みえこを追いかけて、歩き始める。日曜の渋谷センター街を渋谷方面に向けて、携帯電話をポケットから取り出して、順序を頭で組んだ。みえこの携帯電話を3コールを3セット鳴らして、応答がないので諦めて、メールで、「また夜メールするよ。」とだけ打ち込んで、無名のあの人に「エアホッケー終わって、いまからレースゲームやるところ。今度一緒に行こう。」とメールして、それから、念のため、みえこにもういちど電話をすると電話に出た。「ごめん、牛飼いっていうのは冗談だったんだけど、全然面白くなかったね。ユキっていうのは僕の姪なんだ。姉が自営業って言ってたでしょ。あれ?言ってなかったっけ。とにかく忙しくて、子守りをまかされるんだ。この前に言ったんだ。ポストカードを今度見せるよ。そのときユキは牛の柵の前で離れなくてね。いやぁ、可愛いんだよユキ。」と、早歩きで早口で伝え終わると20秒くらいの無言状態になった。「ふーん。」「うん。ごめんね。ひとこと断ってから電話に出れば良かったね。ごめん。」スクランブル交差点で立ち止まると沢山の人達に混じってこんなことをしている自分が少し滑稽に思えた。「いまどこにいるの?なんか甘い物食べにいこうよ。ケーキは?おいしいよ?」「あたしアイス食べたい!」「うん。どこにいるの?」と場所を聞き出して、電話を切ると携帯電話が鳴り出して(そこには"元のどか"と表示されている)、電話に出ると、彼女は唐突に「ごめん、もうあなたには会えないわ。ごめんね。さよなら。」と言って、すぐに切れた。もちろん僕は電話をかけ直して、弁解につぐ弁解。どうにか彼女の自己認識(彼女が強い人間じゃないことなんて最初から解ってたんだ)を否定し終えて、言葉を紡ぎおえて、「じゃあ、友達を待たすのは悪いから。またね」で電話を切った直後、西武百貨店の方を振り向くと、みえこが目の前に立っていた。「『君に会えないなんて耐えられないよ』って一日に二人の女の子に言ったりする人ってなかなかいないと思う。」と、泣きそうな目で僕のほうを見た。「ユキが電話に変わってさ、また会いたいって....。」「『手を動かし始めたとき意識あ跳びそうになったんだ。』って...。」「ユキは絵を描くんだ。もう失神しそうなくらい素敵な絵なんだ。いますぐ見せられないのが残念なくらいね。」急に無表情になって「最低。」と言った。でも僕は彼女には"パパ"が二人もいることを僕は知っているし、彼氏は僕を含めて3人いることも知っている。今日、夕方過ぎには、彼女は”家の用事”で三鷹に行く予定がある。それでも僕は冷静に新しい言い訳を考える。そう、僕たちには嘘が必要なのだ。「ねぇ、君にプレゼントがあるんだ。」と言って、彼女にポケットに入ってた50枚の『酢だこさん太郎』を渡して、彼女が「なにこれ!」と言いながら笑いだしたところを見計らって「今日会う前にコンビニにあるのをありったけ買ってきたんだ。喜ぶかなって。」「ちょっとなんでこれ、っていうか、ええー。多いよ!」と言って笑い始めた。「ほら、アイスと一緒に食べたら美味しいよ。」と、適当に根拠の無いことを言っててを引いて109のほうに引いてつれて言ってチョコチップの混ざったアイスを買って渡すと「ごまかそうとしてるでしょ。」と涙目で僕に言った。「そんなことないよ。アイスいらない?」「いる。」と頷くと、彼女がアイスに夢中になっているのを眺めて、どうにかなったと安心した。
帰りの電車で向かいに座った二人の男がこんな話をしてた。「俺もう嫌なんだ。こんな生活耐えられないんだ。」と曖昧な顔つきだが色黒の小太りの男が、隣に座っている浅葱色のTシャツを着た噛み合わせの悪そうな表情をした男に行った。「朝から夜中まで働いて1万円。帰ってビール飲んで深夜番組付けて、起きたらすぐに服を着て電車で1時間かけて現場まで。これが死ぬまで続くなんて想像できないんだ。」と自分に言い聞かせるように帽子で目が隠れるほどの浅葱色の男に小太りが言った。帽子のほうが「この前よ、キャバクラ行ったんだよ。」と、その男の喋り方は黒板を引っ掻くような不愉快さがあった。小太りが驚いて「お、おお。」と相づちを打つと帽子は「でもな、話すことなんて全然ないんだよ。俺が夜中に駅の便所の掃除を朝までひとりでずっとする話なんてよ。」小太りは「お、お、おお。」と、どもりながら答えた。少し苦しそうだった。「すげえよ。キャバクラなんて行ったことないよ。」帽子が手元にある缶コーヒーを強く握りしめて何事かを考えていた。僕は彼らの会話を聞くのを目を閉じて、それから眠った。僕は100円のコーヒーを飲みながら、マクドナルドで『ダンダン』を読んでいて、隣にはみえこが座っていて彼女は『ハンニバル』を熱心に読んでいた。電話が鳴って出ると「あたし。」と茶目っ気を混ぜ合わせて声が聞こえた。「書き上げたわ。カラマーゾフの兄弟meetsワールドイズマインって感じね。」「ん。ぜひ読みたいな。」みえこがこっちをじっと睨んでいる。cancamに載るような洋服を着ていて待ち合わせの場所に現れたとき「どう、コスプレ。」と言った。はっきり言ってとても似合っている。僕はみえこに目配せをしてから「いま友達とエアホッケーしてたんだ。あとかけなおすよ。」と答えると「あなたが今日が書き終えたら読ませて言ったんじゃないと怒り始めた。やっかいだ。みえこは膝をつねって、僕は声を出す代わりに身体をねじった。「ほんとにごめんね。みえこ、じゃないや、ユキは元気?」「誰みえこって?」「誰でもないよ。じゃあ明日ね。」答えて無理矢理切った。「誰、ユキって。」とみえこが太ももから先がちぎれるような力で捻って声をあげた。「牛飼いの女の子。」と真顔で釈明すると、本を閉じて、「帰る。」とそっけなく言ってサマンサタバサのバッグを肩にかけて店を出て行った。
**********************僕はうまく言葉を喋ることができない。書くことが上手なわけでもないけれど、それでも、何かを伝えようとするとき、手に取るのは、喋ることではなく、書くことだ。誰も君のことなんて興味ないんだよ。と、意地悪に誰かが言うかもしれない。それでもかまわない。僕は何かを書かずにはいられない。
ある男は僕にこんなことを言った。「嘘がなんであるのかってお前は俺に訊いたな。教えてやるよ。もちろん、これは俺の見解だけどな。結論は人は弱いからさ。現実の厳しさを覆い隠すために嘘が必要になる。そこの写真見てみろよ」僕は頭に電極がささった人達の写真を手に取ってもう一度眺めた。「じゃあ、そうだな、」と言ってワインを空になるまでグラスに注いで男は言った。「時々お前のことが羨ましくなことがあるよ。」マンガだったら持っている写真立てを落としたはずだ。「あなたが人を羨んでいることを言うなんて。」僕は引きつった顔で言った。「それもそうだな。とにかく、その無思想がな。お前にとって物事はあるがままだ。」と血のような赤ワインを飲み干してフルカワは鼻で笑った。「そんなことはありませんよ。僕だって見たいものを見ようとしてる。」写真を置いて目を覗き込むが、そこからは何も読み取れなかった。「弱い連中は同情が欲しいだけだ。やつらは自分の頭で考えるなんてことは絶対にしない。自ら行動を起こすなんてことは絶対にしない。誰かが自分のことを左右してもらいたがってる。やつらは利用されたことに気付かないし、それを指摘された途端に機嫌を悪くする。だから気付かないようにしてやれば、尻尾振って自分の頬をもっと打ってくれって差し出すのさ。」ソファに寄っかかって、自分が言った言葉を空中に溶かすように人差し指で宙に円を描いた。「いいか、お前は内心俺を見くびっているだろうがな、俺がそれを怖れてるっていうのは間違ってるぞ。」指先が止まって、指先に何かが止まるのを待っているかのように制止した。そこにあらゆる神聖な力が集まるのを待つかのようだった。「まさか。」と言った。「ちょっと飲み過ぎじゃないですか?感傷的になるなんてあなたらしくない。」「お前の真似だ。」と言って指を手に包めて、震えるほど力を込めて握った。********************
夜も遅くなってきた。
ムラカワはマクドナルドを出るときに、背中を手の平でぽんっと叩いて「お告げです。」と白目を向いて僕にこう言った。「己を信じなさい。」そしてまた背中を悪霊を払うかのように叩いて、白目を元に戻して、健康そうな歯を見せて微笑んだ。僕は礼を言って、別れた。
http://www.asks.jp/users/hiro/47417.html

