Fine Romance 75/100 & Fine Romance 76/100 &Fine Romance 77/100
2009年8月1日 コミューンと記録メモと書くこと コメント (2)地下鉄の入り口の終電の時刻表を見ると、終電から15分過ぎていた。遅過ぎたのだ。「電車ないね。」と詩子は言いながら、本なんかで読んだり見たり聞いたりする通りだったら、ここで私達はラブホテルに二人仲良く入っていくに違いない。「タクシーで送るよ。」「言ったでしょ。私、帰りたくないの。」フルカワは頭を掻いて「お母さんだって、家に帰ってきて君がいなかったらびっくりするんじゃないかな。」「いつものこと。」
フルカワがここまで話をして、僕の携帯の電話が鳴って、電話に出て、自身をデリバリーすることをフルカワに伝えて、急いで部屋を出た。玄関に見送ろうとしたフルカワに「その話の着地点は予想がついてる。」と靴を履きながら言った。そう言ってフルカワが何かを考えているあいだに「急ぎなんだ。」と言って礼儀を無視していることを分かったうえで、家をすぐに出た。
フルカワの家から電車を乗り継いで、終電近い京浜東北線で彼女の家に向かう。
僕は上に書いたことの要点をブログに書いて、それから小説に書いて、少し考えた。このセンテンスを書く前に自分はカポーティの『叶えられた祈り』の文体をトレースするように書こうと思ったのに失敗した。冗長だ。
「人は真実を知らないほうがずっと幸せだ。少なくともほとんどの弱い人間にとっては、真実は重荷でしかない。」
その書き出しから、のどかの長編小説は始まっていた。
小説の序盤は一人の男が韓国の貧民街から違法入国した大男が成功について。
中盤はその男が血の繋がりの無い二人の女の子と、実の息子を得るに至った経緯と、二人の女の子と後見人になった男の話。
(その息子の母親について小説では触れられていない)
終盤は、二人の女の子が支配的な環境から逃げ出す話。
ここで『Fine Romance』の上巻は終わる。
下巻は、後見人になる男がいかにして、大男(父)に取り入って成功し、
そして、なぜ男がわざわざそのレコード会社を手に入れようとしたかの話になる。
フルカワの恋の話。
学生の頃にクラブで見つけた女の子に恋に落ちる。
金のないことや、相手には成功したミュージシャンの彼氏がいて結局恋は実らない。
落ち込んでいたところにアルバイトを見つけてシロの父親の会社の求人をみつける。
最初は社長とは接点の無い部署で働いていたが、ドライバーの職を得て気にいられる。
仕事ができることを認められ、(その数々のエピソード)相談役になりその頃、司法試験にごう合格する。
ある出来事で憧れがシロの父親にバレる。
そこでシロ(父)にその女の子のマネージする仕事を任される。(作者はこれをシロの父親の悪意として書いている)
期待を持ちの仕事につき恋人との再会を果たすが、間もなく彼女が政治家やマスコミの役員などに愛人として身体を売っていることを知る。
(このあたりのシロ(父)とフルカワの言い合いは小説の最大の見せ場だ)
フルカワは絶望し、失踪するが、見つかる。
シロの父親に打ち明けられる。女の子を二人預かっていること。
(その女の子達はシロ(父)が良く使う高級な会員制の売春の店に残された名もない子供達だ。
文章ではこのあたりは信じられないくらいあっさり書いているけれど、考えるほどタフな内容だ。
なぜならシロ(父)も同じように貧民街で両親を持たず育ったからだ。)
自分がガンを患っていて、周りには信頼できる人間がいない。遺せるものについて話す。
そして、今フルカワは新しい形で夢を手に入れたが、だがそれでもフルカワは立場として手に入るかつての恋人を自分のものとはしようとしない。
夢を失って、それ幻影であることを理解しながらも、諦めるられないままでいる。
そして、同時に、いまアイドルを目指す女の子と愛人でいること。もう信じられるものない。
物語の最後、フルカワは新しく知り合った若い友人(これは僕とムラハシをミックスした人物を作り上げたキャラクタによって行われる)に、
自分がかつて持っていた幻想を見出して、それを壊そうとするところで終わる。
その夜、のどかと僕は『真実』について話をしていた。
ひとは本当のことを知るほうがいいのか、知らないままでいたほうがいいのか。
僕は後者の立場を取り、彼女は前者を選んだ。
「いろんな連中が自分を騙す瞬間を何度も見てきた。」
そう僕は言った。いくら酒を飲んでも酔わない夜だった。
「何かを隠されたまま生きてことは損だと思うの。別に善悪の問題じゃなくてね。」
