結論

2009年3月23日 日常 コメント (2)
なんていうか、もう、色々を差っ引いて言うと、誰かに抱きしめられたい。

それから、抱きしめてくれたその相手に、うんざりするくらい甘えて、それから、それ以上はないっていうくらい優しくしたい。

それがいま心底から望んでいること。
どうにか、ひいてる感じを隠してどうにかコミュニケーションをとろうとすると、いきなりポケットからハーシーの板チョコを取り出して割って私に渡して食えというジェスチャーをしはじめて、椅子から転げ落ちそうになった。それをかじるとまず、かなり気まずい雰囲気がさらに悪化してどうすればいいのかもう見当がつかなくなった。コーヒーを買って私ユキその男の順で席で並んでいると妙な感覚になった。



「いつから僕だって分かってたの?っていうかどこでどうやって見つけたの?」と僕がたずねると、ユキは「もっと早く気付くと思った。鈍いんだ。」と答えた。「本当はもっと前から僕は君のことを知っていたんだ。ここの近くの小さな三角の公園で君が犬と一緒にいたところを見たんだ。」「その犬ならそこにいるけど。あの子とはちょっと違うんだけどね。」とユキは指さして言って(言いながら、彼は犬みたいな猫みたいな優雅な雰囲気があって、それがこれから、彼を説明するときの比喩にしようと思った。犬みたいな猫みたいな男の子。)、ユキはマリコに犬を紹介した。「ヤスハルっていうの。可愛いでしょ。
」雨に濡れて寒そうにしているところを「可愛いぃいい!」と言った。
私はなんで女の子モードで犬を褒めて(いわゆる犬を可愛いって言う自分が可愛いという策略)いることに気付いて焦った。
「どんな話をしてたの?」と僕はユキに聞くと、彼女は楽しそうに微笑んでじっと上目遣いでイタズラっぽく見つめてから、微笑みながら「秘密。」と言った。「女の子の秘密ね。」と僕はマリコにそれっぽく視線を流して言うと、彼女は味のある表情をした。今さら隠しても、と僕は思った。「君にはどんな秘密があるの?」とユキに聞くと、それをそのまま左横のマリコに訊いた。マリコは肩をすくめて、コーヒーカップに突き刺さったマドラーでかき混ぜた。なぜか僕はとつぜん苛立ちを感じ始めた。「じゃあ僕の秘密の話をするよ。これは3年前に会った出来事なんだけど。場所は横浜駅のルミネのヴィレッジバンガードっていう本屋でのことなんだ。」
ある日の夕方、僕は本屋にいて、寂しい気持ちだったんだけど、それは気に入っていたモデル出身のアイドル歌手の女の子にクラブでフラれたからだったか、それとも、金がなかったからか、よく覚えてないけど、とにかく、打ちのめされた気分だった。欲しいものを見つからないまま、無職で街を歩いていると、何もかもが灰色に見えた。辛くないけど楽しくもない生ぬるい毎日だったから。それでとりあえず本屋に入って、物欲もないくせに、なんやかんやの細かいものを眺めていて、沢山の文庫本の一ページを開いては閉じてっていうのを繰り返してた。高校生のときに、腐るほど小説を読んでいたせいで、最初の3行をざっと目を通しただけで、その全体が面白いかどうかが分かるようになっていたんだ。人間だって同じだよ。高慢に聞こえるかな。ともかく、そのとき何冊も開いたなかには気に入る小説はなかった。そういうのってほんとに少ないんだ。マンガのコーナーに突き当たると、ベースを背負った女の子がいた。そのときにぴんときたんだ。小説のようにね。例えば、オースターの『リヴァイアサン』の最初の一行みたいに、彼女は僕の心を捉えたんだ。半透明でバンドやるって感じじゃないけど、でもやたらと説得力がある、がっちりした肩幅とか、大きな目とか、真っ直ぐ通った立派な鼻筋とか、長くて綺麗な黒い前髪が眉まで隠していて、彼女が一瞬横目で僕のほうを見て、すこし落ち着きがなくなったのがわかった。彼女はゆっくりと本を選んでいるつもりなんだけど、僕には焦っているように見えた。まず彼女の右隣に行って不自然にならない程度の距離に立つ。彼女の息づかいが感じられるみたいに、まるで身体の動きに熱がこもって、それが僕に伝わった。彼女が僕から少し離れて本を手に取ると、次に僕は左隣(さっきよりほんの少しだけ彼女と近い)に移動して、また本を選びながら、それから彼女の目を2秒間覗いた。彼女はまた横目で僕を見て、彼女も本を取った。彼女の足下が迷っているみたいに落ち着きがなくなっていた。つま先をこねくり回したりしている。僕は本を意識的な動作で置いて、別の本をまた意識的な動作でもって取って読む。もちろん、中身なんて全然読んでない。僕だって緊張していた。けれど、不思議と、そのときはどんなことでもできる気分だった。本を眺めながらも、彼女の様子をつぶさに眺めていると、1分くらいの間に2回つばを飲み込んで、足を4回組み直した。また彼女は移動するんだけど、僕は少しの間をもって彼女を追った。そのとき、彼女が濡れている目で僕のほうを振り返って、びっくりしたみたいに頭を進行方向に戻した。そういう態度で何を感じているのかを汲み取ることができるようになったのはいつからだろう。中学あがった当初に、クラスのリーダー各の男に「お前は女にモテるからいいよな。」って言われて、僕はそれを信じなかったけれど、気付くと、そういう立場にあるんだって気付いた。気付かされたっていうほうが近いかな。でも、コンプレックスが強過ぎて、余裕がなさすぎて、わけのわからない環境に圧迫されてて、それを使うことはできなかった。でも、そうやって自分のルックスに注目する時に、女の子がどんな態度になるかも、どういう風に感じるかも、人よりずっと早く分かることになったんだ。(これって自慢みたいに聞こえると嫌なんだけど、時々、ほんとに自分を客観視せずにはいられないんだ。)女の子が髪を鋤く仕草、目が濡れるとき、指先が落ち着かなくなるとき、そういうような沢山の仕草。彼女がそこで手に取った古谷実のマンガを彼女が棚に戻したところで、僕はそれを棚から取り上げて自分で開いて、それをまた棚に戻して、彼女と目があって、それからこう言った。「音楽やってるの?」って。彼女は「はい」とか「えぇ」とかなんか言ったと思う。まぁ、ベース持ってて、音楽やってないわけがないんだけど、とにかく相手がYesとしか答えない質問をいくつかした。「バンドやってるの?」とか「マンガ好きなの?」とか、そういう平凡な質問をいくつかした。いつも思うんだけど、なんで人って、平凡な会話しか初対面の相手とできないんだろう。小説みたいにキザっていうのとはちょっと違うんだけど、遊び心があるっていうか、ウィットがあるっていうか、そういう会話を初対面にしたらちょっと格好いいかなって思うんだけど、僕はぎこちなく彼女と話をしようって試みてた。今でもよく思うんだけど、あの時の僕たちの会話を録音したものに値段をつけるなら、50年後くらいに自分は100万円くらい僕は払うんじゃないかと思う。その子との会話が少しずつ滑らかになっていくのを実感しているときに、彼女の隣に男が立ったんだ。
そこで彼は話を切った。気付いたら話に引き込まれていた。「それで?」と思わず、話の続きを促してしまった。ユキは、あまりに夢中で話を聞いていたせいで、口が半開きになって、口の端から少し涎が垂れていた。私はペーパーナプキンで彼女の涎を拭くと、はっとして、彼女は意識を取り戻した。彼はもったいぶって、コーヒーを飲んで、それから席を立ってトイレに向かった。焦らされている。ユキは「たぶんあの話の続きは、その彼氏的な男の子に殴られて終わっちゃうと思う。」とユキはキャラメルフラペチーノのフタの裏側についたキャラメルをストローでつまんで舐めながら言った。「連れてかれて殴られて、土下座して謝るとか?悲惨。」と笑って言った。彼はトイレから戻ってきた。白地に黒い水玉のハンカチが少し可愛いと思った。黒いコンバースの靴、黒い細いズボン、黒い大きめのTシャツ(ミッキーマウスの顔が腐ってぐちゃぐちゃになった絵が書いてあるハードコアのバンドTシャツ)黒づくめの格好だ。席につくと、こう言った。「この話が終わったら、二人もちゃんと、とっておきの秘密の話をしなきゃいけないんだよ。」
僕、ベースを持った女の子、その彼氏みたいな男の3人でなぜか並んでいるのが凄くシュールに感じた。僕はこの危機を機転でもって乗り越えてこそのものだと思った。なんでそう思ったのかは自分でも分からない。思い切って「彼氏?」と尋ねた。いま考えると、これはマズい質問だったと思う。これで「うん、彼氏。」とか気まずい感じで答えられたら後が無かった、が!彼氏じゃなかった。「んーん。一緒に音楽をやってる人。」と答えた。世界を破滅させるその脅威が、ただの音楽オタクっぽい猫背のぼんやりした男に変わっていった。主観。すぐに気を取り直して、そのあとカフェに行く予定だったのを、連絡先を聞いて、「俺も音楽やってるから一緒に音楽の話とか、それともバンド組んじゃう?」的な方向に持っていく戦略に切り替えた。適度に、そのバンド仲間のやつに話を振りつつ、「じゃあ俺予定あるから。」と言って、そのあとに「今度音楽の話とかしようよ。」と続ける前に向こうから「連絡先交換しましょうよ。」と言われて、テンションが沸点を遥かに超えていった。なんてことだ。これはいわゆる、前職の課長が言っていた、「女が自分からベッドに誘い込むくらいじゃないとダメ。」の誘い込むようなノリだと思って、震える手で彼女の手帳に連絡先を書いた。携帯電話で僕がそのとき連絡先を交換できなかったのは、携帯電話を無くしていて、しかも僕が無職の頃で金がなくて、代わりの携帯電話を手に入れることができていなかったからだ。そんなに余裕がなかったのに、よく女の子を口説けたって思う。僕からも連絡できるように、自分用に彼女の携帯の番号とアドレスも書いて僕はその場をから立ち去った。
まず、ユキから質問があがった。「それっていつのこと?」「3年前。21才のときかな。」「なんで本屋でナンパなわけ?」「んー、ヴィレッジバンガードっていうのはそういうに適している場所なのかもね。」と笑って彼は答えた。「まず、可愛い女の子がいる。男も立ち入れる。話のきっかけになる対象がある。雰囲気が友好的。」「なるほど。」と言って、ユキは手帳にこう書いた。
ナンパに適した環境
・可愛い女の子がいる
・男も入れる
・話のきっかけになるものがある
・雰囲気がいい
そんなの書いて何するのかは分からないけれど、興味深いといえば興味深い。私は「その子とどうなったの?」と当然誰もが思う質問をすると、彼は首をすくめた。私の真似、と思った。
僕がその話の続きをしなかったのには理由がある。ちょっとしたルールにひっかかってしまうからだ。それは僕が物を語るときの最低限のいくつかのルールに接触するものだったから、そうしなかった。次はユキの番だ。どんな話が出てくるんだろう。「じゃあつぎ。交代ね。」「ちょっと待ってよ。」とユキは抗議した。真剣に怒っている顔が真剣に可愛い。「まだ続きがあるんでしょ。まさか、連絡先交換して、それで終わりってわけじゃないでしょ。」「そうだね。でも君にはまだ早いよ。」「バラすよ。」「何を?」とちょっと僕は恐ろしくなった。身に覚えがあることが多過ぎるから、そのうちのどれがバレてもおかしくない。ユキは耳打ちをしようと僕の肩に手をかけた。「ちゅーしたの言う。」とこっそり言った。大袈裟にリアクションをするつもりじゃなかったけど、「あああええええええ!」と叫んだ。マリコがびくっと震えた。「それはなしでしょー。」「なしじゃないよ。ありだよ。」と僕を半ば脅迫しはじめた。脅すときでも可愛く言うってなんなんだ。「じゃあ、二人が話終わったあとに話すよ。それでいいでしょ?」彼女は腕を組んで片手を顎に当てた。こういう場合はだいたい、男が損な役をかぶって、女の子は保身するものだけど。


