テ の ア ア イ 
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  ト 僕 フ ミ ビ

のどかはテンゴくんが書いている小説に異常に興味を示していたが、彼は一切答えようととしなかった。
「金城のどかの小説のどのへんが好きなの?」と、のどかは訊いた。
「小説を貫く声みたいなものがあるんだよ。テーマとは少し違う。」とテンゴくんは答えた。
「そんなこと本人は全然考えてないかもよ。フィーリングで適当に書いてるかも。」と、彼女が言った。
「じゃあ、なおさら、その声が作品に反映されてるんじゃない?自動筆記みたいに。」
僕はトリイさんと、安部公房の小説の話をしていた。濁りのないのに、透明ではない生まれたばかりのような目。才能が溢れ出して止まらない彼女の話を聞いているうちに、自分の発想の乏しさを思い知った。
アミとアヤがミネタくんの方を向いて、「私たちどっちが可愛い?」と訊いた。
「イケダさん、はっきりしないの。」とアミ。
「比べようがないって。」とアヤ。」
ミネタくんは酒が飲めないから、酔ってないはずになって。顔を赤くした。女の子に慣れてないのかもしれない。
ふざけてビギーは「私も入れて!3人のなかで誰がいちばん可愛い?」と言うと、ミネタくんの顔はもっと赤くなっていた。きっとミネタくんを足した彼ら4人のなかでいちばん可愛いのは彼だろう。
ファニーのグラスが空になってるのを見て、僕がビールを注ぐと、彼女は「ありがとう」と落ち着いた声で言って、「あなたの彼女素敵ね。」と付けた足した。
「彼女だったら嬉しいんだけどね。」と僕は枝豆を食べながら言った。
「付き合ってるんじゃないの?」とトリイが訊いた。
のどかは「読ましてよ、小説。」と言いながら手をテンゴくんの膝に置いて頼んだ。
「僕のための物語じゃないんだ。」と彼は答えた。
「付き合ってないよ。僕のための女の子じゃないんだ。」と、前の二人に聞かせるみたいに言った。
表情や態度には殆ど出ないけれど、トリイが苛立ったのに僕は気付いたし、ファニーはビールに一口飲んだ。僕は心の中で、自分をハンサムに生んでくれた両親(特に美人の母親のほうに)に感謝した。
ファニーに「ねぇ、金城のどかの小説のなかで、どのキャラが好き?」と質問して話の流れを変えた。
「女の子で?男の子で?」
「じゃあ男の子で。」
「やっぱりクラハシくんかな。」とファニーは答えた。クラハシくんっていうのは『Fine Romance』に出て来た主人公で、モデルはもちろんムラハシだ。
「ふーん。じゃあトリイさんは?」と僕は反対を向いて訊いた。
「マツヤマくんかなー。」
マツヤマくんっていうのは、のどかの初期の小説の主人公で、捨て子で貧乏な育ちをした、才能があり冷たく、自分が出世するために周りの人間を利用する男の子だ。
「じゃあ、逆に、女の子で好きなキャラクタは?」とトリイが僕に聞いた。
「『Modern Romance』(後で『Fine Romance』の原形になった短編小説)の、コグマ・サユメ。」
「うそー。」
「いや、あの完璧にビッチだけど、内面が乙女っていうアンバランスさが。」
「カワゴエさんは誰が好きなの?」と僕はのどかに訊いた。もちろん、カワゴエというのは彼女が自己紹介した時の偽名だ。
(「カワゴエ・ユキです。仕事はピアノの調律で、カネシロ・ノドカに出てくるお洒落な女性が出てくるところが好きです。」などなど。)

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