書くことについて(仮) 24/100
2008年7月4日 コミューンと記録メモと書くこと コメント (2)ぐだぐだの態度でムラハシと一緒にダンスフロアに出ると、ちょうど、髪の黄色い男が曲をかけはじめた。The musicの「Disco」のライブ音源だ。ゆるやかなイントロが鳴り始めて狭い空間にぎゅぎゅうに詰め込まれた僕たちは薄い空気を吸いながら、照明が何色も点滅したり円を書いたり、線を引いたりする様を眺めていた。ギター、ドラム、ベースの音がテンポをあげはじめて、時間の感覚がだんだんと速まり始めた。音と人間と光が混合し出した頃に僕たちは大きく縦に揺れ始める。上、下、上、下、声をあげはじめる。肩がぶつかったムラハシの反対側の肩がぶつかった女の子がにこりと笑った。ギターの音が開いた音になったり閉じた音になる。ボーカルがシャウトしたとき、目の裏側で何かが弾けた。最高潮の瞬間に曲が入れ替わってカロリーメイツの新曲になった。
DJの途中でトイレに向かうのにラウンジを抜けていくと、フルカワがむせび泣いているを見かけた。ムラハシのことを好きな(ムラハシと同じ7:3もどきの髪型にしていること)女の子はフルカワを慰めていた。小便を住ましてフロアに戻らずに、彼らのいるテーブルに座って事情を聞くと、話し始めてしばらくは一方的に喋りまくって、恋愛に話が移った直前こうなったらしい。テーブルに倒れ込んだフルカワが痙攣するように「みえこぉぉぉ。」と唸っていて驚いて、もういちど、聞き直そうとして、フルカワに問いただそうとして、やめた。みえこはハプニングバーで働く女の子で、金困った彼女をフルカワに紹介したのだ。ちなみに、僕はマージンを取っていない。完璧なボランティアだ。「ううぅ」と涎と涙を流して突っ伏してるフルカワに「なんかあったんですか?」と訊くと、急に素面に戻ったような表情になって背筋を伸ばして僕を睨んだ。「くそ!このアホたれが。」と僕を一喝した。「みえこちゃんとなんかあったんですか?」「あのあばずれ、俺から散々金せがんで、『ほんとはわたしのこと好きじゃないんでしょ。』なんてぬかして、次の日から連絡がつかなくなった。」涎が顎から垂れているのを見て取って、僕は「顎。」とだけ言ってハンカチを渡した。顎と目をぬぐいながら「おい、あの女一度もやらせてくれなかったぞ。お前、『彼女、淫乱だから、酒飲ましてやさしくすれば簡単ですよ。』なんて言ったがな、あれはただのビッチだ。糞ったれビッチだな。」と嗄れた声で言った。ムラハシのことを好きな(生意気そうな腕の組み方がそっくりだ)女の子は僕のことを疑い深そうな目で見ていた。「そんなこと言いましたっけ?あぁ、ところで、彼女、歌手目指してるんです。」と紹介すると、フルカワの強烈な生気を備えた目に一瞬何かが通り抜けた。それから、フルカワが自分を取り戻して反対側を向いて、色々と喋り始めた。色々を耳に入れたくなくて、僕は席を立ってフロアに戻って踊りはじめた。明け方、ふらふらになって、3人で(フルカワは先に帰った。満足げな表情をしていた。)マクドナルドでコーヒーを飲みながら
始発を待っていて僕は’青’の話をした。
青について。
彼女には父親がいたが、父親は浮気をしていた。青が4才のとき、父親は青と青の母親を残して家を出て行った。父親が家から出て行ったときのことを青は僕に一度話をしてくれたことがある。青ちゃんごめんね、と言って父親は家のドアを開けて出て行った。取り残された彼らには父親からの養育費が振り込まれた。その話をしたとき、父親とそれから会ったかどうかを聞くと、青は会ったことがないと答えた。「お父さん、今は再婚して娘がいるんだって。」と彼女は僕の隣でブラジャーを付けながら言った。