて口に傾けてから、中身が無いことに気づいた。「なんか言ってよ。」とユキが本気で怒りだして、僕は「確かに素敵だ。」と感想を言った。嘘ではない。ユキが僕の顔を真っ直ぐな目で見ている。「ねぇ、俺、お腹減ったよ。」たまらなくなって言ったら、彼女が少し目を逸らして傷ついたような顔をした。いま思えば、それは演技だったんだと思う。「やっぱりお腹減ってないや。全然減ってない。お腹いっぱいだよ。吐きそう。」そう彼女に言いながら腹を抑えて苦しそうな顔を作るとユキが楽しいそうに笑って、僕の腕にしがみついた。小さな身体を持たせかけると、僕はもう何も考えられなくなった。思考が真空状態で、虚ろな目で彼らの口づけの続きを見ていた。鹿の目は限りなく純粋で真っ茶色な目は日を反射してキラキラ濡れて光っている。ユキは僕の顔を覗き込むようにして、それで、僕は彼女にキスをした。
そんな経緯を話す代わりに僕はヤマカワとヤマカワを好きな女の子(ヤマカワに似せて髪を黒に戻して、高そうな眼鏡をかけていた。)に女友達の男友達の家庭の性生活を話した。ビール6杯目だった。「そいつ、んー、仮にジュン君ね。ジュン君は町田に住んでてジュン君のお兄ちゃんはゲイ。お兄ちゃんには彼氏がいて、ゲイだってことをしってるのはジュン君だけ。でお父さんには愛人がいて、お父さんは一ヶ月くらい家から居なくなって、愛人の家に行ったりしてる。ジュン君はジュン君で彼女が3人いて、彼女達はみんなジュン君にほかに彼女がいるっていうことは知らない。そんな家庭。ちなみにジュン君のお母さんはいたって普通でいつも家にいる。でも、家なかでは全員が穏便に振る舞っていて、いかにも仲の良い平和な家族って顔で生活してるんだって。それがジュン君の育った環境であり、家庭なんだ。あと、その女友達は俺とはセックスをしたんだけど、でも好きなのはジュン君なんだ。ジュン君が彼女のことを好きかどうかは知らないけどね。」
(その話を僕は後に、シロに話すことになる。シロはその話を聞いてこんなことエピソードを教えてくれた。「昔、ハタチのときかな。僕は大阪に住んでる女の子(仮にパインって呼ぶよ。クールパインっていうマンガが好きだったんだ、その子は。)と関係していて、彼女が上京して遊びにきて(その女の彼氏は東京に住んでいる男だったんだ。)、合間に僕はパインとパインの東京に住んでい
る友達と3人で会ったんだ。僕がパインと電話で話しをしていたとき、その東京に住んでいる友達の話になったことがあって、名前を聞いた僕は直感的(才能なんだ、と笑って言った。)にパインの友達に彼氏が3人いるでしょって言ったら、彼女はびっくりして、『なんで知ってるの!?』って言ってたよ。それで僕はその三人彼氏がいる女の子と、パインと、僕の3人で表参道のDEAN&DEICAでお茶したんだ。よく覚えてるよ。ホットのアップルソーダを俺は頼んだんだと思う。何を話したっけな。覚えてないや。三人彼氏がいるその子が結んでいた髪を解いて梳く仕草がひどくセクシーだったよ。あとで調べたら、女性が自分の髪を梳く仕草っていうのは、衣服を脱ぐことの比喩表現のジェスチャーなんだって。ともかく、覚えてるのはその黒髪で異常に素直で社交的な女の子だってことはよく覚えてる。で、そのお茶が終わって、解散して、あとで電話でパインがその女の子(彼女も大阪出身でパインとは大学が一緒だった。父親はテレビ局の役員で彼女はお嬢様だった。そんな風に見えたことはないけど、とにかく。)が僕のことをこう評してたんだ『彼は人を愛することが人間よ。』って。僕はそのあと、その彼氏が3人いる女の子には会ったことないんだけど、彼女のことはよく思い出す。そう、それで、その女の子の名前が”のどか”なんだ。」僕はそれを聞いてシロに「じゃあ、もしかして、”山下のどか”っていうのはペンネームなんですか?」シロはいつものような勇敢な目つきで僕を見据えて「ああ。」と言った。)
