web上の浅瀬

2008年6月27日 日常
web上には普段垣間見ることのできない心の深層とはいわないまでも心の浅瀬の。
匿名であれ、弱音を吐いたり、醜悪な部分を晒している文章を読むことができて(HNを持って動き出したときからそれを吐き出す回数は極端に減るけれど)、そういうのはweb下ではあまり見ることのないものだから、
対面がない分、孤独になって関係は希薄になるけれど、また別の意味で濃密になるんじゃないかな。
『いとしのニーナ』2巻まで読んだ。
『砂ぼうず』既刊全部読んだ。
リップマン『世論』の上巻読んでる。2度目だから読み易い。
『カラマーゾフの兄弟』はあとは下巻残すのみ。部屋に置いておいたらどっかに消えた。買いなおさなきゃだ。

2008-06-26

2008年6月26日 日常
唯物的な性欲以外に唯物的なハグやボディータッチも追加で信じようと思います。

小説もどき書き始めてから、気づいたことは作為的に物事を見てばかりだ、ということ。
それは真実な事実かもしれないけど、ある面から見た事実でしかないかもしれない。
心理学であったと思う。自分の考えを強化するための事実をあつめたがるものだって。確かにそうだ。
自分自身の身体が老いていくのを感じるとき

良い夢から覚めて現実の一日が始まるとき

考えに忠実に振る舞うことができなかったとき
2008-06-23の補足
ひみつ

simple & few

2008年6月22日 日常
前日にあんなこと書いておいてなんだけど、僕は人の善意や好意が無いと生きていけない。きみはそれを信じてくれるだろうか?

ギマーン

2008年6月21日 日常
欺瞞を感じるのは生真面目な性格なせいかもしれない。

だから俺が「お前が結婚したがるのは『幸せななんとか』をかんとかするためじゃなくて、働かずに家でくそつまんないワイドショー見て手間暇かけて肥え太ってただのトドになってくためだろが、この腐れマンコの売女が。死ね。」とか「自分より幸せな人間がいるの耐えられないんだろ、分かるよ、惨めな自分なんてあんたの劣等感が許してくれないんだろ。せいぜいひとに不幸に見られないために道化やって羞恥心の上塗りしてろよ。」とか「本当に必要としてるものなんて何ひとつ持ち合わせてないし、この先死ぬまで手に入らないことだって分かってるのに取り繕うのはよせよ。」とか、
なんて言っても多めに見てほしい。無理か。

だから、なんだっていい、俺は酒を飲んで、それから、眠る。
僕は下劣な人間になりたい。本物の下劣な人間だ。美しい言葉を喋り何も見ず何も知らない、そういった下劣なものになりたい。
昨日描いたやつのうちの一枚
マーク・ロスコ風

女性の胸に見える。

代官山のクラブ行ったら大沢祐香とマリエがいた話をしたい。

2008-06-19

2008年6月19日 読書
2008-06-19
オブライエン『本当の戦争の話をしよう』再読了。
アダム・ヘイズリット『あなたはひとりぼっちじゃない』再読了。

クープランドの『ライフ・アフター・ゴッド』読むか。
いや、トゥーサンの『愛しあう』か。
それとも、このさい、ついに『カラマーゾフの兄弟』読むか。
『罪と罰』がGUDAGUDAだったから読む気があんまりしないんだけど、上巻だけでも。

photoばしる

2008年6月18日 日常
photoばしる
頭の引き金を引く如く文字を打つ反動で絵書いたら新鮮新泉。
泉のごとくaideaが溢れて迸った。

追記
昔書いてた文章を模倣して書いてみた。いつまでも尖っていたい。

絶頂期について

2008年6月17日 日常
音楽なり文学なり映画なり
もしかしたら企業なり
さらに人生なり


絶頂期っていうのは社会的に認められるのとは別なんじゃないか
と今日朝起きた直後に思った
自分がこれがピークだ
と思ったのともまた別で
最高のときは
でもこれってファンとしての主観的なものかもしれない