「知って損することもあるんじゃないかな?」
「例えば?」
「好きなひとが別の異性と浮気してるとか、死んだら’何も無い’っていうこととか。」
「そんなの気付くに決まってるじゃない。」
「気付かない連中もいる。」
「私、そんな無神経な連中耐えられないわ。」
「自分にとって不都合なことに目を向けようとしないのは誰だって同じだし、それは本能みたいなものだからどうにかなるものじゃないんじゃないかな。」
「でも、だとしたら、その本能を利用しようとしたら、利用としようとするやつの言いなりじゃない。」
「そうかもしれない。」
のどかは腕を胸の下で組んで斜め右下のあたりを睨んでいた。
僕はこう付け加えた。
「でも、どっちが悪いってわけじゃないんだ。騙されるやつは嘘を必要としているし、騙すやつだって与えてほしいことが分かってるから。」
「なんで虚構と欺瞞が必要なのかしら。」
「弱いからだよ。強く現実的であろうとするより、弱いままで怠惰でいるほうが損をするとしても楽なことだから。君はどう思う?」
「想像力の問題だと思う。」
腕を解いて彼女はテーブルの上に人差し指で線をひいていた。
「ねぇ、小説は嘘じゃないの?」
「嘘よ。でも、それは真実なのよ。宝石のようなもの。岩石を削って形を整えた本質が真実なの。」
僕はこんなこと話をしていてもキリがないと思った。
「そんなことよりゲームをしようよ。」
「いいよ。」
「じゃあ今日は『使ってると知的っぽい言葉。』」
「『スキーム』」
「『モダン』」
「『ロジック』」
「知的っぽい言葉といえば村上春樹の新しいの読んだ?」
いつも通り彼女の思考の飛躍と、唐突さに呆れながらも僕は答えた。
「読んだ。」
「どう?」
「面白かったよ。」
「そう、確かに面白かったけど、でも、あの『パッシバ』がなんちゃらっていうところは最悪よね。」
僕は肩をすくめた。彼女は続けた。
「面白いのは認めるわ。少なからず影響も受けたしね。でも、やっぱりあのインテリ気取りの部分が耐えられないの。」
「実際にインテリなんじゃないかな。」
「絶対に本人は認めないんじゃない。私、小難しい言葉を使って自分を良く見せようとするのって、いっつもダサいって思うの。」
「そこに置いてある君のプラダだって同じだよ。」
「これはただの商品よ。」
「小説だって、デザイナーがいて、生産があって、宣伝がある。モダンでロジカルなスキームに支えられた立派な商品だよ。」
僕も彼女もむきになっているのは分かったけど、彼女と議論ごっこをするのは飽きないので続けた。
「でも、洋服やバッグは買った人間をよく見せるものでしょ。作家が自分自身を飾るために物語を書くなんてちょっと不誠実だと思う。」
「洋服デザイナーだって、ショーの最後に出て顕示欲を満たす。」
僕はビールを飲み干して付け加えた。
「君にはきっと、色んな内心の規則が沢山あって、それには、小説かくあるべし、とか、人間かくあるべし、とか、そういうのが沢山あるんだろうね。」
「スノッブの作者が気取って書いた小説を、スノッブな読者が喜んでそれを読むのってちょっと気持ち悪いの。」
「まぁ、彼の小説を貶す人達の嫌悪感を言葉にしたら、まさにその通りだろうね。でも、ほとんどの人間にとって創作に触れることは少なからずファッション的なものだよ。」
「自己表現。」
「そう。誰かが作ったものを選び取ることが表現なんだよ。」
「その自己表現だって盗品だと思うの。」
「創作する者にとっての常識だよ。」
「じゃあ、まとめるとこういうことよね。盗作の継ぎ接ぎで出来た作品を、購入者が自己表現として身に付けて、作者とエゴを擦り合わせて快楽を得る。」
瓶からビールをグラスに注いで、僕は彼女のグラスにも注いだ。
「むかし、友達が芸術作品の展示をしていて、僕はその作品の一部を盗んだんだ。トイレの水が流れるところに転がってる透明なクリスタルもどき。」
ビールを飲む。この商品はシンプルだ。飲めば気分が良くなる。それだけだ。
「それをポケットいっぱいに詰め込んで会場を出ようとしたときに、出口の脇にあった照明のスイッチのすぐうえに小指の爪くらいの大きさのシールが張ってあったんだ。
真っ赤な色の象のシール。真っ赤な象なんて見たことないだろ。鳥肌が立ったよ。だって赤色の象だぜ?たまんないよな。
その象をシールを剥がして(千年の呪いから解き放つように)、安っぽいクリスタルもどきを一つポケットから取り出して張ろうとしたんだ。
そうすると、展示をしていた人達のなかのひとりの女の子が来て、僕は叱られたんだ。
でも、だからって自分のやったことが、自分以外の人間にとってはただの盗難だなんてことは分かってるし、罰は認めるよ。ただ、罪を認めるつもりはないけどね。」
