何も映らないHMDを眺めながらユキは「ちょっと悔しいんだけど」と呟いた。「ちょっともう一回時間戻して」と言うとコメディアンの目の前に立っているところから再開された。ユキは動作をキャプチャしたデータを解析して自分の所作セットに組み込んだ。動きが再現されてコメディアンに全部の蹴りを打ち込んで、カタナを突き刺してとどめをさした。「それ、デコイよ。」とサエリが信じられないといった口調でユキに言った。「デコイ?」「おとり。」「さらに言うと私が捕まえたミダスもそう。」「じゃあ私たちは偽物を追いかけてたってこと?」「そうみたい。」「本体は?」「いない。」「いない?」「どういうこと?」「あの子凄いわ。私が作ったシステムの復元の機能、見てるそばから見よう見真似で同じプログラムをこの短時間で作り上げて、それを応用して、過去に戻って自分たちだけ違う未来、私たちが邪魔をしない未来に分岐して進んでいったの。私たちが相手をしていた場面とは違う現在で活動していたの。」「じゃあこれは?」「ただのデータよ。そうはいってもどちらか本物っていうことはないの。全く同じデータであれば。」そこでミダスが喋った。「もう僕たちは向こう側に行ったよ。残ったのは分岐した未来に行けなかった僕と、そこにいる彼だ。コメディアンのデータはマスターデータは消し去ってある。」「これよ」とサエリが言った。心底嬉しそうだった。「ねぇ、知ってた?エージェントのシステム達の中だけでも生存本能を持っているのはあなたとその恋人だけなのよ?こうやって私の裏をかいて素晴らしい仕組みを作って管理者である私を欺いてその上を行けるのは。」「それで俺たちはどうなる?」とカタギリくんは言った。「どうもしないわ。ミダスくんに関しては消しちゃうわ。」「ちょっと待って。」とユキは言った。「なんかそれって可哀想。その機械人形にインストールできないの?」「うーん。勝手にこの世界の破壊工作されても困るのよね。」「じゃあ彼も私の中に入れて。」「それ本気で言ってるの?」「この際私のなかにいるのが二人でも三人でも変わらないわ。」「いいけど…。本当に気が狂っちゃうかもしれないのよ?」「別に。」「そう。じゃあ始めるわよ。」「え、もう?」「何か躊躇うことなんてあるの?10秒で終わるわ。」「ねぇ、そういえばそこにいる彼ももしかして二人いるってこと?」「うん。」「殺しちゃうの?」「んー、面白いからこの世界で初めて同一の、同じ遺伝子と同じ記憶を持った存在として、私の下で働いてもらうわ。」カタギリくんは笑い始めた。そして・・・
HMDを外したユキは立ち上がってフラフラと歩き始めた。全てが新鮮だ。

コメント

霧木里守≒畑楽希有(はたら句きあり)
2010年6月16日10:59

 159000、踏みました☆

yanaka
2010年6月16日22:46

おー、すげーじゃん。おめでとう。

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