アルバムなり小説を片っ端から聞いたり読んだりするとき
いちばん煌く時期っていうのがあって
それっていつかは本人も分からないし
売れてる数字なんかにも出てこない

これを読んでるあなたはもしかしたらそれを終えてしまったかもしれないし
これからかもこれからかもしれない
あなたにとっての絶頂期と
数字に出てくる絶頂期は違う
人生におけるピークと創作者としてのピークも数字に出てくるピークはそれぞれ違う

そして僕にとっては?
つかれてて眠くて満腹だと文章がいまいち。
それから家に帰って、眠った。午前9時から午後3時まで寝て起きて、コーヒーを入れてぼんやりとしていると、メモに書いた小説の走り書きが見付かった。言葉の続きを考えだそうとして、ボールペンを片手に考え込んだ。そもそも、と僕は思った。なぜ彼女は小説を書き始めたんだろう。メモを置いて、コーンフレークをと牛乳を深い皿に注いで食べてから家を出て、自転車に乗って家の近くの本屋で彼女の本を探した。ハードカバーの小説が2冊(タイトルは『夜に踊れば』と『with a smile and a song』だ。)。彼女(つまり’山下のどか’が)がインタビューを受けた雑誌が1冊。試しにインタビューを受けたほうの本を手に取ってみると、片面全部を使って山下の神経質そうな笑いを浮かべた写真が乗っていて、内容はこんなようなものだった。インタビュアー「今回書かれた小説は時代性を採り入れたとおっしゃいましたが。」山下「ええ。ただしあらゆる時代に共通した問題でもあると思います。」インタビュアー「集団の悪意のようなものでしょうか?」山下「悪意とは考えてません。この小説は個人的なものです。たくさんの人に共通した問題を取り扱った個人的な小説です。」インタビュアー「それは山下さんも含めて、ということですか?」山下「もちろん。インタビューをしてるあなたにとってもね。(笑)」インタビュアー「読者を導くような....」山下「いえ、そんな大それたことじゃないんです。そんな人を啓蒙したいなんて考えてはいないんです。例えば、誰かに恋して、それが手の届かないように感じられたり。誰にでも起こることだと思ってるんです。」僕はその雑誌を閉じて、本屋を一周回って、それから、本屋を出て、店の回りの通りを一周した。それから、店を離れてスターバックスに入って、できる限り誰も頼まないような注文をしたくなって、レジのそばのショウケースに入ったミネラルウォーターを手に取って会計を済ませて、席に座った。あらゆる個人に共通した問題。と、彼女は言った。いや、彼女の分身が言った。
バッグから、書きかけのレポートと、年次報告書と、国の経済の指標が載った本を取り出してテーブルに置いて、僕の抱える問題について考えていた。きっと、僕は何も不足しちゃいない。1980年代の日本に生まれて、健康で若い。何も、サハラ以南のアフリカに生まれて、死ぬまで働くのが宿命的に課せられているわけでもない。文字を読み書きすることができる。屋根のある家に住むことできる。欲しいものがあれば、金を貯めて手にいれることができる。小説を書くことができる。就きたい職業をや伴侶を選ぶことができる。蛇口を捻れば安全な水が飲める。風呂もトイレもどんな家にだって付いてる。さっき読んだ雑誌の何ページ目かに絶望という言葉が印字されていた。絶望?僕は右を見て左を見てそして、僕自身の眺めた。手を開いて閉じて、自分の顔を覆った。それから僕は些細だが間違いなく苛立ちを感じた。僕たちの絶望も不安もちっぽけに思えた。そしてもういちどその店の中にいる人間の全員を見回した。苛立ちはいまや確実なものとなっていた。きっと誰かは誰かを羨むかもしれない。不安を感じるかもしれない。でも、それがなんだっていうんだ。僕は席を立って両手で見ることのできないそれを物体化させて掲げて大声で叫びたかった。「自由。これが自由だ!見ろよ。これが自由だ。」そして気が触れたように、片っ端から掴みかかって自由をその眼前に見せつけたかった。おい、お前らはこんなところで何してるんだ。
