図書館で待ち合わせたのには理由がある。
誰も俺たちに気を払わないし、静かで、声を潜めて彼女といろんなこと、出来れば何もかもを話したかったからだ。
「おまたせ。何読んでるの?」
「バルザックの『砂漠の情熱』」
「面白い?」
「文句のつけようがない。バルザックはフランスが生み出した3つの素晴らしいもののひとつだと思うね」
「他の二つは?」
「daft punkとカノン砲」
「なるほど。今日はあなたずいぶんラフな格好ね」
「絵を買う金持ちが毎日洒落た服を着てるなんて馬鹿みたいだろ?だからそのへんで売ってるハーフパンツにヘインズのTシャツを着てる」
「そう?」
「本当は楽な格好が好きなんだ。着てる服で人を判断するなんてろくに世間を知らない低脳のやることだ」
「ふーん」
「すごく素敵な服だね」
「昔ヴァレンシアガがデザインしたエールフランスの制服の完璧なコピー。友だちが服作ってて、写真何枚か見せたら私にフィットしたサイズで作ってくれたの」
「ねぇもしかしてその服は結構高かった?」
「絵を買い占めて私と寝て私を手に入れたつもりだったでしょ?だから手に入ったお金は最低限の生活費を残して全部洋服に使ったの」
「反抗したかったって?」
「あなたのやり方って全然ユーモアがないじゃない。だから」
「なるほど」
「『快適な空の旅を』」
なんて良い女なんだ。
いろんなことを僕たちは話した。
いつでもキスできるくらいの距離で。お互いの秘密を打ち明けるようにささやなか声で。

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