動物園で沢山の生き物を見ていると、なぜだか気持ちが落ち着く。僕と彼女と動物達。穏やかな目をした鹿、官能的な豹。じっと動かない鰐。ゆっくりと草を食べる麒麟。彼女は白いワンピースを着ていて、二つの気持ちが起きた。壊したい気持ちと、守りたい気持ち。いつもみたいに何も言葉を交わさないけれど、ときどき、僕が遅れて追いつこうとして待っているときに、彼女が僕を待っていてこっちを見ているときに、愛おしさが伝わる表情だけで、色々なことがどうにかなって、精神が身体から解放されて空気のなかに溶けて消えそうになった。鹿とワラビーの檻が並んでいて、両方の檻の中間は黒くて冷たい鉄製の棒で仕切られているのに、その全く違った種類の生き物が、キスをしていた。動物の学問として、そういうのはどういう解釈がされているんだろう。何か毛づくろいみたいに意味のある行為なのか。それとも詩のように、感情を基にした、行為なんだろうか。
ふれあいコーナーという小動物ばかり集まった小さい囲いのある日溜まりのある広場で二人で、うさぎとか、ひよことか、羊とか、ポニー、猫も犬もいた。犬も猫も、動物なんだけど親しみが有り過ぎて生き物って感じがしなかった。犬がウサギを追いかけていて、ウサギを食べちゃうんじゃないかと思った。よくよく考えると、猫も犬も肉食の動物だ。猫は達観して犬も含めた動物達の動きを眺めていた。彼女は羊にシンパシーを感じているみたいだったけれど、羊は無頓着に首をかしげていた。優しい気持ちが僕を包む。携帯のカメラで彼女と羊を撮ろうとすると、後ろからポニーが僕を小突いた、よろけて、その様子をみて彼女は彼女は楽しそうに笑った。彼女がウサギ一匹捕まえて、得意気に捕まえてみせて凄いでしょ、といわんばかりに僕に見せつけてきたので、近くのベンチにいる別の黒いウサギを捕まえた。彼女は真っ白のウサギ、僕は真っ黒のうさぎ。二人でベンチに座って何か言おうと思ったけれど、僕には言葉が出なかった。自分でも信じられないけど、彼女の声を聴いたことを僕は無かった。どうやってこうしてデートに至ったのかも自分でも分からなかった。彼女の声を聴いたら、何かが変わってしまうんじゃないかと思って怖いのだ。ちょうど、夢の終わりが自分にとって都合の良い展開になったところで、それが夢だってことを意識したせいで、こんなことないって意識したせいで、自分から夢を終わらせてしまうみたいに。僕は「プリン」と言った。彼女は口を少しだけ開いて僕のことを見た。彼女はいつも少しだけ口が開いて、でも、それがだらしないように見えなくて、気に入ってた。彼女のたれ目(昔好きだった女の子がタレ目だったから彼女のことを気に入ったのか、それとも全然違う事情で彼女を好きになったのかはよく分からない。)を覗き込むと、本当にどうしようもない気分になる。「この黒いウサギ、プリンって言うんだ。どことなく君に似てる。」と告げると、彼女は不思議そうに黒いウサギを撫でた。餌のニンジンをあげると、鉛筆削りみたいにかじって、飲み込んで消えた。お腹が減るとなぜか女の子を見ていてムズムズしてくるのはなんでだろう。二匹のウサギを話して黒いウサギと白いウサギが、別々の方向に古い置物みたいにじっとしているのを眺めていると、誰かが僕に喋りかけた。「ゼリー。」僕は後ろを振り向くと、彼女は言った。「白いウサギはゼリーっていう名前なの。」「赤色のゼリーって歌があったけど。」「白色のゼリー。」言葉に深い意味なんて無いはずなんだけど、もしかしたら、もしかして、と思って、びっくりしてご飯を食べに行こう、と彼女の手を引いて連れていった。彼女もお腹が空いているんだろう。
その動物園のなかには、マクドナルドがあって、動物園で動く動物を見たあと、動物が加工された形で、いざ自分の目の前に出されると、なんとなくどうにかなりそうな気持ちになったけれど、彼女は気にしてないみたいだった。チキンナゲットが100円のセールで僕はハンバーガーのセットと、ナゲットを4つ注文した。お腹が空いていた。とにかく、チキン、チキン、ハンバーガー、チキン、ポテト、のルーチンを繰り返しているうちに、さっきの言葉を反芻していた。反芻するのは羊だったっけ。きっとさっきのヒヨコのうちの何匹かは畜産場に連れて行かれて、鶏に成長して、ナゲットになって、無駄無く、僕たちの娯楽や生活を満たしてしまうのだ。なんてことを考えているうちに、僕はふと、昔の思い出が蘇った。学校のサークル棟でしたキス、帰りがけのタクシー、コンビニエンスストアの冷たく孤独な空気、彼女のアパートの階段、ドアを開けて、見てしまって、もう忘れることのできない光景。きっと酷い顔をしていたんだと思う。彼女は僕の頬にそっと触れていた。いま、ここに現実にいる少女が僕のことを思ってくれているなら、別に構わないじゃないか。
私たちは、すぐに仲良くなった。こんなにすんなり女の子と仲良くなれたのは初めてだったし、男の子と関係がまとまるより早く女の子と打ち解けるとは思ってなかった。もしかしたら、ずっと若くて、ライバルになりようがなかったからかもしれない。(それでも、彼女の目の奥に一瞬浮かあがる表情には彼女がとても’女’だって分かった。)沢山の話をしているうちに気付いたら正午をまわっていた。好きな洋服の話、最近観た映画の話、お気に入りの雑貨屋のこと、それから、もちろん男の子の話。男の子に話題が変わると、その小さな女の子は常に聞き手にまわった。学校のクラスの男の子の話になると、彼女は口を閉ざして、詳しく話を聞くと、彼女は小学校に行っていないらしい。立ち上がって二足で歩く前にはすでに文字を読んでいて、砂場で九九を諳んじていたというのだ。しちにじゅーし!しちさんにじゅーいち!しちしにじゅーはち!私はもしかしたら、とんでもないスーパー小学生(不登校)と友達になってしまったのかもしれないと思った。(それにさっきまで彼女は長編小説を読んでいたのだ。)年は6才で、もう既に大学入試レベルの問題に取り組んでいるというのだ。話をすればするほど彼女のアンバランスさが分かってきた。それもしょうがないことなのかもしれない。子供らしい扱いを受ける前に、中身が子供らしくないところまで成長してしまっていたから、心を支える背骨になるような人間との接し方をすっ飛ばしてきたからだ。ともかく、彼女の最近お気に入りの男の子は私の興味もひいた。ブログで知って、偶然に一度出会ったことがあって、そのあと彼女の母親にその好きな人を取られてしまったらしい。自分が芸能界に入る前なら、きっとグロテスクな話だと思ったことだろう。不倫、枕営業、児童買春、乱交パーティー、その他諸々。恋の行方は、結果的に彼が親子同時に二股をかけているような感じらしい。「でも!」とユキは言った。「でも、私の本当のお父さんじゃないの。」と反論した。昼からやたらと生臭い話になってきている。外は雨が止んでいる。健康そうな顔つきをしている人たちが、まともな生活を送っているようだけれど、実際、薄い膜を一枚剥がせば、彼らも同じように大小の差こそあれ、同じように闇を抱えているのだ。2時を回る頃にはきっと、外はずっと晴れて暖かくなるだろう。「もっというと、お父さんも、たぶん血がつながってないの。血液型をどう組み併せても、お母さんとシロくん、あ、シロくんってお父さんのこと。二人をどう組み合わせても私の血液型にならないの。」「何かの間違いじゃない?」「でも、直感でわかるの。この人はお父さんじゃないって。女たらしだけど、私には信じられないくらい優しくってすっごくおっきいの。」おっきい?と私は一瞬思った。「でも、なんか違うの。それで今がんばって謎を暴きだそうとしてるんだけど。」「本当に知りたいの?」と私は悲しい気持ちになって聞いた。こんなに小さい女の子がそんな現実を、かさぶたをわざわざめくるみたいにしなくてもいいのに。「私の勘だと、私の本当のお父さんとお母さんはまだ会ってるみたいなの。」「ほんとに?」と気の毒そうな顔をしながら、ぞくぞくするような気持ちになった。「会ってみたい!」と可愛らしい声でユキは言った。
雨が止んで、外に出て、なんとなく、携帯電話でサイボーグ忍者のアイコンの横に出ている彼の所在地の表示を眺めているうちに、いちど試しにディスプレイの向こう側にいる実物を眺めてみたくなった僕は電車に乗って神宮前で降りて、竹下通り出口のスターバックスに向かった。
ユキの異常ともいえる武勇伝を聞いているうちに、私もこれは話を繰り出さなくては、なぜか女の意地をかきたてられて、とりあえずクラブで奥さんが見ていないすきに、旦那とチューした話を繰り出した。先々月に新宿の小さなクラブに酒をたらふく飲んでから乗り込むと、やたらと盛り上がっていた。
それから私はペーパータオルにボールペンでこの図を書いた。