その週末、ムラカワと僕はライナァのカウンターでビールを飲みながら、天井から吊るされたテレビの映像を眺めていた。「前いた人。」とムラカワは言った。「どの人?」「一緒に話してた。」「あぁ。」「なんの知り合い?」「好きな作家のトークショー観に行ってそこで話して仲良くなった。」「仲が良すぎたな。前のあれは。」「もう言わないでくれ。」テレビは美術館の展示物をひとつづつ解説していくという内容だった。酒を飲みながら観るようなものじゃないし、酒を飲んでなかったらなおさら観るようなものじゃない。「見ろよあれ。」とムラハシは指さしたのは便器にオートグラフが書かれた作品で、それが美術史では重大な意味を持つものだ、と白人の太った女性が画面のなかで説明していた。僕は彼女があの四角い箱の中に閉じ込められた不運な妖精に思えた。あの中でずっとずっと美術作品を決められた台本に沿って、さも価値のある、重大な意味を持つものだ、と驚嘆したふりをしなくちゃいけないのだ。それはつまらないテレビ番組で、皆さんここで笑ってください、とディレクターに演出の注文をつけられて、それに何の疑いも持たない’観客’に似ていた。僕は瞬発的にあの妖精を不憫に思った。ムラハシはビールを飲んで次のビールを注文してから言った「俺は美術をやるよ。いま決めた。」。僕はすこし笑いそうになって答えた「それで便器に自分の名前書いて売るんだろ。」「そう。」「最高だな。」「ああ。最高だ。『お仕事は?』なんて聞かれたら『便器にサインを書く仕事です。』なんて言ってな。最高だ。最高で最低だ。クソ。」「まったくクソったれだな。」「ああ、クソったれだ。」ムラハシのことを好く女の子が店に入ってきた。遠くから見ても素敵な女の子だったし、実際、彼女は僕たちがいる場所に客の間をくぐり抜けていく間に3人の男に声をかけられていた。彼女のどことなく頼りないところが、男の中の何かを刺激するのかもしれない。
13日金曜仕事後プール→渋谷で物書き→渋谷クラブ→朝サイゼリヤで超面白いこと(俺と友達二人で飯食ってたら隣のギャルの二人組の片方が寝てて、片方がトイレ行ってる間にギャルの席のプリン一口食ったり酒飲んだりしたら、ギャル帰ってきたところで全然関係ないわけわかんないやつが「あいつら君達のプリン食ってたよ」的なことを告げ口。この時点で俺たち苦笑い。ギャルすら苦笑。で、プリン頼んで、ギャルが両方とも寝てる間にプリンを彼らにプレゼントとして置いて、そのままにして会計しようとしたら、また例のやつが店員呼んでみたいな感じになって、すげー面白かった。ギャルの二人は話(もといそのユーモア)を判ってたのに、男だけ全然見当違いの説教してたところ。あいつあほだ。会計したあと、走って逃げて友達とすげー笑ってた。笑って腹が痙攣したのは久しぶりだ。)→渋谷から家に帰って寝た→14夕方起きてPC持ってみなとみらいへ→子鹿と会う約束があったけどCM職人から連絡きた→それを優先して子鹿は朝会う約束に→22時直前パインから電話きた。落ち込んでたのでインスタントに「まぁ、がんばれ。」と言って励ました。→22時CM職人と会って飲みながら(雰囲気いい大人っぺー店で)話した→軽く小説読ました→午前2時過ぎ二人でレイトショーみたいっていうことで六本木ヒルズへ→途中から観始めて4時頃終わり(マジックアワーみた。)→軽く時間つぶして始発乗った→始発でエロくて可愛い女の子と目があった→日比谷線で中目黒付いてCM職人と別れたが引き続きエロい感じの子とアイコンタクト→身体の接触すらあったが声かけたりできず(そのあと子鹿と会うっていう予定が立ってたからっていうのもある。タイミング悪い。)に二人して自由が丘で降りた(自由が丘で子鹿と会う予定だったので会った)→子鹿のことはやっぱり好きじゃないなー、と思って落ちた。エロい女の子は可愛かった。無念。→で、横浜に帰って家で寝た。→15日13時起きた。で、めめちゃんにメールして横浜駅で待ち合わせ→ベーグル食ってJR横須賀線で逗子へ→海眺めて16時半頃電車乗って横浜へ戻る→みなとみらいへ→観光→21時横浜駅で解散→帰宅、今に至る。
僕は本当のことについて話したい。実在するものをそのまま表示したい。でも、君はそれを見たいとも聞きたいとも近づきたいとも思わない。想像してほしい。君のいるその部屋に化け物がいる。頭が3つ足が4本腕が3つで、蜘蛛と蝸牛と蝿を掛け合わせたような怪物がいる。でもそれを君は認識しようとはしない。それが唸りを上げて触手をあなたの口の中に突っ込んで内臓の中に幼虫を何百匹も産んでいる。でも君は気付こうとはしない。絶対に認めることはない。