いつだったか、ある作家が「圧倒的な個人を描きたい。」って言ってたけど、この人は、
>>特定のリーダーがいない組織との争い
をしようとしてるように思える。
否、争いではなく、洞察か。

光 means LIGHT

2008年7月7日 日常
1
嘘を見抜くのが上手い人間ほど嘘が上手かもしれない。根拠はないけど。

根拠があるのは、嘘つきは猜疑心が強い。ということ。他人のことを考えるときは大抵自分を基準にするものだからだ。

2
『書くことについて』は書きかけであとで、書き直す予定だから、誤字脱字のブラッシュアップはあとにする。指摘有り難いっす。

3
"完成"って無いよなぁ、と、よく思う。
違う面から言えば完成度の基準じゃなくて、"選択"なのかもしれない。
そういう意味だったら書き直しは、間違った選択の"再選択"なのかもしれない。

4
たぶん、がんがん削る。で、足したいところは足してく。

5
プールは良い。
要するに
交流しやすい、人的にも場所的にも居心地が良いクラブイベント。

具体的には、

敷居が低い
安い(これは色々な意味で大事)
酔える
狭くない
常連も非常連にも居心地良い

っていうことかな。音楽のよしあしは除いた。
音楽聴きたきゃ家で一人で自分の聴きたいものを自分のためだけにかけるのが最高だ、っていうのが持論だからだ。
もしくは本当に盛り上げる方向に振り切れるようなDJをしたいなら、みんなが知ってる曲をかける(=開拓精神のない尖ってないDJ)必要がある。

後学
1
ビップルームっていうか、関係者のみの場所にDJとか客とかを入れるのは厳禁だと思う。自分の会いたい連中とつるみたいなら、招待制でやればいいと思う。

2
酒(テキーラとか)ふるまわない。これをしないとクラブ特有(ライブハウスの音楽で盛る※のとは別の種類の)のカオスな盛り上がりがない。
※盛る:高校のとき部室で拾ったメンズエッグに書いてあった「盛り上がる」の短縮表現。例:「超盛ってきた!!」

