ユキが最近、朝アラームを20分毎にかけて、「夢うつつを繰り返せる。しかも違う夢で何度も!!」と言って、先に目が覚めてしまう僕は、彼女が起きたりまた眠ったりする様子を眺めている。

りんごジュース・トースト・サラダ、彼女と向きあって朝食。彼女はしゃべり続ける。よく喋るし、僕は彼女の森の二人の木こりが大木を二人挽きのノコギリで歌うような調子のお喋りを聴くのが好きだ。
「カポーティは『お山の大将』のなかでマーロン・ブランドを描いているんだけど、そうそう、ブランドが『欲望という名の電車』で身につけていたT字の肌着が流行って、それで世間に浸透してTシャツになったの。元々Tシャツは肌着だったわけ。で、そのエッセイのなかで私が気に入ったのは、俗にスターって言われる人達が大衆を惹きつけるしかけで、ひとつはミステリアスであること。もうひとつはエキセントリックであること。その二つをブランドは意識的に振る舞っていたわけじゃなくて、結果的にそうであっただけ。それでその二つ、というかブランドのそういった点を真似た俳優が同じように人気を出したことがあって、でも、そういうのって馬鹿げてない?泉の美しさは、それがただ光を反射する大きな水たまりだからってわけじゃないでしょ。それと他に気に入ったところは、カポーティが、その観察記録を描いたやり方。そもそもカポーティは、ブランドと知り合いだったんだけど、特別仲が良いってわけじゃなくて、カポーティはブランドが出演する日本映画の京都に出向いて、ホテルでプライベートな会話を始める。酒がすすんで、カポーティは自分の今までの人生や、内面的な、デリケートな話、心理学でいうところの自己開示をするの。で、何が起こるかっていうと、ブランドも同じように自分の人生や葛藤や半生や、とにかく心の奥深い部分を打ち明け始める。そして、ブランドのエッセイが完成したとき、そこに残っているのはブランドの長い独白だけ。もちろんブランドをそれを読んだ時、激怒するわけだけど、カポーティはむしろそれが当然だっていうみたいな態度。それで、私は思ったんだけど、そういう風に彼、カポーティが、小説家としてベストであろうとすることは、彼にとっての表の動機、彼自身が思っている彼の動機、周りからは反感を買ってでも良い物を書こうとする姿勢が理由としてそうしていると思ってると思うの。周りもそういう理由でそういう他人の内面の暴露をしていると思ってるんだろうけど、でも私の見方は違うの。」
彼女は食パンを1/4にちぎってイチゴジャムを乗せながら言う。
「それはカポーティにとって、甘える行為だと思うの。しかも破滅的な。相手が怒ることは最初からカポーティにも分かりきっていて、それでも、彼は彼が彼らしく振る舞うことを許してほしいと思ってる。最初からそれが許されないことだって分かっていながらそれを求めたの。そういうのって破滅的だし、」
彼女はパンを頬張って、リンゴジュースで流しこんで続ける。
「そういうのって破滅的だけど、でも、私はそういうのが凄く可愛いと思えるの。」

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