「彼のこと、どう思う?」「寝たふりか。」「うん。」タクシーでヤマザキの膝の上で寝ていたヤマシタは小さな声で慎重に訊いた。彼女の小さな頭がタクシーの微かな振動で揺れている。上空1000メートルから見える僕たちは、ゆっくり滑るようにある地点から地点に移動していく点。時間が進む。点が進む。「あなたはいつも本人がいない場所でその人のことを話さないのね。」「そう?」「うん。」顔を進行方向から仰向けに振り返ってヤマザキの喉から耳の裏にかけて手を重ね、動かしていった。「お話をして。」バックミラー越しにヤマザキを見ていた運転手と目が合って、運転手は逸らした。到着まで10分だろうか。「ある男の話だ。その男は1977年、静岡に生まれて、厳格な父親と心の弱い母親に育てられて、年の離れた兄が二人いた。その家庭の食事光景は凄惨で一言でも無駄口を喋れば平手が飛ぶ。そういった家庭だ。男の父親は小学校も出ずに小学校戦後工場(物の例えではなく、喧嘩になればスパナで全力で頭を割ろうとするような場所だった。)で働いて、身を起こした男で、粗野の町、粗野の男に囲まれて育ってきた男で、家は裕福だったがそこに牧歌的な空気は少しもなかった。父親が彼を褒めたことは一度もなく、一日に二度は男のことを殴った。男が通っていた小学校・中学校は男の父親の生き方をなぞるようにタフな場所で、男の友達の二人に一人はヤクザになった。そこから抜け出すために受験の半年前に勉強を始めて県で一番の進学校に入った。男の頭の切れは群を抜いていて、マンガ本一冊無い家でそれの代わりに百科事典を読んだ。男は浮力の原理を理解していた。ラクダの瘤の成分を全て言えた。男は高校を優等の成績で卒業して、東京大学に入った。東京に来て男は髪を伸ばし茶色に染めた。もし実家でそれをすれば丸刈にされただろう。彼の興味深いところは、そのナリで慶応の飲み会のサークルの連中に混じってクラブで女の子を追いかけてたわけじゃなくて、東大で陶芸部に入った。男は見かけと中身のギャップがあることを楽しんでいるようにも見えた。自分に惚れた女性に興味を示さず、いつも自分のことをまったく分かっていない、毛嫌いするようないかにも真面目な女の子を好きになった。就職活動をしたが、彼のことを一目見るなり横線を引く人事担当達をくぐり抜けて、結局男は職を得ないで大学を卒業した。そのころ母親を殴っていた父親が興奮し過ぎて頭に血が昇った拍子に倒れて、男は丸々4年ぶりに帰郷した。点滴を繋がれて小さくなった自分の父親を眺めて、男は決心して病室を出てその日から勉強を毎日13時間して一年後司法試験に合格して、陶芸部で知り合った女と結婚した。女を連れて一年ぶりの帰郷をすると家に母親はいなく、さらに傲慢になった父親だけがいた。それから間もなく男が弁護士になって最初に手を付けた仕事が彼の両親の離婚手続きだった。」
一息つくと、「それで終わり?」とヤマシタ。「そこで男が自殺して人生が終わったりはしないよ。もちろん、彼の人生は続く。」でも、小説になるようなことは、男にとって幸か不幸か何も起きない。それはヤマザキが考え出した作り話ではなく、実在の男だからだ。男は天命を受けて東南アジアの内紛に身を投じて傭兵になったりはしない。偶然知り合ったハリウッドの著名な監督と知り合って、一夜にして世界規模の知名度を持つ映画スターになって、南フランスの海岸で同じ位有名な女優とセックスしているところをパパラッチに盗撮されたりはしない。これは実在の男が打ちのめされるだけの、どこにでもある(そして絶望的な)話なのだ。僕たち中産階級は歴史に残らない。