3
クラブの構造上の居心地が悪い。もっと交流が起こりやすくて、居心地のいい場所じゃないと、だと思う。

4
混みすぎ。早いタイミングでメインアクトやればいいと思う。でも、DJとかビップルームいるから関係ない、みたいな。

5
チケット3千円高い。ドリンク代に振る金がなくなって盛らなくなる。

2008-07-02 - 2008-07-05はずっと渋谷辺りに居た。プチバックパッカー。

07-02
午前中ポーターのバッグ買った。昼プール行って、物書きして、夜クラブ行った。

07-03
昼プール行って、夕方コーナン行って折りたたみ自転車買って、駐輪場とプールの場所をwebで調べた場所に沿って調べた。夜マンガ喫茶で寝た。

07-04
昼スキャナ買ったり本をスキャンしたりした。夕方プール行った。夜クラブ行った。

07-05
昼下北沢に行った。夕方実家に帰った。

07-06
午前中へや掃除、靴洗う、など諸々。

2008-07-06

2008年7月6日 日常
テキパキこなすのは楽しい。もちろん、見返りがあるなら、という前提がある。

てきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱきてきぱき

最初テキパキでアスキーアート作ろうとしたけど断念した。

2008-07-05 2

2008年7月5日 日常
毎月行くクラブイベントがリニューアルして、それに行ったらダメなイベントに変わってて、自分のテンションその他諸々を差し引いてもつまらなかった。

後学
1
ビップルームっていうか、関係者のみの場所にDJとか客とかを入れるのは厳禁だと思う。自分の会いたい連中とつるみたいなら、招待制でやればいいと思う。

2
酒(テキーラとか)ふるまわない。これをしないとクラブ特有(ライブハウスの音楽で盛る※のとは別の種類の)のカオスな盛り上がりがない。
※盛る:高校のとき部室で拾ったメンズエッグに書いてあった「盛り上がる」の短縮表現。例:「超盛ってきた!!」

3
クラブの構造上の居心地が悪い。もっと交流が起こりやすくて、居心地のいい場所じゃないと、だと思う。

4
混みすぎ。早いタイミングでメインアクトやればいいと思う。でも、DJとかビップルームいるから関係ない、みたいな。

5
チケット3千円高い。ドリンク代に振る金がなくなって盛らなくなる。
「不安なんて無いんだ。」と僕は小説の続きを書き足した。「ともかく、僕たちはいつか死んじまう。君は自分が死んじゃうことを想像できるかい?想像できないだろ。でも死んじゃうんだ。死んだら何も無くなっちゃうんだ。それなのに、君ときたら、ねぇ、死ぬのは怖くないんだ。でも死ぬときに後悔するのが怖いんだ。僕は死ぬとき、あぁ楽しい一日だった、っていう気持ちで眠る子供みたいな気持ちで死にたいんだ。もし、そういう風は気持ちでぐっすりと眠るように死ぬことができるような生き方ができれば、って、ねぇ、それなのに君は今日もくだらない世間体ばかり気にして、他人に指をさされたり、失敗したからってそれがなんなんだよ。もがいてみろよ。とにかく、やれよ。ねぇ怖いんだ。僕だって怖い。でも死ぬほど怖いってほどでも無いんだ。」メモをPCに切り替えて文章をカチカチを打ち込んでいった。おい、お前は生きてるのか?
彼ら二人はマクドナルドを出て、僕は一人で明け方の渋谷を歩いていた。クラブ帰りの若者達、酒を浴びるように飲んだ人達、酔いつぶれて路上に転がっている人達、朝の5時に目を覚ましている人達は、誰も彼もがあらゆる災難をくぐり抜けてきたように見えた。それは僕の弱さが感じさせた被害者意識かもしれなかった。電車の中で知り合った、あの既婚者の女に電話をしようと思った。彼女に失望させられたかった。完璧に倒錯してるぜ。と自分に良い聞かせながら、僕は携帯電話のアドレス帳を親指でめくった。僕は心の軽い人間になりたいと望んでいた。僕ではない誰かになりたいと思った。何も背負ってない、羽のように軽い心を持った連中の仲間になりたかった。鳴り始める電話の音を聞きながら、僕はあの女がどういったリアクションと気持ちになるか解りきっていた。苦しかった。自傷をせずにいられない弱い人間の仲間なんだと僕は実感した。どうしようもない。「はい。」と眠気に満ちた声が聞こえた。一度、家の近所のスナックで働く60過ぎの女と話したときもこういう声をしていた。その60女は一見ダウン症に見える男を連れていて、その男が舌足らずに喋るのを母親のようにあやしていた。「なぁに?」という声には明らかに苛立ちが感じ取れた。僕は自分の狂った部分が叫んでいるのが聞こえた。そいつは嬉しがって、キーキーと猿のように吠えている。「なんでもない。    旦那さまと寝てたの?」それ以上ないくらいのうんざりした気分を込めて「ねぇ、今度にして。」と言った。キーキー叫んでいる。吠えて跳び回っている。「ねぇ、どんな風に夫とセックスするの?上から?下から?」と僕は好奇心たっぷりという風に聞いた。溜め息。「切るわよ。」僕は声にならない言葉が口で空転するのを感じた。伝導したい言葉は僕の口で形に成らなかった。僕は泣き出しそうになったけれど、涙は出なかった。「おやすみ。」と僕が言うと、安心して彼女は「おやすみ。」と言って電話を切った。無言の中に僕はその男の存在を実感した。おやすみ。