テーブル
  妻(↑)
テーブル
私(→←)夫


括弧書きの矢印の方向に向いていて、妻が別の人と会話をして気を取られているあいだに私はキスをして、二人は常連らしくて、みんな私たちのことを見てたけど、妻だけは気付かないという状態だった。妻がこっちを振り向いた瞬間にだけ、私たちは他人のフリをするのだ。そして、彼女がまた元の方向に向き直ると、いたずら微笑みを交わして、それからまたキスを始めるという弾けた遊びをしていた。
そういう話をすると、ユキは大きな目をきらきらさせて、「すごい!すごい!すごい!」と興奮して叫んだ。私たちは軽やかだ。ふと窓の外に目をやると、ちょっと挙動不審の男が立っていてこっちをニヤニヤして見ているんだけど、何かと思って目をやるとこっちを見ていないようなふりをするのだ。なんなんだあれは。よく見ると、去年の握手会にいた変態男だった。いきなり手をぎゅっと掴んでなんか叫んだんだけど、間一髪でセキュリティーのひとに捕まえられて外に連れてかれたやつだ。マリコは本格的にこれはやばいと思って、身の危険を感じた。とりあえず、こういうときはどうすればいいんだ。警察か。「『握ってください!』って叫んで頭のおかしいひとがこっち見てにやにや笑ってるんです。このままだと誘拐されて殺されて犯されて埋められてしまうので至急助けて!」って、それじゃあワケわかんないから、どうしようお店の店員の人に保護してもらえばいいのかな。とか高速で緊張状態に入ると、いきなりその男がこっちにやってきて店に入ってきた。殺されると思って椅子に硬直していると、ユキに声をかけた。「久しぶり。」と声をかけられたユキは声が2オクターブくらい高くなって「こんにちは。」と答えた。よくよく見ると、挙動不審でにやにやしていておぞましいと思っていたわりに、顔をよくよく見てみると、これがけっこう悪くない。私と目が会うと向こうがびっくりしてさっきの挙動不審な態度がさらに挙動不審になって、軽く痙攣しているようにも見えた。気持ち悪い。「お、おおう。」と向こうが手を振っているんだけど、ぎこちなさすぎて、バネを巻き過ぎて人形みたいに動きが早過ぎるのだ。「彼がさっき言ってた男の子。」とユキが最大限わざわざ自慢にする気持ち抑えているのを見せつけながら私に言うんだけど、どうしたものか。ストーキングに真性のロリコンだったとは。物凄い頑張って笑顔を作ってみせると、何を勘違いしたのか、なんか卑猥な笑顔で笑い始めて本格的に気持ち悪かった。

日暮れ

2009年3月19日 日常
日が暮れると、なんか涙が出てくるんだけど、これは感情と関係があるのかな。
わからないけど、涙が出てきたときに、自分が寂しい気持ちなのかもしれないって気付く。

KZRu

2009年3月19日 日常
日常から恋愛を削り取ればけっこう楽しい毎日

いっそのこと女の子のことなんて考えなくてもいいかな

一人でもやっていける気はしている

untitled

2009年3月19日 日常
ほかの人たちのように、

自分に嘘をつくことができない。他人に嘘をつくことができない。適当な相手を好きなふりをすることができない。妥協することができない。人生に妥協することができない。誰かの気持ちが分からないふりをすることができない。打算を愛情と呼ぶことができない。傷ついたときもっと自分を傷つけずにはいられない。傷ついたとき傷つけた相手を傷つけずにはいられない。誰かを好きではないふりをすることができない。誰かを好きなふりをすることができない。

教えてほしいんだけど、僕は、どうすればもっと自分を大切にすることができるのか。
単純に、上に書いたことを、他のほとんどの人たちみたいに、反転させればいいだけなのかな。