僕は青の立場になった自分のことを想像しようとしたが、うまくいかなかった。あなたに似た、あなたの母親ではない人から生まれた自分に似た顔の知らない兄弟。ちょっとドラマみたいだ。僕が青と知り合ったのは僕達が高校生のときだ。僕が学校に入って仲良くなった男のバッグに張られたステッカーが僕の好きなバンドのもので、周りの連中が聴かない音楽の知り合いを見つけて嬉しくなって夢中で話をしていた最中に、なんでそんな音楽を知ってるの?というところで出た名前が’青’だった。僕は当然男だと思って、連絡先を聴いて、’青’とメールをした。J−POPではない音楽を知る友人と山手の坂を下ったところにあるドンキホーテで約束をして来たのは、髪が金色の胸の大きい女の子だった。青と僕を軸にした交遊関係が始まって1年が経った頃、僕は青のことを愛していることに気づいた。彼女はそのころ母親の恋人といさかいを起こして、家を出て一人で父親と母親が住んでいたが超した、海沿いの公営のアパートに一人で住んでいた。彼女に年上のベーシストの恋人ができたのもその頃だった。青と僕を音楽が結びつけたように、彼らもまた音楽の延長線上で付き合いを始めた。彼氏ができた直後、彼女から報告のメールがきて、僕はそのあと何日か自分でも原因が解らない精神的な疲れを感じて、身体と心が離れているように感じて学校を休んで家で眠り通していた。ある夜、青の家で、高校の友達達(彼らは青と同じ中学校だった)と、僕とあと何人かをそろえて青の家で飲み会を開いていた。夜中の3時過ぎ、何人かが眠って、何人かは起きていた。青と青の女友達はキッチンで話をしていた。残った僕たちが’深刻な心情の吐露’のタイミングに差し掛かって、僕はこう宣言した。「俺は、青のことを大切に思っていて、ずっと一緒にいたいって思っている。恋とかじゃないんだけど。最近気づいて、彼女の父親のこととか、いろんなこと考えてた。青に何の見返りを求めずに与えたいんだ。凄い大切にしたいって思ってる。もしかしたら愛してるっていうのかもしれない。」もちろん、そのときその告白が青に知られるとは思ってもいなかったし、彼女の青という呼び名をこうやってするようになった蒙古斑の存在を知るようになるだろうことも想像していなかった。それは、僕の真剣だけれどささやかな誓いにしか過ぎなかった。けれど、それらの言葉を僕は裏切ることになる。その言葉を聞いていた青の女友達が青のいるほうのキッチンに行って、残った男二人と僕は無言で酒をひたすら飲んでいた。馬鹿でかいペットボトル入りの焼酎をグラスについで、適当なジュースで割って飲んでいた。ゆるやかに過ぎていく時間が僕に何かをひっそりとやさしく語りかけていた。いくつかの白熱灯の光を眺めていた。しばらくして、キッチンに居た女の子達が部屋に戻ってきて、青が今まで見たことのない表情で僕の名前を甘い声で呼びながら部屋に入ってきた。その声はまるで僕たちをささやかに照らす白熱灯のようだった。
それから僕たちはときどき、パソコンのチャットでお互いに貸し合った音楽をテープに取って、チャット越しに同時に聴くという遊びを始めた。メールを前よりずっと沢山交わすようになった。彼女の文面はいつも遊び心でいっぱいで、掛け値なしの信頼を少しずつ築いていった。僕の中学の時の友達と僕の部屋で飲んでいたときに、青のことを話していたとき、彼女の顔を見たい友達のリクエストがあって、青に頼むと化粧の無い顔(それは彼女にとっては珍しいことだった)を送ってきて、彼女の肩にはティンカーベルが携帯の編集機能で乗っていて、その画像は僕が部屋の押し入れの中の携帯電話にまだ入っている。チャットのことをチャットしていない時に僕に話をして、チャット上の僕はとてもとても素敵な男の子だ、と評した。