「男は両親の離婚の手続きを粛々と始めたわけじゃない。そもそも男はその話を断りたかった。こんな馬鹿げたことできるか、と。いざこざになるべく関わりたくない親族は彼に仕事として押し付けて結局その役目を男は執り行うことになった。それから、最初、彼らの取り持ちをしてできる限り離婚しないようにする。なんて言ったって家族なわけだし。父親は半ば母親を勘当するような具合に追い出して、60才を過ぎた母親は6畳の部屋アパートに身を寄せていて。なんとかビルの清掃の仕事を見つけた母親は朝から晩まで毎日働いていた。説得を何度も繰り返した末に離婚が避けられないことを悟ると、離婚手続きを始めた。父親に母親に財産分与を認めさせる息子、という図だ。うんざりするような一連の手続き(親から親への罵声。人間性への累々の悪意に満ちた言及。土下座に、暴力。)を済ませた時、男は急激に更けて、そして子供ができた。」ヤマザキは話終えた。ヤマシタは何も言わずに車内の天井を眺めていた。面白おかしい話じゃないのは話を始める前から判ってたはずだった。「これで終わり。」「ねぇ、それってあなたの知り合い?」「そう。」
首から肩、肩から腕、指先、上半身の前面、身体の向きを変えて背中、尻、太股、ふくらはぎ、つま先まで、それから、それから?彼女の瞳が曖昧になっている。僕の目、彼女の目。残った部分を触れて、彼女の母親が寝ている赤ん坊をあやすような声。僕はうつむいて頭の後ろを掻いた。バスタブの栓を抜いて湯が抜けていくと、彼女の控えめで綺麗に整った胸と、僕の細い身体が泡の上から生えているようだった。僕の一部に意識が奪われていっている。のぼせていく。声が聞こえるけれど、それは僕の声のようには聞こえない。意識が何度も飛びそうになる。何も考えられなくなる。僕が持ち合わせる意識のコップから感覚のコップに注がれていく。反射と反応をするだけの物体に変わっていく。声が聞こえる。彼女が腕を止めて言った「子犬みたい。」彼女のもう片方の腕に付いてる指先が僕の尻の下のほうに滑っていく。排便が逆流していく感覚がした。世界に一つだけしかない奇妙なドアノブを何度も捻っては戻すようにする手と指先の動きに力と速さが加えれる。彼女の声が聞こえた。「くんくん鳴く犬よ。」のぼせている。息が抜け出していくようにして低い声で唸ってみせると、彼女のもう片方の指が二本から三本に増えた。自分の身体の芯で何かが飛び散って意識が飛ぶと、オレンジと黄色と白色の混じったバスルームで自分が空転したように感じた。そのあと、指は4本にまで増えて、ドアノブを捻り取るようにして、僕は3回空転した。そのあいだ僕は自分がただの物体になっていた。まるで別の生き物のように身体が無くなったようだった。懇願すら聞き取られず、果てに、僕は小便を漏らした。彼女は息がうまくできない僕の頭を胸に抱えていた。僕は目に映る光の跳躍を凝視していた。首筋にキスをして彼女の顔を眺めると『恍惚』という言葉を表現していた。口は少し開いていてそこから小刻みに息をしていた。頬は赤く染まっていて、目は端が下にさがって濡れていて、いまにも溶けそうだ。彼女はもういちど僕の頭を胸に寄せて、格闘家が筋力をアピールするような調子で全力で頭を胸に引き寄せた。僕は喉を鳴らすように「ううう。」と唸って目をつむった。頭の裏側で黄金色の稲田が投影されて、そこに風が吹き抜けていった。力を一瞬緩めて、もう一度彼女が圧倒的な力で僕を包容すると、1兆個の目に見えない集めることすら叶わない粒子が、地球の片側から片側へ通り抜けていくように、僕の全身を貫いていった。これは、夢だ。

