「私、向こうに行ったら彼と結婚するの。」と彼女は隣で装着を始めながら言った。
「神父の前でアイボと並んで愛の誓いをするのか。」
彼女は少し笑った。
「準備できたよ。」とM氏は言った。
突然、排水口から水が逆流して泡を吐き出すようなごぽっという音が聞こえた。僕はそれがTRが向こうに繋がる合図の音だと思ったが、ヘッドフォン越しにMの「嘘だろ。」という言葉が聞こえた。「そんな」と彼は言った。不吉に感じた僕はHMDを外すと、コメディアンの喉に刀くらいの長さの発光する棒が刺さっていて、そのそばには、その棒より背の低い子どもが、TRの黒い筐体の上に立って、その光る棒の柄の部分を片手で握って、Mを見下ろしていた。
「さよなら。」とさっきまでは透明だっただろう、骨のように白い強化外殻を身にまとった子どもがいった。声変わり前の女の子の声だ。頭までボディースーツに覆われていて、目はなく、目と口に穴はなかった。こんなときにカタギリくんはまた場違いに、どうやって声を発したんだろうという疑問を持った。

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