その意見の裏面にあることを考えて、僕はそのとき初めて小説を書こうと思い立った。そのアイディアが、青が美大に入学して自費出版のフリーペーパーを創刊したとき、僕に動物園に行った話を書かせた。結局、その本は印刷されずに企画ごと消えた。その小説のなかに出てくる女の子はお尻に青い印がついている。僕が青の部屋で愛情の告白をしてから3ヶ月くらい経った頃、いつものようにチャットをしていると、彼女は酒を彼氏と飲んできた帰りで、ひどく酔っぱらっていた。チャット越しに彼女の部屋の温度や風景、ある雨の日、沈黙の中で彼女の声を聞いたこと。白い画面のなかに彼女の言葉が浮かんでは流れて消えていく。「会いたいな。」と青は書いた。5秒間、僕はそれから先の言葉を打つのをためらった。「会いたい?」と書くと、青は「別に」と、僕はそれから8秒間、ためらってから書いた「俺も会いたい。」「ね。」「自転車だったら10分くらいかな。」「10分か」「今から家に行ったら迷惑かな。」「全然。」と青が書いた文字を読んで、ぴりぴりと肌が焼けていく幻覚を感じた。ジム・オルークの「Eureka」がそれ以上無いくらいの情緒を残して消えた。彼女の一番好きな曲だった。「いにいくよよ。」と書いた。指先が震えていた。中学に入って好きになった女の子の携帯電話の番号を押したときもこうだった。僕は寝静まった家の玄関を音を鳴らさずに閉めて、夏の前の自転車置き場で鍵を開けながら夏の匂いを嗅いだ。坂を上り、下り、大きな交差点や繁華街を抜けて、彼女のアパートの真っ暗な階段を上った。取り壊される予定の団地で、そこに期限まで住めば立ち退きの示談金をもらえるから、と僕に青が教えてくれたことがある。いまやっと気づいたけれど、たぶんそれは嘘だ。じーーという音をたてるチャイムを鳴らすと彼女は扉を開けて、すぐに振り返って部屋に進んでいく。温暖色に照らされた部屋で僕たちは少し酒を飲んで、「眠いね。」と青が言って部屋の電気が消えて、薄いガラス越しにカーテンの無い部屋に入ってくる蛍光灯をあてに、彼女の背中を見ていた。太っているわけじゃないのに、猫背気味で少し丸まっていて、彼女は僕の方を向かずに、洋服ダンスと向き合っていた。その背中の頼りなさといったらなかった。部屋のテーブルの上に無造作に置かれた彼女の幼い頃(2足で歩き始める直前の頃だろうか)の写真を思い出した。大きな目は悲しそうに垂れていて、愛らしい大きな口はほんのすこしだけ笑みを浮かべていた。小さな彼女はそのカメラのほうを見て、それを見たとき、僕は彼女にその後起こるあらゆることがその表情や無防備な態度に顕れていた。僕のために敷いてくれた小さなサイズの使い古された布団を抜け出て、僕の背中をタオルケット越しに触れると、彼女は僕のほうを振り返ってとても長い息を吸って、それから吐いて、にこりと笑った。
それから1年くらいかけて青と僕の関係が崩壊した。未だ僕はこうして壊れた関係の瓦礫を拾い集めて、瓦礫は瓦礫に過ぎないことを思い知ろうとしている。それはとてもとてもほんの少しもない完成されたものであったはずなのに、最初以前の始まる前からどこかが間違っていて、それは致命的な問題でもあった。問題はとてもシンプルだった。青には年上の恋人がいた。僕のことも好きだっし、年上の恋人のことも好きだった。僕はそれに耐えられると思っていたけれど、その原因はありがちで深刻な欠陥だった。彼女は僕の気持ちを理解できなかったし、それを経験したこともなかった。例えばこんなエピソードだ。彼女をデートにメールで誘うと、「いま彼氏とエッチしてるの。」と返信があった。彼女はきっと僕を求めるの欲求の裏側に罰したいという無意識で埋められていた。手間に対する効果は驚くべきものだった。彼女は自販機で飲み物を買うくらい簡単に僕を傷つけて、血まみれになっているのに彼女はそれがたいしたことじゃないと信じきっていた。彼女に近づきた