ヤマシタが眠った隣で真っ暗な部屋で、さっき話した、実在する男の話ではない違う話を考えていた。もっとささやかで、シンプルで、なおかつ核心に触れる決定的な話だ。ケッテイテキな。
これは僕が17才、最高の年齢、最高に不安定な若さの僕の話だ。学校帰りの夏のある日、新宿のデパートに入ってる本屋を目指してエスカレータの乗っていた。何か欲しい本があったわけじゃない。何か心を揺さぶるような衝撃的な本との邂逅があるとも思えなかった。エスカレータでそのデパートの8階で降りて、エスカレータの脇に備え付けのベンチに座っている女の子に目が止まった。一目でその女の子がその空間から浮かび上がってることに気付いた。彼女を含むその空間が婉曲されてるって言ったら大げさかな。とにかく、頭のてっぺんから足のさきまで特別性の女の子。それでも、僕はそこに釘付けにされはしなかった。あと14才若かったら、そこで彼女のほうに吸い寄せられていったかもしれない。でも、無価値な分別を装備してる僕は、哲学書のコーナー、新書のコーナーを抜けて、科学の本が揃ってる棚の方に歩いていく、そうすると、僕の肩と腕にバッグが当たって、追い越していった誰か。もちろん、さきほどの彼女だ。彼女は後ろを向いて、僕を見てにこりと笑った。僕は教育の中で女性が後ろから肩にバッグをぶつけて自分を追い越していったときの対処法を学んでいたわけじゃないし、それに血のめぐりが良いほうでもない。早足で歩いていった彼女は突き当たりの棚で足を止めて本を手に取った。そのコーナーには『数学』と書かれていた。すーがく。僕はそこで本を取ったことがある。3秒本を開いて閉じて以来その棚にある本を手に取ったことはない。科学の棚に置いてある本を手に取って、彼女を眺めていると、彼女は確実にそれらの本(しかも棚の端の方にある分厚くていかついやつ)を読んでいた。理解していた。僕は彼女の立場をトレースする。目の前を通った男を認識、男前だ、よし口説こうと決心、ベンチを立つ。これらは2秒もかからなかったはずだ。僕は理解する技術に関する本を読んでいて、著者が本の中で数学の効能は数を速く計算するだけでなく、その過程で決心する力が付く、と論じていた。彼女はその棚の前でぺらぺらと本を読んで3冊か4冊読み終えていた。僕は自分の決心がされるのを待っていた。そして彼女は僕の方を一瞬眺めて消えた。僕がエレベータでその階に付いてからトータル5分もかかってなかったと思う。僕はそのあと、本屋をぐるぐる回って、店を出て、近くの喫茶店で考えていた。僕は何度も彼女と一緒に居る様子を想像したけれど、うまくいかなかった。彼女は他の人達の3倍の速度で生きる。彼女は僕に苛立つんじゃないかと思う。いや、彼女は誰といても、誰を見ていても苛立つに違いない。彼女は彼女の世界に居て、そこであらゆる物事は組み上げられ、分解され、何事も明確に秩序だっている。彼女は彼女の世界に今もいるんだろうか。
ヤマザキはヤマシタの頭を撫でて、彼女の穏やかな寝息を聞いていた。部屋は真っ暗だが、確実に物事は変わり、時間が進んでいる。あの男もどこかで息をしていて孤独を咀嚼していて、数で秩序立てられた彼女は認識する世界を組み直し適応し、そして、あの子は今も。