死にたい。

読み返し

2009年3月16日 日常
朝起きて小説読み返してたら、反省した。
全然エンターテインメント性がない。
読んでいるひとを楽しませる意識がない。

そこらへんの感覚を失わずに書かなきゃなー。
今日の朝、こんな歌詞を思い出した。『俺の人生は普通の人生で、働き尽くめの毎日。』ともあれ、シャワーを浴びて服を着て飯を食って仕事にでかけると、いつものようにうんざりするような仕事にとりかかって、気付くと正午を過ぎていた。事務の女の子に声をかけるけれど今日もうまくいかない。なぜかは自分でも分かっている。’僕’は彼女と気持ちを繋げるタイミングを外してしまったからだ。その時もいつもと同じように、向こうが働いている最中に声をかけるのは良くないと、雰囲気を読み過ぎたからだ。なんにせよ、恋愛がうまい人間は嘘をついたり神経が太かったり、優しかったらできないものだから。仕事を終えて会社の飲み会に参加するけれど、僕のチームの仲間の連中にみんな彼女がいて、僕は落ち込んだ。一緒に入社した連中にも全員恋人がいた。不器用な自分を肯定できるほど弱くもなかったけれど、だからといって、楽になるわけじゃない。あのあと、映画と青は二人で僕の好きだった女の子(達)に会うことになったらしい。業務が終わると、月に一回の会社の飲み会になって、甘太郎で飲んだのが先月だってことに気付いた。飲みながら、酒の肴になるようにと、僕は自分の恋愛遍歴を話すわけだけど、狙い通り彼らの興味を異常に引きつけた。生まれて初めてナンパした話で、2ヶ月前に横浜のパルコのヴィレッジバンガードで女の子を口説いた話だ。けれど、その話は今はよそう。とにかく、僕は普通の人が普通では体験できないようなことを体験する割に、普通の人が普通にできることができないのだ。先月友人と食事をしていて、パスタ的な何かを皿に盛ってあげようとすると、自分でも分かるくらいぎこちなくて、そのうえ、そのパスタ的な何かを落としてしまって、ぐちゃっとなってしまった。閑話休題。ひたすら飲み終えると、僕は山手線に乗って渋谷に向かった。明らかにその方面じゃない同僚の連中と一緒に電車に乗っていて、ラッパーの同僚(アマチュアのラッパーである。そして、何故か彼は異常に仕事ができる。)と、あと二人の同僚と僕。残りの二人も、二人で20人分くらいの仕事をしているトップ営業マンだった。電車のなかで、ふざけて残りの二人の片方が韻を踏んで会話をするんだけど、それがアマチュアのラッパーの人より遥かにうまくて、それが面白かった。アマチュアのラッパーは途中で消えた。彼女のところに行ったらしい。それから、残りの二人と僕で、僕はクラブには遅くいけばいいと思って彼らと一緒に酒を飲むことにした。路上で飲み放題で一時間千円というキャッチに誘われて(結局は3人で8千円だった。千円で飲み放題で、お通し400円+一人必ず一品(大体全品千円以上)注文のオプションが必須なのだ。)、『水の庭』という店に入った。薄いカーテンで仕切った店内で、隣の姿や声が聞こえるくらい狭く席を仕切ってあるんだけど、僕たちは見境無く周りのカーテンを開けては他の客に絡んでいた。右隣が偶然同じ会社の人たちだった。とてつもない確率なんじゃないだろうか。次にカーテン開けたのは、後ろのテーブルで関係ない席のカーテンまで開いてしまって、すぐに店員に閉められた。客は3人が渋谷で働くシステムエンジニアだった。そして最後にカーテンを開けたのは左隣のテーブルで、本当にカーテンを僕たちが開けたかったのはこのテーブルの方だった。女の子3人組で僕らとマッチしていた。同僚二人がバックアップしてやるからとかフォローはちゃんとしてやるからとか話すのは俺たちの担当だからとか、適当なことを言い出して、僕はモジモジしながらも、よしここは俺の営業力を見せつけてやろうと、カーテンをばっしゃーんと開けると、場の雰囲気がいっきに醒めきって、女の子3人分男の子2人分の冷たい視線で僕は「これはやばい。どうする。」と自問自答をしながら頭をリニアさせながら、よしここは俺の可哀想な男の子感、いわゆる濡れた子犬感を全開にしてこの場を乗り切ればいいと思い付いて、とりあえず、3人の女の子のなかで一番可愛い女の子に「さっきから、隣にいるの、話聞いてて、実は悩み相談をしたくってカーテンを開けたんです!」と告白(計算済み)をすると、まずその3人が話を聞いてくれる姿勢を作ってくれたので、内心にやにやしながら、「実は僕は今日失恋したんです。」。完璧だ。「えー。」とか「ほんとにー。」と掴みはOKだ。「もう、ホントにそれで超落ち込んでて。」「どんな子なの?」と3人のなかの誰か。「いやぁ、事務の◎◎さんにフラれちゃって。」フラれたのは事実だけど、そこまで傷ついていたわけじゃない。田中美保に似ている綺麗な顔をした女の子は「なんでフラれたの?」と、まぁ、そんな感じでトークを頑張ってしている間、僕が残りの二人の会社の同僚に視線を送るけど、なぜか澄まし顔!全然フォローなし!喋れよお前らと思っている間、ひたすら自分の恋愛遍歴を話し続けている自分という構図。とにかく、自分の感覚をひたすら研ぎすませて、可哀想な自分を演じながら、叱られる自分という役割から残りの二人を話にからめようとするけど、うまくいかない。(いまこうして書いている最中に気付いたけど、逆にこれは自分の喋りが下手で盛り上がる感じに繋がらなかっただけか。)そんな感じで田中美保(似)に5分くらい叱られていると店員がやってきて「退席のお時間ですがぁ」って、お前ぇああああ、と憤りを感じたけど、それが店のルールだし、ともかく3人が立ち上がる時に、田中美保(似)に名前と、これからどこのクラブ行くのか聞いた。(カーテン越しにクラブに行くと盗み聞きしていたのだ)。WOMB(ラブホ街にあるクラブだ。ウームと読む。)。取り残された3人。しかもなぜか俺が責められる。営業が巧い人がナンパが巧いというのはきっと嘘だろう。もう、そのあと何が起きたのかよく覚えてないけど、懲りずに他の席のカーテンを開けていたように思える。二人と別れたあと、organ barに行って酒をさらに飲んでいると、さっきの出来事の話になって、お前ちょっと女を調達してこい、という流れになった。なんでだ。ともかく、僕は雨の中、虹色の傘をさして、雨が降る渋谷を移動した。僕はそういうのがとても楽しかった。特別なことなんて全然ないけど、こんな風にいろんなことが滅茶苦茶に混ざり合って、確かなことが、幻想と現実のなかで混ざり合って、バグっていくときに、僕は興奮した。性向をやたらめったらしている壁のカーテンで仕切られた空間を横断しながら、なぜだか、4才頃に幼稚園のトイレで転んで後頭部を強く打ち付けたときのことを思い出した。そのあとタンコブはずっと治らなくて、今でも僕の後頭部は何故か腫れ上がったままだ。僕は他の人たちが、決して手に入れることができないものを手にしていた。けれど、全部全部本当はガラクタで、社会や文明がなければ、ナンセンスになってしまうばかりのものなのだ。WOMBの大きなドアを開けて、僕は3500円の冒険料を支払って田中美保(似)の女の子、シマムラさんをを探した。いつものように、彼女の薬指には指輪が嵌っていた。案外簡単に見つかった。なぜなら、彼女はわざわざ階段の途中で男と抱き合っていたからだ。こういうことが多過ぎて、僕は僕らしくなっていく繰り返しにうんざりしてしまう。いつものように、いつものように。彼女と目があって男の後頭部の横でアイコンタクトをすると、十分にその感じは伝わった。何しろタイミングを流せば、流れて消えていって見えなくなってしまうものばかりだ。シマムラさんは、『水の庭』で僕に「そんな彼氏がいるような男を好きなるのがダメ。」と言った。実をいえば、嘘っぽい振る舞いをしながらも、僕は彼女の言葉で少しだけ泣きそうになっていた。けれど、でも、じゃあ、僕はそういう風に彼女とクラブの螺旋階段の途中で君と目が合ったときに、どうすればよかったんだろう。僕はすぐにWOMBから逃げ出して、Organ Barに戻った。ずっと言えなかった言葉を、誰かに言おうと思ったけれど、結局、その夜、誰か誰かがいて、僕がその外側にいる、という話を誰にも伝えられないまま夜が過ぎた。僕はいまこうして文章を書いている。本当は、自分のためではなく、自分のエゴのためではなく、誰かが言葉にも物語にもできなかったことを代わりに伝えたいと思っている。だから、こういう話だ。文章を書くことについて。ある日、僕が渋谷のセンター街のファーストキッチンにいて、すげーいい感じの女の子に囲まれながら、文章とか書けたらいいなって思いながら店の階段を降りて、席に座って小説の続きを書きながら非現実の世界に没頭しているのに飽きて、辺りを見回していると18才くらいの女の子が二人いて、片方の女の子が「おっちゃんがいいって言ってくれるからさぁ」とか「実は3万円だから」とか「1:3でいいよ」とか「二人だから大丈夫でしょ」とか「春休みはバイトしたくないでしょ」とか、会話の節々を繋ぎ合わせると、要するに片方の女の子が売春をしていて、もう片方の女の子を仕事の仲間にしようとしているというわけだ。これはフィクションか?いや、混じりっ気なし100%純粋に誇張なしの現実、ノンフィクションだ。二人に目をやると、何度か、仲間を勧誘しようとしているほうの女の子と目があった。苛立っているような悲しそうな目をしている。彼女は半端に成長した身体の上に、わざわざ露出度の高い洋服を着ていた。大人と同じ服を着ているGapの小さなモデルを、悲惨にしたらそういう衣装になる。彼女達と僕との距離は2mも無かったと思う。僕がそれとなく注目していることに気付くと、彼女の声はすこしだけ大きくなった。学校でクラスの好きな女の子の気を惹くために、わざと馬鹿なことをやる男子学生と似ている。僕には分かっていた。彼女は悲鳴をあげていたのだ。それは奇妙な形に捻れていた。けれど、確かに何かを心底から必要としていた。その時思い出したのだ。僕が3年前好きだった女性(僕の5才年上で、とても綺麗で、とても暗い心を持っていて、何よりも僕に似ていた。)が飼っている犬のことを彼女は話してくれた。その犬は彼女に溺愛されていて(本当の孤独の味を知っている人間は、絶対に自分から逃げられない動物を飼う。)、僕がセックスをしようと代官山のバーの個室で酒を何百杯も飲んでいた。そして、彼女は凶暴といえるくらいの勢いで酒を頼んでは飲み干していたけれど、不思議なことに全く酔わなかった。自分は酒に強いわけじゃないと本人は言っていたけれど、それが本当かどうかは分からない。(酔ったフリをするくらいのことはしてくれても良かったと思うんだけど)彼女が僕の誘いを断って自分の家に帰る直前、そのときのように雨降る代官山でタクシーを待っていた彼女は僕に飼っている犬の話をした。その犬は雄で彼女が家に帰らないと、ひどい便秘になって病院に連れていかなきゃいけなくなるから、と彼女は言ってた。僕はうまく人と話すことが昔からできなかったし、女の子とうまくホテルに行くこともできなかった。だから、ファッキンでその女の子の声が大きくなったとき、昔のその思い出を思い出した。その時、僕はこれが小説の種になるだろうと思った。僕は誰かに同情したりしない。なぜなら、便秘の犬を飼うほど鈍感でいれる人間ではないけれど、でも、代官山で女の子を甘やかして、タイミングを逃してラブホテルに行くことができなかったから、だからそんな余裕も器用さを持ち合わせてなかったからかもしれない。