いと感じながら、僕は彼女から離れたかった。分裂した感情を育てながら、僕は高校を卒業をしてから、僕は青に連絡することが少なくなっていった。
そこで話を区切って、僕は携帯電話で時間を確認して、始発が出発している時間だから、といって、二人に打ち切ることを告げると、もちろん納得しなかった。問題はこれが簡潔していない問題だか
らだ。
DJの途中でトイレに向かうのにラウンジを抜けていくと、フルカワがむせび泣いているを見かけた。ムラハシのことを好きな(ムラハシと同じ7:3もどきの髪型にしていること)女の子はフルカワを慰めていた。小便を住ましてフロアに戻らずに、彼らのいるテーブルに座って事情を聞くと、話し始めてしばらくは一方的に喋りまくって、恋愛に話が移った直前こうなったらしい。テーブルに倒れ込んだフルカワが痙攣するように「みえこぉぉぉ。」と唸っていて驚いて、もういちど、聞き直そうとして、フルカワに問いただそうとして、やめた。みえこはハプニングバーで働く女の子で、金困った彼女をフルカワに紹介したのだ。ちなみに、僕はマージンを取っていない。完璧なボランティアだ。「ううぅ」と涎と涙を流して突っ伏してるフルカワに「なんかあったんですか?」と訊くと、急に素面に戻ったような表情になって背筋を伸ばして僕を睨んだ。「くそ!このアホたれが。」と僕を一喝した。「みえこちゃんとなんかあったんですか?」「あのあばずれ、俺から散々金せがんで、『ほんとはわたしのこと好きじゃないんでしょ。』なんてぬかして、次の日から連絡がつかなくなった。」涎が顎から垂れているのを見て取って、僕は「顎。」とだけ言ってハンカチを渡した。顎と目をぬぐいながら「おい、あの女一度もやらせてくれなかったぞ。お前、『彼女、淫乱だから、酒飲ましてやさしくすれば簡単ですよ。』なんて言ったがな、あれはただのビッチだ。糞ったれビッチだな。」と嗄れた声で言った。ムラハシのことを好きな(生意気そうな腕の組み方がそっくりだ)女の子は僕のことを疑い深そうな目で見ていた。「そんなこと言いましたっけ?あぁ、ところで、彼女、歌手目指してるんです。」と紹介すると、フルカワの強烈な生気を備えた目に一瞬何かが通り抜けた。それから、フルカワが自分を取り戻して反対側を向いて、色々と喋り始めた。色々を耳に入れたくなくて、僕は席を立ってフロアに戻って踊りはじめた。明け方、ふらふらになって、3人で(フルカワは先に帰った。満足げな表情をしていた。)マクドナルドでコーヒーを飲みながら
始発を待っていて僕は’青’の話をした。
青について。
彼女には父親がいたが、父親は浮気をしていた。青が4才のとき、父親は青と青の母親を残して家を出て行った。父親が家から出て行ったときのことを青は僕に一度話をしてくれたことがある。青ちゃんごめんね、と言って父親は家のドアを開けて出て行った。取り残された彼らには父親からの養育費が振り込まれた。その話をしたとき、父親とそれから会ったかどうかを聞くと、青は会ったことがないと答えた。「お父さん、今は再婚して娘がいるんだって。」と彼女は僕の隣でブラジャーを付けながら言った。僕は青の立場になった自分のことを想像しようとしたが、うまくいかなかった。あなたに似た、あなたの母親ではない人から生まれた自分に似た顔の知らない兄弟。ちょっとドラマみたいだ。僕が青と知り合ったのは僕達が高校生のときだ。僕が学校に入って仲良くなった男のバッグに張られたステッカーが僕の好きなバンドのもので、周りの連中が聴かない音楽の知り合いを見つけて嬉しくなって夢中で話をしていた最中に、なんでそんな音楽を知ってるの?というところで出た名前が’青’だった。