「そのクリスタルを使った作品ってどんな作品だったの。」
「そんなことどうでもいいよ。」
その時になって急に自分の大人げなさに気付いた僕は話を逸らした。
「うちに来なよ。小説よりもアートよりもファックのほうがずっと良い。」
フルカワがここまで話をして、僕の携帯の電話が鳴って、電話に出て、自身をデリバリーすることをフルカワに伝えて、急いで部屋を出た。玄関に見送ろうとしたフルカワに「その話の着地点は予想がついてる。」と靴を履きながら言った。そう言ってフルカワが何かを考えているあいだに「急ぎなんだ。」と言って礼儀を無視していることを分かったうえで、家をすぐに出た。
フルカワの家から電車を乗り継いで、終電近い京浜東北線で彼女の家に向かう。
僕は上に書いたことの要点をブログに書いて、それから小説に書いて、少し考えた。このセンテンスを書く前に自分はカポーティの『叶えられた祈り』の文体をトレースするように書こうと思ったのに失敗した。冗長だ。
「人は真実を知らないほうがずっと幸せだ。少なくともほとんどの弱い人間にとっては、真実は重荷でしかない。」
その書き出しから、のどかの長編小説は始まっていた。
小説の序盤は一人の男が韓国の貧民街から違法入国した大男が成功について。
中盤はその男が血の繋がりの無い二人の女の子と、実の息子を得るに至った経緯と、二人の女の子と後見人になった男の話。
(その息子の母親について小説では触れられていない)
終盤は、二人の女の子が支配的な環境から逃げ出す話。
ここで『Fine Romance』の上巻は終わる。
下巻は、後見人になる男がいかにして、大男(父)に取り入って成功し、
そして、なぜ男がわざわざそのレコード会社を手に入れようとしたかの話になる。
フルカワの恋の話。
学生の頃にクラブで見つけた女の子に恋に落ちる。
金のないことや、相手には成功したミュージシャンの彼氏がいて結局恋は実らない。
落ち込んでいたところにアルバイトを見つけてシロの父親の会社の求人をみつける。
最初は社長とは接点の無い部署で働いていたが、ドライバーの職を得て気にいられる。
仕事ができることを認められ、(その数々のエピソード)相談役になりその頃、司法試験にごう合格する。
ある出来事で憧れがシロの父親にバレる。
そこでシロ(父)にその女の子のマネージする仕事を任される。(作者はこれをシロの父親の悪意として書いている)
期待を持ちの仕事につき恋人との再会を果たすが、間もなく彼女が政治家やマスコミの役員などに愛人として身体を売っていることを知る。
(このあたりのシロ(父)とフルカワの言い合いは小説の最大の見せ場だ)
フルカワは絶望し、失踪するが、見つかる。
シロの父親に打ち明けられる。女の子を二人預かっていること。
(その女の子達はシロ(父)が良く使う高級な会員制の売春の店に残された名もない子供達だ。
文章ではこのあたりは信じられないくらいあっさり書いているけれど、考えるほどタフな内容だ。
なぜならシロ(父)も同じように貧民街で両親を持たず育ったからだ。)
自分がガンを患っていて、周りには信頼できる人間がいない。遺せるものについて話す。
そして、今フルカワは新しい形で夢を手に入れたが、だがそれでもフルカワは立場として手に入るかつての恋人を自分のものとはしようとしない。
夢を失って、それ幻影であることを理解しながらも、諦めるられないままでいる。
そして、同時に、いまアイドルを目指す女の子と愛人でいること。もう信じられるものない。
物語の最後、フルカワは新しく知り合った若い友人(これは僕とムラハシをミックスした人物を作り上げたキャラクタによって行われる)に、
自分がかつて持っていた幻想を見出して、それを壊そうとするところで終わる。
その夜、のどかと僕は『真実』について話をしていた。
ひとは本当のことを知るほうがいいのか、知らないままでいたほうがいいのか。
僕は後者の立場を取り、彼女は前者を選んだ。
「いろんな連中が自分を騙す瞬間を何度も見てきた。」
そう僕は言った。いくら酒を飲んでも酔わない夜だった。
「何かを隠されたまま生きてことは損だと思うの。別に善悪の問題じゃなくてね。」
「知って損することもあるんじゃないかな?」
「例えば?」
「好きなひとが別の異性と浮気してるとか、死んだら’何も無い’っていうこととか。」
「そんなの気付くに決まってるじゃない。」
「気付かない連中もいる。」
「私、そんな無神経な連中耐えられないわ。」
「自分にとって不都合なことに目を向けようとしないのは誰だって同じだし、それは本能みたいなものだからどうにかなるものじゃないんじゃないかな。」