organ barから家に帰って寝て起きて、酒井景都のサイン会に行く予定を思い出した。そうしようと思った動機までは思い出せなかった。小説の材料にするためなのか、芸能人を観たい卑屈なミーハー根性だったのか、中田ヤスタカに対する憧れの延長だったのか、それとも、ただの性欲の延長だったのか。十分な時間が取れないまま、昨日着た服のまま、MacBookを鞄に詰めて、1Kの部屋を出た。’僕’の話はここまでだ。語り尽くせないほど、僕の周りを流れていく色々は鮮やかだ。僕は幻想のなかで生きている。

銀座駅で彼女と電車を乗り換えるために、ホームで待っていると、彼女はふと、話の続きを思い出していた。「それで、偶然その小説を書いていたときのことなんだけど、凄い偶然だったわ。ほんとに。」「偶然?」「フィクションだとしたら、出来過ぎた偶然過ぎて誰も信じてくれないような話なんだけど。」彼女との特別な時間。「ちょうど、盲目の男の子が手術をしている場面を書き始めたときに、えっと、あれは渋谷のサンマルクカフェで2009年の3/15の19:55のことよ。完璧過ぎて信じられないようなタイミングでお店に目の見えない男の子が入ってきたの。身長は175センチメートルくらいで、年は18才くらい。むくんだような太り方をしていて、ちょっとダウン症みたいな感じもした。身なりは普通なんだけど、やっぱりちょっと中学生みたいな雰囲気なんだけど、ぎゅっとつぶって少し疲れて男らしくなった目の隈のせいで、少しだけ大人びても見えた。」僕は彼女の集中力を乱さないように、声を出さずに相づちをした。「まず驚きだったのが、彼の自主性の形で店のドアを開けるなり『カウンターはどこですかぁ。』ってうなされるみたいに、ずんずん進んでいくの。勇猛っていうのあまさにあんな感じ。怖くないのね。それで、店員じゃない男の子、カップルの片方のほうが、先にカウンターに並んでいて彼を誘導した。そういうのは電車の中で老人に優先席を譲るみたいに自然で、盲目の彼はアイスカフェオレとピザトーストみたいなパンを買って、なんと私の真ん前の席に座った。ガイド役の男の子が優しく声をかけて、それを傍で見ていた酒井景都みたいな雰囲気の女の子は嬉しそうだった。席に着くと、次は店員がやってきて、彼に、『お店を出る際は声かけてください』とかそういうことを彼に告げると、彼は『ガムシロップ入れてください』と彼女にカフェオレにガムシロップを入れてもらって、さらに『六本木に行くにはどうすればいいですか?』と聞いた。道順から何から何まで。彼が私の目前で綺麗に食事をとる様子と、携帯電話を両手で持って家族か誰かに話をする様子を、そのあともずっと私は見ていたわ。途中で、携帯電話につながらなくなって途方に暮れていたけれど、それでも、そのことをさして気にせずに店を出ようとして立ち上がったところで、さっきの助けてくれたカップルに連れられてお店を3人で出て行った。その夜、出来事に意味を付けること、つまり、私が書くみたいな小説のことについてずっと考えて朝まで眠れなかった。」「確かに、偶然というにしては出来過ぎてますね。」電車がやってきて僕たちは乗る。「うん。時々パラノイアみたいになる。自分が何かの陰謀に巻き込まれていて、そのせいで周囲のあらゆる人間に騙されて監視されてるってね。でも、それはそれで素敵じゃない?もし、そうだったとしたら、周囲の騙している人たちからは、ずっと注目されているわけだし。」「でも、どういう陰謀なんでしょうか。わざわざ、あなたが書いている小説の内容をなぞるように、現実の人間をよこすなんて。」彼女はこめかみを少し押さえてから笑った。「そうね。退屈な日常に慣れ過ぎた人たちが、非日常を作り出して番組か何かにするって感じ?あなたはどう思う?」「僕は、そういう偶然が重なるときが、確率的に人生には何度もあって、そういうことに気付くか気付かないかの違いなんじゃないかと思います。見る人が見れば凄く貴重な陶器を、普通の人たちは物置にしまっているのに、分かる人だけが、とても丁重に扱うことができて、美術館の最高の展示場所に置かれる。」「なるほど。」「でも、価値があるかどうかなんて、結局、誰かの主観に過ぎないんだし、偶然の価値も、醒めた人間にとっては興味を惹かないかもしれない。そのへんもきっと美術品と同じなんじゃないかな。」築地に着いた。僕たちはなんとなく、無言になって、地上にあがってから手を繋いで歩いていた。僕はふざけて目をつむって、彼女の手を握ると、彼女の細くて冷たいだけが頼りにできなくなったら、彼女は(彼女も)喜ぶだろうか。築地市場に着いて、僕たちはしばらく寿司屋を探したけれど、見つかったのはチェーン店だけで、通好みっぽい渋い店は無かった。彼女も僕も市場で働く人たちの一部は寿司を食うものだと思い込んでいたんだけど、実際に作業着を着た連中は海鮮丼の店で朝飯を食っていた。僕は、彼女がどういう反応をするのかが気になった。食うのは海鮮丼か、寿司か。現実か、幻想か。
結局彼女が選んだのは寿司屋だった。彼女曰く「チェーン店だとしても、ネタの鮮度は市場にあるのと同じだから。」とのことだ。小説家が言うと、普通のことでも、なぜか含蓄が含まれているように感じてしまうものだ。ひたすら寿司を食っていた。彼女が言った言葉でよく覚えているものがある。彼女は寿司のなかで、甘エビがとても好きで3回連続で頼んで(寿司職人が少し戸惑っていた)、そのときに彼女が独り言のように「値段っていうのは希少価値を量る物差にしかならないこともある。」と言っていた。値段が高いものが優れているとは限らない。そういう意味で、僕はある投資家の言葉を思い出した。安手の紙で最後のほうにオマケみたいについてる財務諸表が金色の字で刻印された表紙より価値がある、と。それなら、あらゆる場所に隠されたように、物事の表面からだけでは見ることができな、縦、横、ではない奥行きがある、その場所に何か価値のあるものが眠っているのかもしれない。
http://www.youtube.com/watch?v=bkXdp2KUD9s

初音ミクとか関係なく、良い!!
つか、Judy&Maryに影響されたバンドの女の子ボーカルとかで、こういう声で歌う女の子いそうじゃんか。

TOKUSHU

2009年3月15日 日常
TOKUSHU
埋まってなかったのを埋めた。音楽特集。

http://74401.diarynote.jp/?day=20090303
http://74401.diarynote.jp/?day=20090304
http://74401.diarynote.jp/?day=20090306
http://74401.diarynote.jp/?day=20090309
http://74401.diarynote.jp/?day=20090313