2008-07-05

2008年7月5日 日常
自分のことをずっとずっとずっと愛してくれる人に跪きたいと思う。その人達のためにあらゆるものを献上したい。
ぐだぐだの態度でムラハシと一緒にダンスフロアに出ると、ちょうど、髪の黄色い男が曲をかけはじめた。The musicの「Disco」のライブ音源だ。ゆるやかなイントロが鳴り始めて狭い空間にぎゅぎゅうに詰め込まれた僕たちは薄い空気を吸いながら、照明が何色も点滅したり円を書いたり、線を引いたりする様を眺めていた。ギター、ドラム、ベースの音がテンポをあげはじめて、時間の感覚がだんだんと速まり始めた。音と人間と光が混合し出した頃に僕たちは大きく縦に揺れ始める。上、下、上、下、声をあげはじめる。肩がぶつかったムラハシの反対側の肩がぶつかった女の子がにこりと笑った。ギターの音が開いた音になったり閉じた音になる。ボーカルがシャウトしたとき、目の裏側で何かが弾けた。最高潮の瞬間に曲が入れ替わってカロリーメイツの新曲になった。
DJの途中でトイレに向かうのにラウンジを抜けていくと、フルカワがむせび泣いているを見かけた。ムラハシのことを好きな(ムラハシと同じ7:3もどきの髪型にしていること)女の子はフルカワを慰めていた。小便を住ましてフロアに戻らずに、彼らのいるテーブルに座って事情を聞くと、話し始めてしばらくは一方的に喋りまくって、恋愛に話が移った直前こうなったらしい。テーブルに倒れ込んだフルカワが痙攣するように「みえこぉぉぉ。」と唸っていて驚いて、もういちど、聞き直そうとして、フルカワに問いただそうとして、やめた。みえこはハプニングバーで働く女の子で、金困った彼女をフルカワに紹介したのだ。ちなみに、僕はマージンを取っていない。完璧なボランティアだ。「ううぅ」と涎と涙を流して突っ伏してるフルカワに「なんかあったんですか?」と訊くと、急に素面に戻ったような表情になって背筋を伸ばして僕を睨んだ。「くそ!このアホたれが。」と僕を一喝した。「みえこちゃんとなんかあったんですか?」「あのあばずれ、俺から散々金せがんで、『ほんとはわたしのこと好きじゃないんでしょ。』なんてぬかして、次の日から連絡がつかなくなった。」涎が顎から垂れているのを見て取って、僕は「顎。」とだけ言ってハンカチを渡した。顎と目をぬぐいながら「おい、あの女一度もやらせてくれなかったぞ。お前、『彼女、淫乱だから、酒飲ましてやさしくすれば簡単ですよ。』なんて言ったがな、あれはただのビッチだ。糞ったれビッチだな。」と嗄れた声で言った。ムラハシのことを好きな(生意気そうな腕の組み方がそっくりだ)女の子は僕のことを疑い深そうな目で見ていた。「そんなこと言いましたっけ?あぁ、ところで、彼女、歌手目指してるんです。」と紹介すると、フルカワの強烈な生気を備えた目に一瞬何かが通り抜けた。それから、フルカワが自分を取り戻して反対側を向いて、色々と喋り始めた。色々を耳に入れたくなくて、僕は席を立ってフロアに戻って踊りはじめた。明け方、ふらふらになって、3人で(フルカワは先に帰った。満足げな表情をしていた。)マクドナルドでコーヒーを飲みながら
始発を待っていて僕は’青’の話をした。
青について。
彼女には父親がいたが、父親は浮気をしていた。青が4才のとき、父親は青と青の母親を残して家を出て行った。父親が家から出て行ったときのことを青は僕に一度話をしてくれたことがある。青ちゃんごめんね、と言って父親は家のドアを開けて出て行った。取り残された彼らには父親からの養育費が振り込まれた。その話をしたとき、父親とそれから会ったかどうかを聞くと、青は会ったことがないと答えた。「お父さん、今は再婚して娘がいるんだって。」と彼女は僕の隣でブラジャーを付けながら言った。僕は青の立場になった自分のことを想像しようとしたが、うまくいかなかった。あなたに似た、あなたの母親ではない人から生まれた自分に似た顔の知らない兄弟。ちょっとドラマみたいだ。僕が青と知り合ったのは僕達が高校生のときだ。僕が学校に入って仲良くなった男のバッグに張られたステッカーが僕の好きなバンドのもので、周りの連中が聴かない音楽の知り合いを見つけて嬉しくなって夢中で話をしていた最中に、なんでそんな音楽を知ってるの?というところで出た名前が’青’だった。僕は当然男だと思って、連絡先を聴いて、’青’とメールをした。J−POPではない音楽を知る友人と山手の坂を下ったところにあるドンキホーテで約束をして来たのは、髪が金色の胸の大きい女の子だった。青と僕を軸にした交遊関係が始まって1年が経った頃、僕は青のことを愛していることに気づいた。彼女はそのころ母親の恋人といさかいを起こして、家を出て一人で父親と母親が住んでいたが超した、海沿いの公営のアパートに一人で住んでいた。彼女に年上のベーシストの恋人ができたのもその頃だった。青と僕を音楽が結びつけたように、彼らもまた音楽の延長線上で付き合いを始めた。彼氏ができた直後、彼女から報告のメールがきて、僕はそのあと何日か自分でも原因が解らない精神的な疲れを感じて、身体と心が離れているように感じて学校を休んで家で眠り通していた。ある夜、青の家で、高校の友達達(彼らは青と同じ中学校だった)と、僕とあと何人かをそろえて青の家で飲み会を開いていた。夜中の3時過ぎ、何人かが眠って、何人かは起きていた。青と青の女友達はキッチンで話をしていた。残った僕たちが’深刻な心情の吐露’のタイミングに差し掛かって、僕はこう宣言した。「俺は、青のことを大切に思っていて、ずっと一緒にいたいって思っている。恋とかじゃないんだけど。最近気づいて、彼女の父親のこととか、いろんなこと考えてた。青に何の見返りを求めずに与えたいんだ。凄い大切にしたいって思ってる。もしかしたら愛してるっていうのかもしれない。」もちろん、そのときその告白が青に知られるとは思ってもいなかったし、彼女の青という呼び名をこうやってするようになった蒙古斑の存在を知るようになるだろうことも想像していなかった。それは、僕の真剣だけれどささやかな誓いにしか過ぎなかった。けれど、それらの言葉を僕は裏切ることになる。その言葉を聞いていた青の女友達が青のいるほうのキッチンに行って、残った男二人と僕は無言で酒をひたすら飲んでいた。馬鹿でかいペットボトル入りの焼酎をグラスについで、適当なジュースで割って飲んでいた。ゆるやかに過ぎていく時間が僕に何かをひっそりとやさしく語りかけていた。いくつかの白熱灯の光を眺めていた。しばらくして、キッチンに居た女の子達が部屋に戻ってきて、青が今まで見たことのない表情で僕の名前を甘い声で呼びながら部屋に入ってきた。その声はまるで僕たちをささやかに照らす白熱灯のようだった。
