僕たちは車に乗り込んで移動している。
夕暮れのなか、奇妙な組み合わせの集団に紛れ込んで、この車が今この直後、事故に遭って一瞬で全員死ぬかもしれないことに気付いた。もし来週に世界が終わってしまうとしたら、好きなひとのそばにいたいと思った。もし来年あたりに世界が終わるとしても愛しいひとのそばにいたいと思った。もし明日死ぬことを知らないまま、本当は好きじゃないひとと一緒にいるとしたら、それが小説になるとしたら絶望的な物語じゃないかと思った。それは失敗した人生じゃないかと思った。
「何か躊躇する理由でもあるの?」と僕は無意識を声に出してしまう。居所の無い言葉が車内に浮かんで、その見えない音の揺らぎの残像に触れたユキが「躊躇うことなんてなにもないよ。」と答えて僕の肩に小さな身体を静かに寄せた。
夕暮れのなか僕たちはそれぞれの終わりに向けて移動していた。

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