つか、過去ログへのリンクも張らなきゃだ。

つか、つか、先月の空白も埋まってねー(笑)

つか、つか、つか、ここのブログ、1ヶ月以上前の日付でレビューできねー。
そのうちやる。
馬鹿げている人間だけが感じる感情がある

3月14日の日記

2009年3月14日 日常
自分って完璧だなーって思うことがある
優れているっていう意味じゃなくて
なんていうか

http://www.youtube.com/watch?v=rL9zypS2nNA


沢山コメントしたいんだけど、まず、野暮な意見だろうけどcapsuleのflashback思い出す(http://www.youtube.com/watch?v=aoXPfU0GRmo)。いや、別にいいんだけど、髪型とかが似てるのは反則だろ、と思う。逆か。本来なら、Flashbackを聴いてると、TeckyTeckyを思い出す、か。
で、コメント欄(http://www.youtube.com/comment_servlet?all_comments&v=rL9zypS2nNA&fromurl=/watch%3Fv%3DrL9zypS2nNA)観てみると、で、日本で半ば黙殺されてて(海外に比べればって意味で)で海外でウケてるってのが分かる。こういうミュージシャンがMステとかに出たら面白いんだけどな。
しかも安い。46曲で2600円って安過ぎだろー。
一曲56円か。

映画化

2009年3月12日 日常
ドラゴンボールの映画版は観てないんだけど、
自分の書いた話が映画化される妄想をしていた。

役者は、実在の登場人物のモデルの人物を使うのだ!
そうしたら、撮影現場が個人的に超カオスで面白い。にやにやが止まらないだろーなー。
へー

つか
いつも思うんだけど
おんなじ女の子ばっかり書いてたら飽きてこないのかな
なんか最近インターネットに関心が無くなっている
理由は思い当たらないし
理由への関心もない

Stop the Clocks

2009年3月9日 日常
Live http://www.youtube.com/watch?v=iTxuoNR81DA

メジャー感ばりばり、しかもロックでジャジャーンって鳴ったら、音楽をよく聴く人から疎まれるんだろうけど、けれど、こういうメロディーの繰り返しとか唱和とかが凄く凄く音楽として洗礼された形だって捉えることだってできると思っている。