それから僕たちはときどき、パソコンのチャットでお互いに貸し合った音楽をテープに取って、チャット越しに同時に聴くという遊びを始めた。メールを前よりずっと沢山交わすようになった。彼女の文面はいつも遊び心でいっぱいで、掛け値なしの信頼を少しずつ築いていった。僕の中学の時の友達と僕の部屋で飲んでいたときに、青のことを話していたとき、彼女の顔を見たい友達のリクエストがあって、青に頼むと化粧の無い顔(それは彼女にとっては珍しいことだった)を送ってきて、彼女の肩にはティンカーベルが携帯の編集機能で乗っていて、その画像は僕が部屋の押し入れの中の携帯電話にまだ入っている。チャットのことをチャットしていない時に僕に話をして、チャット上の僕はとてもとても素敵な男の子だ、と評した。その意見の裏面にあることを考えて、僕はそのとき初めて小説を書こうと思い立った。そのアイディアが、青が美大に入学して自費出版のフリーペーパーを創刊したとき、僕に動物園に行った話を書かせた。結局、その本は印刷されずに企画ごと消えた。その小説のなかに出てくる女の子はお尻に青い印がついている。僕が青の部屋で愛情の告白をしてから3ヶ月くらい経った頃、いつものようにチャットをしていると、彼女は酒を彼氏と飲んできた帰りで、ひどく酔っぱらっていた。チャット越しに彼女の部屋の温度や風景、ある雨の日、沈黙の中で彼女の声を聞いたこと。白い画面のなかに彼女の言葉が浮かんでは流れて消えていく。「会いたいな。」と青は書いた。5秒間、僕はそれから先の言葉を打つのをためらった。「会いたい?」と書くと、青は「別に」と、僕はそれから8秒間、ためらってから書いた「俺も会いたい。」「ね。」「自転車だったら10分くらいかな。」「10分か」「今から家に行ったら迷惑かな。」「全然。」と青が書いた文字を読んで、ぴりぴりと肌が焼けていく幻覚を感じた。ジム・オルークの「Eureka」がそれ以上無いくらいの情緒を残して消えた。彼女の一番好きな曲だった。「いにいくよよ。」と書いた。指先が震えていた。中学に入って好きになった女の子の携帯電話の番号を押したときもこうだった。僕は寝静まった家の玄関を音を鳴らさずに閉めて、夏の前の自転車置き場で鍵を開けながら夏の匂いを嗅いだ。坂を上り、下り、大きな交差点や繁華街を抜けて、彼女のアパートの真っ暗な階段を上った。取り壊される予定の団地で、そこに期限まで住めば立ち退きの示談金をもらえるから、と僕に青が教えてくれたことがある。いまやっと気づいたけれど、たぶんそれは嘘だ。じーーという音をたてるチャイムを鳴らすと彼女は扉を開けて、すぐに振り返って部屋に進んでいく。温暖色に照らされた部屋で僕たちは少し酒を飲んで、「眠いね。」と青が言って部屋の電気が消えて、薄いガラス越しにカーテンの無い部屋に入ってくる蛍光灯をあてに、彼女の背中を見ていた。太っているわけじゃないのに、猫背気味で少し丸まっていて、彼女は僕の方を向かずに、洋服ダンスと向き合っていた。その背中の頼りなさといったらなかった。部屋のテーブルの上に無造作に置かれた彼女の幼い頃(2足で歩き始める直前の頃だろうか)の写真を思い出した。大きな目は悲しそうに垂れていて、愛らしい大きな口はほんのすこしだけ笑みを浮かべていた。小さな彼女はそのカメラのほうを見て、それを見たとき、僕は彼女にその後起こるあらゆることがその表情や無防備な態度に顕れていた。僕のために敷いてくれた小さなサイズの使い古された布団を抜け出て、僕の背中をタオルケット越しに触れると、彼女は僕のほうを振り返ってとても長い息を吸って、それから吐いて、にこりと笑った。
それから1年くらいかけて青と僕の関係が崩壊した。未だ僕はこうして壊れた関係の瓦礫を拾い集めて、瓦礫は瓦礫に過ぎないことを思い知ろうとしている。それはとてもとてもほんの少しもない完成されたものであったはずなのに、最初以前の始まる前からどこかが間違っていて、それは致命的な問題でもあった。問題はとてもシンプルだった。青には年上の恋人がいた。僕のことも好きだっし、年上の恋人のことも好きだった。僕はそれに耐えられると思っていたけれど、その原因はありがちで深刻な欠陥だった。彼女は僕の気持ちを理解できなかったし、それを経験したこともなかった。例えばこんなエピソードだ。彼女をデートにメールで誘うと、「いま彼氏とエッチしてるの。」と返信があった。彼女はきっと僕を求めるの欲求の裏側に罰したいという無意識で埋められていた。手間に対する効果は驚くべきものだった。彼女は自販機で飲み物を買うくらい簡単に僕を傷つけて、血まみれになっているのに彼女はそれがたいしたことじゃないと信じきっていた。彼女に近づきた
いと感じながら、僕は彼女から離れたかった。分裂した感情を育てながら、僕は高校を卒業をしてから、僕は青に連絡することが少なくなっていった。
そこで話を区切って、僕は携帯電話で時間を確認して、始発が出発している時間だから、といって、二人に打ち切ることを告げると、もちろん納得しなかった。問題はこれが簡潔していない問題だか
らだ。
愛だの恋だの男だの女だのは、ここで書かないことにします。