バスタブにこびり付いたものが固まらないように水で流すと、彼女の緊張の糸が抜けたようでそのまま僕の身体のもたれかかった。シャワーから出る水をお湯に切り替えて、彼女と僕の身体に付いた泡を流してそのままバスローブを着せて(僕は腰にバスタオルを巻いて)彼女をベッドまで運んでいった。5時間前にヤマザキから学んだやり方で。廊下に付いてる扉を端から開けていった。一つ目は書斎で壁一面に本がびっしりと並んでいて、二つ目の部屋はクローゼットになっていて様々な洋服が沈黙するように吊るされていた。三つ目の部屋が彼女の部屋でそのベッドには先約がいた。小さな女の子が眠っている。僕はそれが何かの間違いだと思って(オルガズムが激しすぎて頭のネジが外れちゃったんだ)、扉を閉じて廊下に出て次の部屋を開こうと思ったけれど、残りは、うんざりする家具のあるリビングとキッチンとバスルームとトイレだけだった。今度はゆっくり慎重に扉を開けて、明りが部屋に入らないように少しの隙間から音を立てずに部屋に入った。その段でさっき眠っていた小さな女の子はシングルベッドの真ん中で眠っていたことに気付いた。微かな電子時計の照明をあてにして、目を凝らすとやはりベッドは占領されていた。一瞬手元の彼女を床に転がしてしまおうかとも思った。でも、だからといって、あの小指ほどの大きさの女の子を起こすのはもっと間違った行為に思えた。それに起こして僕の顔を見て「あら、こんばんわ。こんな時間にいらっしゃるなんて、ちょっと礼儀っていうものをあなた知らないんじゃないかしら。」なんて言ったりはしないだろう。途方に暮れてその場で立ち尽くしていると、ベッドのほうから「おかあさん?」と聞こえた。か細くすがるようで、心の特別やわらかくなっている部分をくすぐるような響きがあった。「おかえり。」観念するしかない。ドアのそばのスイッチを入れて部屋の灯りを付けた。予想を越えて、彼女は驚かなかった。そして、こっちを睨むような悲しむような顔でじっと見ていた。長い沈黙があった。「君のお母さんの友達なんだ。」「こんばんは。」「こんばんは。」たぶん僕はひどく間が抜けて見えただろうと思う。「お母さんを寝かせたいんだ。すこし場所を分けてくれないかい?」彼女はくるくるベッドを転がっていって、場所を空けてくれた。抱いている彼女をベッドにゆっくりと置くと、彼女の娘はゆっくり顎の角度を少し上に上げて僕を測るように見た。「ごめんね。」と僕は彼女の娘に言った。本当に本当に本当に僕は謝りたい気持ちで一杯だった。「すぐ帰るよ。」「そう?」可愛らしい声で彼女の娘は答えた。「うん。」娘は僕に毛布の半分を渡してくれた。それを彼女にかけると、僕はそのまま一切の無駄なく行動した。「おやすみ。」と二人に言って、消灯して、ドアを開けて、廊下と洗面所に馬鹿みたいに脱ぎ捨ててあるを洋服を広い集めて、居間に置いたDVDのケースを持って、この部屋も消灯して、玄関で靴を履いて、そのとき家の鍵が閉められないことに気付いた。振り向くと廊下にぼんやり立つ小さな彼女が目を擦って「オートロック」とだけ言った。もうほんとにうんざり、っていう感じだ。混じりっ気なし100%純粋な嫌悪だ。追われるような気分で、「おやすみ」と声をかけて外に出ると夜が明けていた。色んなことがありすぎた。