汝の名は

2009年3月8日 日常
ぐだぐだでタイトル変えられなくなりそうだから、
53/100から本タイトルで進める。

つか既出で笑える
http://www.amazon.co.jp/Fine-Romance-1-3pc-VHS/dp/156938357X
すげーダサい!!!笑
渋谷サンマルクカフェ。日曜の午後2時半。レジでブラックコーヒーを待っていた。列の前に並んでいるのはカップルで、女の子のほうは顔を見ただけで、不幸な病んだ人間なのが僕にはわかった。(僕にはそういう連中が全裸で歩いているように明白に直感できる特技がある。)綺麗な女の子なんだけど、自分を傷つけずにはいられない。(そして、僕は自分が少なからず、そういう部分があることを否定できない。(ただ他の連中と違うのは自分を諦めていないだけだ))前に並んでいる女性が二人分のパンとコーヒーの代金をルイ・ヴィトンのモノグラムの財布からお金を引き抜いて支払った。男のほうはそのあいだ、女の子の腰から尻の間辺りを撫でていた。0.5秒で下らない男だって分かる仕草だったし、その男の顔を見て、予想が違わず的中してさらにうんざりした。有名人がスピリチュアルカウンセラーに矯正された直後の量産型の笑顔って感じ。間違った箇所はどこにもないのに、不安を起こさせる静謐画みたいだ。僕が席に座り、小説の続きを、こうやって打ち込んでいると、彼女と何度か目があった。そういうことをなんて説明すればいいんだろうか。そう、例えるなら、先週の土曜の22時頃、下北沢駅の北口の階段を降りたところでコンビニに自転車の前で倒れた老人。老人と、その娘だろうか。駅の前で二人は自転車に乗って家に帰ろうとしていたんだと思う。物音がして振り向くと自転車に股がるのに失敗した老人のほうが横に転倒して、コンクリートの上で身体をさすっていた。老人はひどく酔っていた。こういったことに慣れている様子の娘は、彼のそばに寄りはするけれど、手は貸さなかった。自転車にやっと乗ると、自転車の前輪を、コンビニの壁にぶつけはじめた。親に叱られて、なんで叱られるようなことをしたのかを、反論できなかった子供がするみたいに見えた。彼のストレスや寂しさや悲しみは、僕には十分に伝わった。これは推測だけれど、きっと彼は奥さんを無くしているだろうし、そして人生に破れ続けてきて、最後の瞬間に後悔するような出来事の連続だったように思えた。(今こうやって考えると、それは僕の勝手な妄想で、そうやって自分を投影していたのかもしれない。)娘はそういった行動にも特に興味を示さずに、うんざりした様子で、「何してるの?早く行くよ。」と半ば無理矢理自転車に乗せた。そのあともう一度、彼は自転車から横転して、コンビニの前の納入する商品が無くなった、プラスチックのケースの段にぶつかっていった。僕は人を待っていたそのあいだ、一度も彼に同情しなかった。同情していないことに自分で気付いた僕は、通行人に「大丈夫ですか?」と声をかけられる彼を眺めながら、なんで同情していないのか、そういう気持ちが起こらないのかずっと考えていた。心が冷たいせいだろうか、現実的だからだろうか、もしかしたら、そういった憐憫をほかの人は持たないのかもしれないと考えた。ほとんど会ったことの無い親戚の葬式で、しんみりとした振る舞いを’しなきゃいけない’ように、実際は世の中には存在しない、感情を持たないマナーのなのかもしれないと考えていた。気付くと二人はいなくなっていた。そして、そのあと僕は、久しぶりに青に会った。本当に本当に久しぶりだ。2年ぶりくらいだろうか。文字通り一生もう会うことは無いだろうと思っていたのに。僕にとって彼女は呪いのようなものだった。彼女にも、僕が目が合っている(たった今だ)女性と同じ、そういう惨めな雰囲気があった。彼らは無意識に自分を騙している。その嘘は、彼ら自身を傷つけて、何か決定的にすり替えたままにしてしまうものだ。青と一緒にいた女の子は3年くらい前に、コンパで知り合った女の子で、綺麗な黒目がちな目をした映画好きの女の子(以下、映画、と呼ぶ。)だった。あとでも書くけれど、彼女は、この小説の、のどか(本を書かないほうの)のモデルになった女性にとても似ていた。そのコンパで、僕とその女の子の話と、実家がとても近かったことで、話がずっと耐えかった。『トレインスポッティング』の、あるシーンのことを話したのをよく覚えている。薬物中毒になった主人公が、それを治すためにベッドに張り付けにされていると、赤ん坊が天井を四つん這いで張り付いて主人公の頭上の真上にまで進んだところで首が180度回転する。そんなこととか、あとは近所の商店街のプラモデル屋のこととか、ゲームセンターとか。ゲームセンターは『タイガー』という名前だった。イカしてる。そのコンパの最中アドレスの交換をしようとしたけれど、話が弾んでいて、それは共通の知り合いである青に任されることになった。(青のその頃付き合っていた彼氏は、青と黒目がちな女の子と同じ大学、多摩美術大学の学生だった。)そのコンパのあと、青に「あの子のアドレス教えて」と聞いてもメールは返ってこなかった。で、青に「メールアドレスちゃんと教えた?」とメールを送っても返ってこなかった。さらに三日後、電話をかけてみたけれど繋がらなかった。その半年後に、彼らの大学の文化祭に行くと、映画に会うとなんとなく決まりの悪い言葉を少し交わしただけで、僕は青にいつものように「彼女できないよぉー」と相談すると「そのへんの子を口説けばいいんじゃない。」と答えた。その態度は少しトゲがあったけれど、そう答えた隣には彼女の隣には彼氏(そのとき初めて会った)がいた僕は、そういうデタラメで滅茶苦茶なことが嫌になっていたし(女の子には「いいじゃん彼氏いるんだから、俺がどうしたって。」という理屈は通じないのだ。)、ビールをしこたま飲んで酔っぱらっていたから、そのコンパに来ていた別の女の子に声をかけると、異常に警戒されてその子はどこかに行ってしまった。推して知るべし、というものだ。そして、それから一年だか二年だか三年だか、もう時系列がはっきりしない先週の夜、なぜか彼らは二人で仲良くしていた。どういう経過を経ると、そういうことが起きるのか僕には想像がつかなかった。