別ブログたてるけど(だいありのーとではない)、見つけてもそっちは広めないでね。

2008-07-02

2008年7月2日 日常
近況
1
6月いっぱいで会社やめた。
7月はプーでぷー。

2
昨日、今日と、ポーターの例のやつ背負って東京歩いてる.
家出したわけじゃないけど、戻りたくない。
定住せず定職せずだと、逆に生の実感がある。

3
小説(もどき)の方針が定まらない。

4
株買った。
nyse:pm。
アナリストレポートをさっさと書き上げて、株の売買履歴を残しておいてディーラー的な、投資顧問的な、そういう職業に就きたい。
もちろん起業(? 共同運営とかでもok)も視野に。

5
鍵盤触ってない。定住....。
ベロベロに酔っぱらった僕たちを午前3時半に着いたフルカワがおぞましい物を見るような目つきで睨んで、僕は「ようこそ。」と、ムラハシとムラハシのことを好きな(ムラハシの腕に腕が当たっては息を飲み込んでいた)女の子のことを紹介した。ムラハシが驚異的な勇敢さでもってビールグラスに注いだテキーラのショットを、ムラハシのことを好きな(彼女はまるでムラハシの優秀な助手のようだった)女の子は、上目遣いの目つきで無言でフルカワに勧めた。これが僕かムラハシだったらきっぱりと断っていただろう。そういう男なのだ。3時頃、その髪の黄色い男がクラブに入ってきて、あーあれは隣の家の女の子が連れ込んだ男だ、と思ったら、ムラハシが男を指差して、「おい、あれが今日のイベントのDJ」と言った。「うそだろ。あれが『食肉ディスコ作った?』」「そう。」ふらついている足下を眺めながら、ここはとんでもない世界だと思った。椅子に座ってフルカワがムラハシのことを好きな(ムラハシのほうをちらちら見ながらフルカワに身体を寄せている。それは悪手だ。)女の子が喋っているのをみている。フルカワはさっきから30分ほど一度も止まらずに自分がいかにして今の地位を築いたかを話していた。DJがブースに入って、ヘッドフォンをかけた。「おい、ムラハシ、見ろよ。お前の女だろ。」と指差して焚き付けると、「だからどうした?」と気のない返事をして、ずれた眼鏡をもとに戻した。ビル・エヴァンスとレイモンド・チャンドラーを足して2で割って坊主刈りにしたような男(いまRothmansの煙草をマッチで火をつけた。)で、こいつと初めて会ったとき、姿勢を僕のほうに向けながらも、口元は奇妙に歪んでいて、話をしたいのかそれともさっさとどっかに行ってくれという態度なのか見極めがつかなかった。そのとき以来、興味を持ち続けているが未だに何も解らない。死ぬまで理解できる人間はこの世にいないんじゃないだろうか。

debut

2008年7月2日 日常
知り合いがBUBKAのperfumeかしゆか紹介ページ書いたってー。
なんかある意味先超された感。

7/2 12:40の代官山スポーツプラザ地下一階でこれは書かれました。
飲みに行こうって誘って、じゃあみんな誘ってっていう返しをする女はどっか行ったほうがいい。しかも企画倒すのもむずいし。

渋谷と原宿のあいだの消防署の近く歩いてたら、ひとめでエロいって分かる(もちろんかわいい)女の子がいて、で、ampmに入っていったから付いていって店内で目とか合った。レジでキシリッシュを買うと隣のレジで2番のタバコを買って、そのとき、目が合った瞬間凄い勢いで首を反対方向にしゅっと振り向けた。で、店出て交差点で俺をチラ見してきた。手元の100円を落とした(ぐっじょぶ)から、俺がそれ拾ってちょいちょい話したけど、夕飯行かないって誘ってら「いぇいぇ」。どっちだよ。
信号が変わる直前彼女が足を僕の方に組み替えて、もっと混乱した。それでも、何も起きずに彼女は別方面に歩いていった。

ちょっと考えたんだけど、100円玉を落としたのはわざとじゃない。もしくは、男に声をかけさせるように仕向ける練習だったのかもしれない。

とにかく、女の子のことはよく分からない。
寝ていた。

ここを家以外の環境から見るときにgod is nowhereで検索して開くんだけど、
『GOD is nowhere ? now here !』
っていうタイトルのブログが検索結果でここの下に表示されてたから、開いてみたら、18才女の子が書く日常の文章で、似たタイトルなのにやたらと距離感を感じた。