「でも、だとしたら、その本能を利用しようとしたら、利用としようとするやつの言いなりじゃない。」
「そうかもしれない。」
のどかは腕を胸の下で組んで斜め右下のあたりを睨んでいた。
僕はこう付け加えた。
「でも、どっちが悪いってわけじゃないんだ。騙されるやつは嘘を必要としているし、騙すやつだって与えてほしいことが分かってるから。」
「なんで虚構と欺瞞が必要なのかしら。」
「弱いからだよ。強く現実的であろうとするより、弱いままで怠惰でいるほうが損をするとしても楽なことだから。君はどう思う?」
「想像力の問題だと思う。」
腕を解いて彼女はテーブルの上に人差し指で線をひいていた。
「ねぇ、小説は嘘じゃないの?」
「嘘よ。でも、それは真実なのよ。宝石のようなもの。岩石を削って形を整えた本質が真実なの。」
僕はこんなこと話をしていてもキリがないと思った。
「そんなことよりゲームをしようよ。」
「いいよ。」
「じゃあ今日は『使ってると知的っぽい言葉。』」
「『スキーム』」
「『モダン』」
「『ロジック』」
「知的っぽい言葉といえば村上春樹の新しいの読んだ?」
いつも通り彼女の思考の飛躍と、唐突さに呆れながらも僕は答えた。
「読んだ。」
「どう?」
「面白かったよ。」
「そう、確かに面白かったけど、でも、あの『パッシバ』がなんちゃらっていうところは最悪よね。」
僕は肩をすくめた。彼女は続けた。
「面白いのは認めるわ。少なからず影響も受けたしね。でも、やっぱりあのインテリ気取りの部分が耐えられないの。」
「実際にインテリなんじゃないかな。」
「絶対に本人は認めないんじゃない。私、小難しい言葉を使って自分を良く見せようとするのって、いっつもダサいって思うの。」
「そこに置いてある君のプラダだって同じだよ。」
「これはただの商品よ。」
「小説だって、デザイナーがいて、生産があって、宣伝がある。モダンでロジカルなスキームに支えられた立派な商品だよ。」
僕も彼女もむきになっているのは分かったけど、彼女と議論ごっこをするのは飽きないので続けた。
「でも、洋服やバッグは買った人間をよく見せるものでしょ。作家が自分自身を飾るために物語を書くなんてちょっと不誠実だと思う。」
「洋服デザイナーだって、ショーの最後に出て顕示欲を満たす。」
僕はビールを飲み干して付け加えた。
「君にはきっと、色んな内心の規則が沢山あって、それには、小説かくあるべし、とか、人間かくあるべし、とか、そういうのが沢山あるんだろうね。」
「スノッブの作者が気取って書いた小説を、スノッブな読者が喜んでそれを読むのってちょっと気持ち悪いの。」
「まぁ、彼の小説を貶す人達の嫌悪感を言葉にしたら、まさにその通りだろうね。でも、ほとんどの人間にとって創作に触れることは少なからずファッション的なものだよ。」
「自己表現。」
「そう。誰かが作ったものを選び取ることが表現なんだよ。」
「その自己表現だって盗品だと思うの。」
「創作する者にとっての常識だよ。」
「じゃあ、まとめるとこういうことよね。盗作の継ぎ接ぎで出来た作品を、購入者が自己表現として身に付けて、作者とエゴを擦り合わせて快楽を得る。」
瓶からビールをグラスに注いで、僕は彼女のグラスにも注いだ。
「むかし、友達が芸術作品の展示をしていて、僕はその作品の一部を盗んだんだ。トイレの水が流れるところに転がってる透明なクリスタルもどき。」
ビールを飲む。この商品はシンプルだ。飲めば気分が良くなる。それだけだ。
「それをポケットいっぱいに詰め込んで会場を出ようとしたときに、出口の脇にあった照明のスイッチのすぐうえに小指の爪くらいの大きさのシールが張ってあったんだ。
真っ赤な色の象のシール。真っ赤な象なんて見たことないだろ。鳥肌が立ったよ。だって赤色の象だぜ?たまんないよな。
その象をシールを剥がして(千年の呪いから解き放つように)、安っぽいクリスタルもどきを一つポケットから取り出して張ろうとしたんだ。
そうすると、展示をしていた人達のなかのひとりの女の子が来て、僕は叱られたんだ。
でも、だからって自分のやったことが、自分以外の人間にとってはただの盗難だなんてことは分かってるし、罰は認めるよ。ただ、罪を認めるつもりはないけどね。」
「そのクリスタルを使った作品ってどんな作品だったの。」
「そんなことどうでもいいよ。」
その時になって急に自分の大人げなさに気付いた僕は話を逸らした。
「うちに来なよ。小説よりもアートよりもファックのほうがずっと良い。」
コメント
BOの続きってあるの?
書くと思うけど、書けるほど君のことを知らない。