キスを終えると「お腹減ったでしょ。」と、にっこり笑って、ユキは僕の手を引いて歩き出した。動物園のキリンのアーチがかかった出口をくぐって、手を引くその腕の振り方は、あの人のあの時の腕の振り方と同じだった。これはユキから彼女に移った仕草なんじゃないかと思った。嬉しそうな顔して、小さな手で僕の人差し指と中指をまとめてつかんで、てくてくと早歩きで進んでいく。ユキが僕を振り返って言った。「シロくんに聞いたことがあるの。なんでお母さんのこと好きになったの?って。そうしたらね、シロくん、こういったこう言ったの。」指を握る手が強くなった。「君のお母さんは自分の作り上げたものを愛する人間だって。」指を話して、走って僕の少し前に立って僕のほうを振り返った。僕が立ち止まって頭の後ろを指で掻いて、彼女を見つめた。「がぁー!」と、ユキは両腕をあげてそう叫んで、それから、それ以上ないくらいクスクス笑った。「なぁにそれ?」と彼女に訪ねると、ユキは「シロクマ。」と答えて僕のほうに走ってきて両腕を僕の腰にまきつけて腹を思い切り咬んだ。僕たちは一組の両親と息子の家族がそばを通って、歩いていった。僕たちは家族に見えるだろうか。ユキの頭を撫でると、上を向いて何かを懸命に伝えようとしていたが、言葉にならずそれは息を吐いたり飲み込んだりの繰り返しになっただけだった。また、顔を僕の腹(きっと彼女の小さな乳歯の歯形が付いているいるだろう。ところで、歯科医で採る歯形のことを印象と言う。ユキが僕に与えた印象。)にうずめて、それからひどく弱った北極に住む肉食動物のように「がぁ。」と唸った。しばらく立って彼女が泣き始めたとき、彼女を腕に抱えると、ユキが「だっこして。」と恥ずかしそうに言ったので、僕は微笑んで、頬にキスをして、背中に担いだ。
彼女のゆったりとしながらも間隔の短い寝息を首もとに感じながら、夕暮れの太陽を眺めながら僕は動物園のわきの坂を下っていった。その坂の上を行った所には、僕が通った小学校があって、その小学校の下には動物園があって、動物園に隣合わせるように中学校がある。中学校の反対側には6階建ての大きな図書館になっている。学校にうんざりしてサボったときにはいつもそこに行って、社会から弾かれた人たちが書いた小説や詩を読んだ。その坂を下りきった所には場外馬券場があって、土曜日になると、社会から打ち据えらえらた男達が群をなして、馬券を買い、そして競争が終わると、馬券売り場のわきの飲み屋に行く。彼らが投じた金の一部は、僕の通った動物園にいるライオンやキリンや象や、そして、もしくはシロクマや、鹿やワラビーの餌代になり、そして、僕がほんのすこしも好きじゃなかった学校を運営する資金や、僕が逃げ込んでいた図書館(僕が投資に関する書物に初めて触れたのもそこだった。その本は投資で成した財産で持って恋人と世界一周をする男の自伝だった。)になる。僕は言葉にできない悲しみを感じた。それらはすべて、いつか終わってしまう。ユキはいつか今日のことを忘れて、自分自身をいかに効率良く傷つけるかを学ぶだろう。彼女はいつか無条件に与えてくれる慈悲や庇護感を求めることを諦めてしまうだろう。もう僕には耐えられないと思った。正しくないプランのうえで、行われ、それらはすべて損なわれたまま、失望したままいつか僕たちは死んでしまうのかもしれない。せめて、この子だけでも、と僕は生まれて初めて祈った。自分の力が届く限り彼女のをあらゆるものから守りたかった。

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