風呂を洗いながら、僕は喋る。「風呂掃除をしないで済む方法を考えてるんだけど」とユキに言う。「まずひとつは、誰かを雇ってお風呂を洗ってもらう。お手伝いさんとか、主夫とか主婦とか、君が洗うんでもいい。」彼女はヨーグルトに果物を盛り付けている。「次が、お風呂のない家に住む。銭湯とか。もしくは家に風呂場があってもあえて入らないで銭湯に行く。あともうひとつ思いついたんだけどホテル住まい。元々風呂掃除するサービスがその家に備わってる。」「銭湯行ったことない!!今度いこ?」「うん。いいね。こういうのはどうだろう。汚れがつかない風呂場。水垢もカビも汚れがつかないようになってる加工がされてる。」「いずれにしろお金がかかるのね。」「物には値段がある。俗界の原理原則だよ。カネをかけるか手間をかけるか。」「できた。美味しそう。」風呂場から出てきて僕は言う。「ねぇ、世の中の御大層な連中って風呂掃除しないで済む何かを生み出したりしないのかな?いつも思うんだけど、洗濯機を発明した人とかって、テレビに出てきて若い人達の格好に「品がなんちゃら」とか言って、金もらってるコメンテーターの1億倍くらい凄いと思うんだよね。」「はやくたべようよ。」「そうだね。でも、俺はいつも叫びたくなるんだ。「僕たち、いや、少なくとも僕に必要なのは救世主やヒーローじゃなくて食器洗い乾燥機なんだ!」って。「もし本当に社会の悪なんてもの存在するなら、そいつはたぶん大量虐殺なんてしなくて、日常のこまごまとしたつまらないことでおろし金みたいに、僕たちを少しずつ確実に擦り減らすんだ。」って。」

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