僕は当然男だと思って、連絡先を聴いて、’青’とメールをした。J−POPではない音楽を知る友人と山手の坂を下ったところにあるドンキホーテで約束をして来たのは、髪が金色の胸の大きい女の子だった。青と僕を軸にした交遊関係が始まって1年が経った頃、僕は青のことを愛していることに気づいた。彼女はそのころ母親の恋人といさかいを起こして、家を出て一人で父親と母親が住んでいたが超した、海沿いの公営のアパートに一人で住んでいた。彼女に年上のベーシストの恋人ができたのもその頃だった。青と僕を音楽が結びつけたように、彼らもまた音楽の延長線上で付き合いを始めた。彼氏ができた直後、彼女から報告のメールがきて、僕はそのあと何日か自分でも原因が解らない精神的な疲れを感じて、身体と心が離れているように感じて学校を休んで家で眠り通していた。ある夜、青の家で、高校の友達達(彼らは青と同じ中学校だった)と、僕とあと何人かをそろえて青の家で飲み会を開いていた。夜中の3時過ぎ、何人かが眠って、何人かは起きていた。青と青の女友達はキッチンで話をしていた。残った僕たちが’深刻な心情の吐露’のタイミングに差し掛かって、僕はこう宣言した。「俺は、青のことを大切に思っていて、ずっと一緒にいたいって思っている。恋とかじゃないんだけど。最近気づいて、彼女の父親のこととか、いろんなこと考えてた。青に何の見返りを求めずに与えたいんだ。凄い大切にしたいって思ってる。もしかしたら愛してるっていうのかもしれない。」もちろん、そのときその告白が青に知られるとは思ってもいなかったし、彼女の青という呼び名をこうやってするようになった蒙古斑の存在を知るようになるだろうことも想像していなかった。それは、僕の真剣だけれどささやかな誓いにしか過ぎなかった。けれど、それらの言葉を僕は裏切ることになる。その言葉を聞いていた青の女友達が青のいるほうのキッチンに行って、残った男二人と僕は無言で酒をひたすら飲んでいた。馬鹿でかいペットボトル入りの焼酎をグラスについで、適当なジュースで割って飲んでいた。ゆるやかに過ぎていく時間が僕に何かをひっそりとやさしく語りかけていた。いくつかの白熱灯の光を眺めていた。しばらくして、キッチンに居た女の子達が部屋に戻ってきて、青が今まで見たことのない表情で僕の名前を甘い声で呼びながら部屋に入ってきた。その声はまるで僕たちをささやかに照らす白熱灯のようだった。
それから僕たちはときどき、パソコンのチャットでお互いに貸し合った音楽をテープに取って、チャット越しに同時に聴くという遊びを始めた。メールを前よりずっと沢山交わすようになった。彼女の文面はいつも遊び心でいっぱいで、掛け値なしの信頼を少しずつ築いていった。僕の中学の時の友達と僕の部屋で飲んでいたときに、青のことを話していたとき、彼女の顔を見たい友達のリクエストがあって、青に頼むと化粧の無い顔(それは彼女にとっては珍しいことだった)を送ってきて、彼女の肩にはティンカーベルが携帯の編集機能で乗っていて、その画像は僕が部屋の押し入れの中の携帯電話にまだ入っている。チャットのことをチャットしていない時に僕に話をして、チャット上の僕はとてもとても素敵な男の子だ、と評した。その意見の裏面にあることを考えて、僕はそのとき初めて小説を書こうと思い立った。そのアイディアが、青が美大に入学して自費出版のフリーペーパーを創刊したとき、僕に動物園に行った話を書かせた。結局、その本は印刷されずに企画ごと消えた。その小説のなかに出てくる女の子はお尻に青い印がついている。僕が青の部屋で愛情の告白をしてから3ヶ月くらい経った頃、いつものようにチャットをしていると、彼女は酒を彼氏と飲んできた帰りで、ひどく酔っぱらっていた。