「やがて羊の吐息は聞こえなくなり、しばらくすると狼と呼ばれる生き物は食べれそうな部分をあらかた食べ切って、サナギが脱皮したように、抜け殻になった身体の内側をなくした羊を残して去っていった。3匹の狼のうち2匹が暗闇に溶け込むようにいなくなると、残りの狼が黒い羊を見つめた。じっと見つめて、黒い羊は足にくさびを打ち込まれたように動けなくなった。恐れからではない。月のことだ。いつもあの感情とすらいえない何かを呼び出す、その何かが二つの心を結びつけていた。それは、開拓者に「もっと遠くだ」と呼ぶあの声に似ている。そしていなくなった。黒い羊は、幾層にも重なる葉と草木をくぐると、夢中で、羊にわずかに残った血と肉を食った。骨にこびりつくひと切れさえ、舐めとった。供された果実を夜中に延々と食べるように、その所作は優雅とさえ言えた。動作を制御する意識が純粋な欲望と交換されて、満たすという欲求に頭まで浸かっていた。
そして夜更け過ぎに、気がつくと、丸めて畳んで搾り取った歯磨き粉のチューブみたいに皮と骨と頭(どうしてもそれに目を向けることができなかった)だけが残って、その羊の顔を見て、やっと気づいたのだ。それはいつもそばにいて自分を守ったあの小さな身体の羊だった。
黒い羊はその場を立ち去った。その黒い羊がその時感じた感情の名前はまだ発明されていない。」

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