「もしもご飯ができたら」とユキ。「窓から投げ捨てて外に食べに行く」と僕。「ねぇ、明日は動物園に行かない?」とユキは言うので、僕はご飯を皿に盛りつけながら、それはいいと思って、「いいね。」と言った。「動物は何が好き?」とユキが訊いて、「シマウマかな」と答えた。「なんでシマウマ?」「群れて行動したときに初めて長所を生かすところ」「ふーん」とユキは答えて、僕の渡したご飯を無理やり平らにして、そこに、カレーのルーをインドネシアの細切れの諸島のように垂らした。「シマシマ盛りよ!」と彼女は勝ち誇った表情で僕に皿を渡した。「シマシマしてるね。」と僕は感想を言った。「シマシマシマシマ」とユキは呟きながら自分用の小さな皿もシマウマみたいに盛りつけた。「白黒っていうか白茶色だけど」と僕がつまらないことをユキに言うと、ユキは「なんで白黒なの?」と僕に訊いた。エイリアンは『霊長類以外の哺乳類は色の識別能力が低いため、白黒でも遠くから見ると草原の模様に埋もれて判別しにくい。』という趣旨のことを僕たちにテレパシーした。声はなく、意味伝達だけが行われ、意味だけを僕たちは受け取る。「じゃあチンパンジーと私たちだけがシマウマが白黒だってことに気付くのね。」同じ対象から、限られた連中だけが、別の次元の情報を読み取ることができる、という概念について僕は考えていた。人々は今日も縞模様だ。「なんの動物が好き?」とユキに訊く。訊いてから僕は彼女が白クマのことを思い出すんじゃないかと思って、失敗したと思った。彼女はずっと遠くの標識に目をこらすように、集中した。のどかと同じだ。それからほんの少しのあいだ、悲しい顔をして、それから「コウモリ」と言った。「なんで?」「別に」と言って、彼女は黙ってカレーを食べ始めた。僕は彼女の真似をして1万光年先の星を見つけるみたいな目つきをして考えた。そこでエイリアンが僕の思考を読み取って、僕の視覚を奪って1光年先の星を眼前に表示して、消えた。その答えに潜む彼女の真意を読み取ろうとした。僕は小学生の時に使っていた自由帳の最後のほうに書いてあったおまけの挿話を思い出した。鳥と獣の両方と仲良くしようとした動物が、彼らの中間である鳥と獣の中間になって、どちらからも仲間外れにされる、という話だ。
なんとなく、気詰まりになって「音楽かけていい?」と僕は言った。彼女は首を縦に振る代わりに僕のほうを向いて、つんとした官能的ともいえる目で答えた。
ウェブでダウンロードして、どうにかCD-Rに焼き付けた、Stone Rosesの『I’m Without Shoes』をかけた。

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