俺も小文字を挟んだり顔文字を使えばぃぃのか(≧∇≦)b

トラックバックを使ってみたかっただけです。失礼。

追記
トラックバック飛んでないみたい。謎。
7年越しの恋を果たしました。
2006/06/26 20:30、この文章は渋谷サンマルクカフェで書かれた。僕は会社を終えて19時に五反田のオフィスを出た。この店に着いたのは19:45頃で、macBookで文章を書くための設定をさきほど(20:45頃終わらした。)終えた。文章を書くことは訓練が必要か。ノー!文章を書くことはとても簡単です。ABCのように簡単です。ドレミのようにシンプルです。
ドレミ、ABC、あいうえお。
ここにひとつのmacbookがおいてあります。これは表現です。そこには何がありますか?どのように表現しますか?あなたは何を喋りますか?あなたのことですか?あなたの好きなものですか?あなたの嫌いなものですか?あなたの友人ですか?家族ですか?恋人ですか?文章を書くことは簡単でシンプルです。僕は物語を書いています。なんのための物語かはまだ解りません。けれど、物語を書
くことは楽しいです。寓話の中に自分の会いたい誰かがいます。あなたの見たい何かがあります。あなたは有り得たはずの出来事をその文章のなかで想像し、創造します。
aaaaaaあいうえお
彼女が僕たちのそばに来たとき、彼女がひどく酔っていたことに気づいた。僕がビールを6杯くらい飲むとこんな感じになる。ロバに酒をバケツ一杯分飲ませてもこんな風になると思う。ひどく濡れた目をしていて、カウンターに来る10メートルの間にあれほど男に声をかけられた理由も分かった。強引に腕を引っ張っていけば、何かできるとでも思わせるようだった。ふらついたまま、ムラカワの腕に組み付いて、二の腕に噛みつくと、ムラカワが全身に針金を通したように動かなくなった。水泳選手のように、しなやかなムラカワの背中越しに彼女は僕にウィンクをした。今日ライナァに彼女が来るのを知っていたから、彼女に僕はごく最近発明して実践した斬新な異性へのアプローチの方法を彼女に伝授したのだ。急に無口になったムラカワの誕生日祝いだから、ということで、僕は店員(胸が大きく、それをいつも半分見せている。)にテキーラを瓶で頼んで、ムラカワのビールが入っていたグラスを飲み干して、ビールが入っていた量と同じだけ注いだ。目を見開いた以外の反応はしなかったので、「じゃあ、乾杯!」言って、僕たちは祝杯をあげた。
「動物園に連れて行ってほしいの。」紙ヤスリみたいにざらついた声で彼女は僕に言った。夜の12時過ぎ、部屋でWHOのタバコ規制に関する文章を翻訳しながら読み進めていると、電話がかかってきた。知らない番号からだったので、一度鳴らしたままにしておくと、次の着信は長く、執拗なものだった。元山下のどか、現無名の彼女が僕に自分の娘を明日の昼、上野動物園に連れて行ってほしい、と、僕は母親の名前すら知らないっていうのに。「なんでまた急に。」「仕事の都合上。」「それに君の、...。」「えっと...」「いや、君名前じゃなくて。せめて君の娘の。」僕はPCのウィンドウを閉じて、彼女の声に耳を済ました。紙ヤスリのような声というより、心を散々紙ヤスリで擦られたあとの声というほうが正確かもしれない。「ユキ。」「ユキ。」電源の切れたPCのディスプレイを眺めていると、真っ黒な液晶が不安そうな目つきをする男を反射している。「ねえ、こんなことを訊くなんて死ぬほど野暮だって分かってるけど教えてくれない?彼女の父親は?」画面に写った男を睨むと、僕を異常なほど憎んでいるように見えた。お前、俺、お前、俺。「離婚したわ。」電話越しにはっきりと断言した。ほんの少しの反論の余地もない。男はすがるような表情になってこっちを見ている。でも、君のことはどうしようもできないんだ、許しくれ。「そうよ。あの子の父親はシロくんで、私はあの人の元妻。」「そうなんだ。」自然に言ったつもりなのに、ひどくぎこちなく
なった自分にうんざりした。「連れて行くよ。」「ありがとう。」「用事ないし。それに僕でいいの?」「指名したのはあの子よ。」「嘘だろ。」「よろしくね。」
シロクマを柵越しに眺めるユキを眺める僕は世界の成り立ちの奇妙さに心を打たれた。柵から顔を出して食い入るよう見ながらユキは「ぜんぜんかわいくない。」と平坦なトーンで言った。「でも、こどものシロクマはかわいいよ。」「こども扱いしないでよ。」柵から出た顔は母親に似て驚くほど端正だ。アフリカの動物や熱帯の動物の檻がある通りを抜けると、どの檻にも分類されない動物達の檻が集まっていた。その柵のなかでワラビーとエゾシカの柵が隣合っていて、柵を超えて彼らは口づけをしていた。ユキはそれを見て驚いて、僕に言った「見て!こんなことってあるの!!」僕たちは彼らの柵の前のベンチに座って、彼らのネッキングをまじまじと観察していた。こんな小さな女の子とそれを見ているのは、論理的な面で多少の問題があるんじゃないかと思いあたって僕は落ち着きを無くした。ワラビーの背の高さにそれ以上は無いっていうくらい穏やかな目をした鹿が首を降ろして、長い舌でワラビーの口全体を舐め回すようにしていた。もしかしたら、それには性的な意味はなくて、毛繕いのようなスキンシップなのかもしれない。ユキはベンチに座った凄腕の野球のピッチャーのような姿勢で両膝に両肘を当てて、その前で手を洗うようにして合わしていて、その姿勢は彼女の父親を思い起こさせた。彼女が脇目で僕の目で一瞬見てすぐに戻した。僕にはユキ(ほかの誰でもなく、あの母親の娘なのだ。)が何を考えているか見当がついている気がした。それが気