本当に不思議に思ったけれど、青にも、映画にも、どうやって尋ねればいいのかも思い付かなかった。想像力の外側。僕たちは下北沢北口を歩いて、ポツポツと僕たちは近況を探り探り話した。彼ら二人が似通っていた気がする。以前のように映画の黒い髪が青の茶髪と同じになっていてもったいないと思った。二人が似通った、というより、映画が青に引きずられるように似ていったように感じた。二人は既に酔っていて、僕が彼らと会うことになったのはある偶然からだった。21時過ぎにファッキンで小説を書いていた僕は、ファッキンを出て渋谷ツタヤ6階で本を探していると、またも(これで3度目だ)琴乃と遭遇することになったのだ。僕は2度目の遭遇から一度、地元のファミレスで彼女を見つけたけれど、そのときの彼女はいかにもビッチ感があったんだけれど、その夜あった彼女は以前の彼女より、最初に見つけたときより、さらに普通の女の子みたいだった。彼女が、アイドルやモデルの写真集のコーナーで立ち読みをしているのを見つけた僕は、声をかけようと思ったけれど、彼女はイヤフォンをつけて音楽を聴いていて僕には関心を払わないみたいだった。僕が気を取り直してトイレに入って気持ちを整える儀式をするかどうか考えていたところで、まず、青にメールをしてみようと思ったのだ。なぜ、そうしようと思ったのかは自分でも分からない。メールを送ったあと、店内を探したけれど、彼女の姿はどこにもなかった。それで、メールが返ってきて、結果的になぜか青と映画と会うことになったのだ。踏切を超えて、店をcity country cityというカフェに入った。なんとも言えない雰囲気の中で僕たちは色々なことを話したけれど、それらは全部意味の無いことのように思えたし、全てが調和しているようにも思えた。そして、その中でも、僕たちは暗喩の世界でしか再創造できない出来事を僕は理解した。映画は今近所の(つまり僕にとっても近所の)ピザーラで働いていて、そのアルバイトの中で、彼女はのどか(偶像としての彼女)のモデルに会ったというのだ。ピザーラお届けの先で、彼女は僕が過去に目にしたものを目にしていたのだ。モデルのその女の子には彼氏がいて、僕は偶然彼らが二人でいるところを見かけてしまって、その時に彼女は結婚していた。そして映画もまた、僕と同じように(そして同じように感じることはなかったけれど)、彼らが同棲する家に行ったことがあるのだ。ピザを届けるために。そして、二人はお互いに他人という感じがしなくて、友達になってしまったのだ。そんなことってあるだろうか。
のどかが僕の誕生日を祝ってくれるからと、寿司をおごってやると僕に前日の昼に言って、僕を無理矢理寝かしつけるて(彼女は前祝いということで僕にパジャマ買ってくれてそれを着させた。)、夜の9時に寝て、朝の4時に起きることになった。築地に行く途中、僕たちは彼女の新しい小説について話した。
「もう書き始めてるの?」
「やっと半分まで進んだんだけど、書きながら話の内容を決めてたから、だんだんわけがわからなくなっちゃった。」
「書きながら話を作るんだ。」
「どっちかっていうと、マンガの週刊誌に近い書き方かもね。打ち合わせをしながら書いてるわけじゃないけど。」
僕は目をこすって車内を見渡すと、半ば眠っているひとか、完全に寝ているひとのどちらかだった。朝に限りなく近い夜の黒っぽい青の景色が窓から見えた。
「テーマは決まってるんでしょ?」
「うーん。ひとくちに、『夢と希望!』って感じで言えたりしないんだけど、でも、なんとなくは決まってる。」
「そう?」
「うん。」
四谷3丁目を過ぎた。僕はあくびを咬み殺そうとしたけれど、結局、うまくいかなかった。
「テーマは決まってるの。」
「うん。」彼女が少し難しい顔をした。
「聞きたくないの?」
「言いたいの?」
「別に。」
「そう。」
インタビュアーぶって僕は携帯電話をマイクに見立てて質問した。
「今回、あなたが出す3作目の長編小説ですが、作品の根底に流れるテーマは?」
「ある種のノンフィクション小説ね。」
「それは、主人公が空を飛んだりしない、という意味で?」
「そういう意味でも。たとえば、こういう設定と物語。ある有名な小説家が偶然、その作家のファンの男の子と知り合う。でも、男の子のほうは、その女性がその作家だとは気付かない。なんでかっていうと、その男の子は盲目だったの。点字の文章だけでその小説と作家を知ったわけ。で、その男の子は、一度も目が見えたことはなくて、でも、強烈な幻想を、可視化された現実に存在していると信じているわけ。」
もうすぐ東京駅に着く。彼女は続ける。
「話ずれるけど、点字とか手話とかって、ああいうのを使うことで、会話の内容とか思考の様式が違うと思うの。」
どう思う?というのが彼女の口癖だった。
「そうかな。」
「うん。」
「それで?」
「えーと、」
「主人公が盲目で。」
「そう。彼は盲目の男の子なんだけど、ずっと見たことすらない世界に幻想を持っているわけ。」
「素敵な話ですね。」
「でも、残酷な予感がするでしょ。ちゃんと彼の目は開かれて、そこには光があり、色があるんだけど、けどやっぱり’違う’わけ。」
彼女はこめかみを押さえて、話の続きを沈黙のなかでまとめあげていた。
「認識が現実と手を結ぶことはない。」
そろそろ銀座駅に着く。
「そもそも、」と僕は一番重要なことを聞くことになった。
それが重要なことだったと気付いたのはずっと後だ。僕が作家になった、さらにずっと後だ。
「私が作家を目指したのは、私に小説を書いてみれば?と言った人がいたからよ。」
「誰?」
「私の初めてセックスした相手。」
「わぉ。」と僕は茶化して言ったが、声はざらついていて、ぎこちなかった。傷ついているように見えたんだと思う。そんなことだけで僕は傷ついてしまうのだ。
「乗り換え。」と僕は一言。
「そう。乗り換えた相手がシロくんだったの。」と独り言のように彼女は言った。

< 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 >

 

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索