5000もぎ

2008年6月13日 日常
5000もじ文章書いて、読み返して、うんざり。

華麗な虚構ってやつが必要なんだけど。

2008-06-12

2008年6月12日 日常
『ジェネレーションX』読了。
『本当の戦争の話をしよう』読んでる。
次はアダム・ヘイズリットか。

会社の都合で髪切ったんだけど、思いのほか好評。

女の子と2ヶ月くらいデートしてないんですけど。

会いたいと文体は似ている。

2008-06-11

2008年6月11日 日常
やりきれないことがあったけど、書くほどのことじゃない。
ただ、いつも残留感みたいなものが心に残る。
彼女の部屋に入ると、ふらふらしながら彼女は冷蔵庫からオレンジジュースを出して、グラスに二人分ついだ。「寝てないんでしょ?」と彼女に訊くと「寝たくないの。」と答えた。彼女がトイレに行っている間、部屋を眺め回した。そこには雑誌から取り出したような無機質で明らかに高級な家具が配置してあった。それらの家具から彼女の人間性はほんの少しも感じとれなかった。クールに見られるという目的を達成するために的確に選ばれて、その目的を存分に達成した家具の一群は、今までのレールの沿った人生にほんの少しの疑いも持たないで済んだエリートのような自己満足的な高慢さがあった。そこにいると僕はとてもクールで退屈で堅牢な牢屋に閉じ込められている気分になった。彼女がドアのそばで腕を組んで僕を眺めながら何事か考えていた。「そういえば、......あなた仕事してるんでしょ。」「してますよ。まぁ、言うといつも説明が長くなる仕事なんですけど。」「つまらないこと聞いた。無しにして。」「いや、別にいいんです。」これで二つめの嘘だ。「カブトムシを育ててるんです。知ってますか?カブトムシのブリーダー。」彼女は組んだ腕の片方の手で頬に手を当てながら冗談か本気なのか真剣に考えているようだった。「なにそれ。」「カブトムシって、ほら、角が生えてる、「分かってるわよ。」僕は肩をすくめて話を進めた。「デパートの上の方であるじゃないですか。小学生が夏の自由研究で使うような籠入りの。あれを育ててるんです。山の中に小屋があって、その回りに動物園の檻みたいなのがいくつもあって、そこで3万匹くらい育ててるんです。」苦いものを飲み下したような彼女の表情が可愛くて、僕は作り話を続けたくなった。「で、出荷の時はその籠の中に入っていって、小さなほうの籠に詰めていくんです。避けては通りたいんですけど、なにぶん数が数だから、潰れちゃって。それで売る分の籠に詰めたら、山を降りてシールを張って。簡単な仕事ですよ。」彼女が難しい顔をしてるのを見て僕は満足した。「好きなの?カブトムシ。」「好きですよ。」それから、ダグラス・クープランドの一句を思い出した。『我々は昆虫のように振る舞っている』。
ムラハシが就職活動している時に、「どんな仕事がしたいのか分からない」と相談されて、僕が勧めた職業は2つあった。1.霊媒師、2.カブトムシのブリーダー、3.AV監督。彼はそのときあるレンタル屋のチェーン店でアルバイトをしていて、彼の勤めるその店舗は全国cチェーンでAVのレンタル数トップの店だった。そして彼はその店舗のAVコーナーの担当だった。
「私には耐えられないわ。」「価値観ですよ。」「なるほど。」彼女は納得したようで、シャワー浴びるとだけ行って部屋を出て行った。
彼女が再び居なくなった彼女部屋で僕は溜息をついて、それも悪くないと思った。本当にカブトムシの養育業者になるのだ。朝早く起きて、土から這い出したばかりの成虫をゼリー状の餌といっしょに檻に放りこんで、生存競争に負けたやつを檻から出して、電話を取ってどっかの昆虫問屋と世間話して(「もう、ほんとに最近は廃棄になるやつばっかりでね。」)、朝食を食べながら、ネットで希少種は儲かるかどうかなんてことを調べるのだ。悪くない。テーブルに載った雑誌を見ると何人もの素敵な女性が素敵な服を着て素敵な表情を浮かべていた。どうにか僕に判ったのは、僕はきっとこの腰かけている椅子と同じだってことだった。僕は交換可能で市場があり競争があり檻から出ることは出来ないということだ。そんなことを考えていると、僕は無茶苦茶なことを起こしたくなって、部屋を出てバスルームのほうに向かっていった。廊下でシャツを脱ぎ、洗面所でズボンと靴下を脱いで、洗面所と戸を開けながら下着を脱いだ。バスタブに浸かりながら、平然を装う彼女に向かって宣言した。「僕たちは昆虫だ。」カブトムシやクワガタも恋をしたりするんだろうか。僕は麒麟や象が恋をすることを知っている。麒麟のカップルは恋をするとお互いの首を交差させて気持ちを確かめる。雄の象は恋に落ちると雌の象の回りをぐるぐると円を描いて走り回るのだ。泡の立ったバスタブに飛び込んで、水中で彼女の臍のすぐ下あたりにキスをした。水面の上に顔を出すと、彼女は言った。「私も昆虫かしら。」彼女は泡まみれの僕の髪を手で拭ってくれた。彼女にキスをして僕は言った。「君は違うかもしれない。」馬鹿げてるだろうか。でも僕は構わない。

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