暴力の庭にいた。六本木の『マスパニック』に入るときにセキュリティチェックでいかつい男に僕のバッグの中の荷物を調べられた。バッグを開けて、無遠慮に漁り始めて彼が見つけたの僕がみえこに一昨日差し込んだバイブだった。男は何も言わず、それを見なかったかのようにバッグを戻して、僕をクラブに通した。ストイックだ。
僕が声をかけた女の子は以下の通りだ。スミレという名前のスノッブな雰囲気の女の子で二人の友達(女)を連れていた。背が高くて外人のような顔つきをしていた。彼女の顔立ちと態度や名前といる場所を照らし合わせて考える限り、裕福なヤッピーの元で育ったという感じだ。彼女とは二言くらい喋って、僕に"男らしさ"が足りない、と判断した彼女はどこかに行ってしまった。そこから学んだ僕は女の子とこういう場所でお酒を飲む場合は、腰に手を回して無理にでもバーカウンターにつれていかなきゃいけないということだった。二人目の女の子は踊りの上手な女の子だったけれど、僕には気のないそぶりをしてどうしようもなかった(朝方彼女は一人でソファに座って寂しそうな表情をしていた)。次に声をかけたのは僕より背の高い美人で、話していると、やがて彼女は男だということに気づいたびっくりして、クラブの反対側に逃げていった。三人目の女の子は胸が大きくて、目の鋭い女の人だった。彼女は何人かの男と話しては気の無い返事を繰り返して、僕が近づくと彼女はカウンターに肘をつけて煙草に火をつけた。僕がとなりに立つと彼女は僕のほうを横目でちらっと見て、彼女が僕に背を向ける前に「お酒おごるよ。」と彼女が頷くと同時に腰に腕を回してカウンターに引き寄せた。そういったことには慣れているような調子だったので、僕は彼女とテキーラのショットを飲んだ。「一人で来たの?」と訊くと、彼女は「あそこで踊ってる子と二人できた。」とダンスフロアで踊っている浅黒い女の子を指差した。彼女の名前を訊いたけれど、僕はそれを忘れてしまったのでここには書くことができないけれど、仮に"キヅキ"とする。お酒弱いんだとか、年齢のこと、何杯(キヅキはもう既に5杯飲んでると言った。僕は3杯だった。)飲んでいるのか、意味のないやりとりを繰り返して、二杯目を口に含んだとき、吐き気がして、危機感のあまりその小さいグラスに口に含んでいたテキーラを吐き出した。グラスを指差して僕はキヅキに「飲んで」と頼むと、「えー」とあっさり断るとちょうどよく浅黒い友達(彼女も相当に酔っ払っていた)がやってきてキヅキが頼むとあっさり彼女はそれを飲み干して、「私にもおごってよ」と言い始めた。彼女の低い声がひどく猥雑に聞こえて、3杯目のテキーラを3つ用意した。彼ら二人はそれをあっさり飲み干したので、苦労して飲んだ僕はとても感心しながら、切れ目を入れられてグラスを挟むように取り付けられたライムをかじった。ひどく酔う、いよいよ僕の行動は欲求に忠実になっていった。浅黒い女の子がフロアに行くのを見届けて、僕はキヅキを半ば無理矢理ソファまで引っ張っていって彼女に嫌がる(本心からではなく)彼女にキスをした。舌を口の奥まで入れようとしたがそれに失敗した。何を話したのかは覚えてない。途中で浅黒い友達がやってきて、向かいのソファに座った。時間の前後が僕には分からなくなってくる。キヅキがトイレに立ったあと、僕は浅黒い女の子のほうのソファの彼女の隣に座って、唐突にキスをして名前を訊いた。ミズキという名前でキヅキとは兄弟だと言った。反対のソファに戻ってキヅキは隣に座って、「お兄ちゃんと何を話したの?」と言った。向かいのミズキの顔を凝視すると、あぁ確かに、と納得がいったが、不思議とキスをしたことへのショックはなかった。何を話していたのかは覚えてないけれど時間だけはやたらと過ぎた。閉店時間が近くなって彼ら兄弟はトイレに行くと言い出して、「帰るんでしょ?」と僕が寂しそうにして言うと、二人は僕をなだめて、女の子同士の会話をした。戻ってくると、彼らは僕に傲慢な態度をしていた。その理由をたずねると、「君どっちでもいいんでしょ。」と怒りながら言って、それが少し可愛いと思った。キヅキは「私がいないあいだキスしてでしょ!」と言って、ミズキもほぼ同じセリフを繰り返した。僕は「だってしたかったんだもん。」というと二人は溜め息をついて、それから店の照明が薄暗い状態から明るい状態に変わった。
六本木の朝の清潔さは、汚れた道や人々や醜態なんかをよりクリアに見せていた。どこにも逃げ場は無いように思えた。店の前でミズキをかついでタクシーの後部座席に押し込もうすると必死に抵抗して、笑ったりして、それから店の前で別れた。帰り道、ここはおかしなことばかり起こる場所だ、と思いながら歯止めを効かせようとしながら歩いていると、ガタイが良過ぎる位良い黒人の男にからまれているミズキと、それを見て呆れているキヅキに追いついてしまった。僕達はなんとなく合流して、朝ご飯を一緒に食べることになった。夢遊病者のような様子で六本木の交差点をわたって交番でちかくにファミレスがあるかどうかをキヅキはアーノルド・シュワルツネッガーみたいな緑の目をした警官に尋ねて、そのついでに警官を気に入って「今度遊びましょうね。」なんてことを言っていた。そのあいだミズキはシャッターの閉まった交番の隣の店にもたれて座って、僕の手を取ると、指をしゃぶりはじめた。僕は気にも止めず、朝の街にいる沢山の人の流れを眺めていた。キヅキが戻ってきて、警官のことを話はじめた。警官の名前は僕の父親と同じという偶然に遭遇した。対話、と僕は思った。近くにファミレスがない代わりに、マクドナルドに3人で歩いていった。とてもとても幸福な気持ちで一杯になって、これがずっと続けばいいのに。店の中で僕は二人に持ち歩いているバイブを渡して見せて、ミズキはそれを喜んでいじりまわして、キヅキは凝視をしていた。僕があくびをすると、ミズキは僕の鼻を触って、それ以上は無いくらい優しい目をして微笑んだ。マクドナルドを出て、駅の方に向かって歩いていくと、右を歩くミズキは僕の腕をとても弱い力で殴って、それを少し離れた左側で見ていたキヅキは肩を僕の肩にぶつけた。ほとんど人のいない電車に乗り込んで、さっきと同じように二人は僕の両隣に座って、うっすらと目を開けて向かいに座っていた中年の男は僕の少し上のほうを見てずれたメガネをかけなおして、それから眠りについた。左に座ったミズキは僕の手の上に手を載せて、逆のキヅキは真っ白な足を僕の足に寄せた。キヅキは途中の駅で降りて、僕とミズキは取り留めない話をした。ついに中目黒で僕はひとりぼっちになった電車に座ると、沢山の考えや感情が渦を巻いたが、それでも疲れきっていたことにやっと気づいて眠った。
********************************

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索