チャット越しに彼女の部屋の温度や風景、ある雨の日、沈黙の中で彼女の声を聞いたこと。白い画面のなかに彼女の言葉が浮かんでは流れて消えていく。「会いたいな。」と青は書いた。5秒間、僕はそれから先の言葉を打つのをためらった。「会いたい?」と書くと、青は「別に」と、僕はそれから8秒間、ためらってから書いた「俺も会いたい。」「ね。」「自転車だったら10分くらいかな。」「10分か」「今から家に行ったら迷惑かな。」「全然。」と青が書いた文字を読んで、ぴりぴりと肌が焼けていく幻覚を感じた。ジム・オルークの「Eureka」がそれ以上無いくらいの情緒を残して消えた。彼女の一番好きな曲だった。「いにいくよよ。」と書いた。指先が震えていた。中学に入って好きになった女の子の携帯電話の番号を押したときもこうだった。僕は寝静まった家の玄関を音を鳴らさずに閉めて、夏の前の自転車置き場で鍵を開けながら夏の匂いを嗅いだ。坂を上り、下り、大きな交差点や繁華街を抜けて、彼女のアパートの真っ暗な階段を上った。取り壊される予定の団地で、そこに期限まで住めば立ち退きの示談金をもらえるから、と僕に青が教えてくれたことがある。いまやっと気づいたけれど、たぶんそれは嘘だ。じーーという音をたてるチャイムを鳴らすと彼女は扉を開けて、すぐに振り返って部屋に進んでいく。温暖色に照らされた部屋で僕たちは少し酒を飲んで、「眠いね。」と青が言って部屋の電気が消えて、薄いガラス越しにカーテンの無い部屋に入ってくる蛍光灯をあてに、彼女の背中を見ていた。太っているわけじゃないのに、猫背気味で少し丸まっていて、彼女は僕の方を向かずに、洋服ダンスと向き合っていた。その背中の頼りなさといったらなかった。部屋のテーブルの上に無造作に置かれた彼女の幼い頃(2足で歩き始める直前の頃だろうか)の写真を思い出した。大きな目は悲しそうに垂れていて、愛らしい大きな口はほんのすこしだけ笑みを浮かべていた。小さな彼女はそのカメラのほうを見て、それを見たとき、僕は彼女にその後起こるあらゆることがその表情や無防備な態度に顕れていた。僕のために敷いてくれた小さなサイズの使い古された布団を抜け出て、僕の背中をタオルケット越しに触れると、彼女は僕のほうを振り返ってとても長い息を吸って、それから吐いて、にこりと笑った。
それから1年くらいかけて青と僕の関係が崩壊した。未だ僕はこうして壊れた関係の瓦礫を拾い集めて、瓦礫は瓦礫に過ぎないことを思い知ろうとしている。それはとてもとてもほんの少しもない完成されたものであったはずなのに、最初以前の始まる前からどこかが間違っていて、それは致命的な問題でもあった。問題はとてもシンプルだった。青には年上の恋人がいた。僕のことも好きだっし、年上の恋人のことも好きだった。僕はそれに耐えられると思っていたけれど、その原因はありがちで深刻な欠陥だった。彼女は僕の気持ちを理解できなかったし、それを経験したこともなかった。例えばこんなエピソードだ。彼女をデートにメールで誘うと、「いま彼氏とエッチしてるの。」と返信があった。彼女はきっと僕を求めるの欲求の裏側に罰したいという無意識で埋められていた。手間に対する効果は驚くべきものだった。彼女は自販機で飲み物を買うくらい簡単に僕を傷つけて、血まみれになっているのに彼女はそれがたいしたことじゃないと信じきっていた。彼女に近づきた
いと感じながら、僕は彼女から離れたかった。分裂した感情を育てながら、僕は高校を卒業をしてから、僕は青に連絡することが少なくなっていった。
そこで話を区切って、僕は携帯電話で時間を確認して、始発が出発している時間だから、といって、二人に打ち切ることを告げると、もちろん納得しなかった。問題はこれが簡潔していない問題だか
らだ。
コメント