のせいでもあってほしいと思って「そろそろ、何か食べない?お腹減ってるでしょ。」と彼女に言った。「もうちょっと見てたい。」「うん。」しかたなく、同じ姿勢で異種交遊の観察を続けることにした。途中で、ワラビーは何かを思い立って、檻の中を円の軌跡で跳ね回って、鹿のまえに戻ってもう一度キスを再開した。「素敵ね。」とユキは独り言を言った。「どう思う?」と僕に問いかけて、それが独り言じゃないことに気づいた。急に喉がカラカラに乾いて、足下に置いたコーラのペットボトルを手にとって開けて口に傾けてから、中身が無いことに気づいた。「なんか言ってよ。」とユキが本気で怒りだして、僕は「確かに素敵だ。」と感想を言った。嘘ではない。ユキが僕の顔を真っ直ぐな目で見ている。「ねぇ、俺、お腹減ったよ。」たまらなくなって言ったら、彼女が少し目を逸らして傷ついたような顔をした。いま思えば、それは演技だったんだと思う。「やっぱりお腹減ってないや。全然減ってない。お腹いっぱいだよ。吐きそう。」そう彼女に言いながら腹を抑えて苦しそうな顔を作るとユキが楽しいそうに笑って、僕の腕にしがみついた。小さな身体を持たせかけると、僕はもう何も考えられなくなった。思考が真空状態で、虚ろな目で彼らの口づけの続きを見ていた。鹿の目は限りなく純粋で真っ茶色な目は日を反射してキラキラ濡れて光っている。ユキは僕の顔を覗き込むようにして、それで、僕は彼女にキスをした。
そんな経緯を話す代わりに僕はヤマカワとヤマカワを好きな女の子(ヤマカワに似せて髪を黒に戻して、高そうな眼鏡をかけていた。)に女友達の男友達の家庭の性生活を話した。ビール6杯目だった。「そいつ、んー、仮にジュン君ね。ジュン君は町田に住んでてジュン君のお兄ちゃんはゲイ。お兄ちゃんには彼氏がいて、ゲイだってことをしってるのはジュン君だけ。でお父さんには愛人がいて、お父さんは一ヶ月くらい家から居なくなって、愛人の家に行ったりしてる。ジュン君はジュン君で彼女が3人いて、彼女達はみんなジュン君にほかに彼女がいるっていうことは知らない。そんな家庭。ちなみにジュン君のお母さんはいたって普通でいつも家にいる。でも、家なかでは全員が穏便に振る舞っていて、いかにも仲の良い平和な家族って顔で生活してるんだって。それがジュン君の育った環境であり、家庭なんだ。あと、その女友達は俺とはセックスをしたんだけど、でも好きなのはジュン君なんだ。ジュン君が彼女のことを好きかどうかは知らないけどね。」
(その話を僕は後に、シロに話すことになる。シロはその話を聞いてこんなことエピソードを教えてくれた。「昔、ハタチのときかな。僕は大阪に住んでる女の子(仮にパインって呼ぶよ。クールパインっていうマンガが好きだったんだ、その子は。)と関係していて、彼女が上京して遊びにきて(その女の彼氏は東京に住んでいる男だったんだ。)、合間に僕はパインとパインの東京に住んでい
る友達と3人で会ったんだ。僕がパインと電話で話しをしていたとき、その東京に住んでいる友達の話になったことがあって、名前を聞いた僕は直感的(才能なんだ、と笑って言った。)にパインの友達に彼氏が3人いるでしょって言ったら、彼女はびっくりして、『なんで知ってるの!?』って言ってたよ。それで僕はその三人彼氏がいる女の子と、パインと、僕の3人で表参道のDEAN&DEICAでお茶したんだ。よく覚えてるよ。ホットのアップルソーダを俺は頼んだんだと思う。何を話したっけな。覚えてないや。三人彼氏がいるその子が結んでいた髪を解いて梳く仕草がひどくセクシーだったよ。あとで調べたら、女性が自分の髪を梳く仕草っていうのは、衣服を脱ぐことの比喩表現のジェスチャーなんだって。ともかく、覚えてるのはその黒髪で異常に素直で社交的な女の子だってことはよく覚えてる。で、そのお茶が終わって、解散して、あとで電話でパインがその女の子(彼女も大阪出身でパインとは大学が一緒だった。父親はテレビ局の役員で彼女はお嬢様だった。そんな風に見えたことはないけど、とにかく。)が僕のことをこう評してたんだ『彼は人を愛することが人間よ。』って。僕はそのあと、その彼氏が3人いる女の子には会ったことないんだけど、彼女のことはよく思い出す。そう、それで、その女の子の名前が”のどか”なんだ。」僕はそれを聞いてシロに「じゃあ、もしかして、”山下のどか”っていうのはペンネームなんですか?」シロはいつものような勇敢な目つきで僕を見据えて「ああ。」と言った。)
キスを終えると「お腹減ったでしょ。」と、にっこり笑って、ユキは僕の手を引いて歩き出した。動物園のキリンのアーチがかかった出口をくぐって、手を引くその腕の振り方は、あの人のあの時の腕の振り方と同じだった。これはユキから彼女に移った仕草なんじゃないかと思った。嬉しそうな顔して、小さな手で僕の人差し指と中指をまとめてつかんで、てくてくと早歩きで進んでいく。ユキが僕を振り返って言った。「シロくんに聞いたことがあるの。なんでお母さんのこと好きになったの?って。そうしたらね、シロくん、こういったこう言ったの。」指を握る手が強くなった。「君のお母さんは自分の作り上げたものを愛する人間だって。」指を話して、走って僕の少し前に立って僕のほうを振り返った。僕が立ち止まって頭の後ろを指で掻いて、彼女を見つめた。「がぁー!」と、ユキは両腕をあげてそう叫んで、それから、それ以上ないくらいクスクス笑った。「なぁにそれ?」と彼女に訪ねると、ユキは「シロクマ。」と答えて僕のほうに走ってきて両腕を僕の腰にまきつけて腹を思い切り咬んだ。僕たちは一組の両親と息子の家族がそばを通って、歩いていった。僕たちは家族に見えるだろうか。ユキの頭を撫でると、上を向いて何かを懸命に伝えようとしていたが、言葉にならずそれは息を吐いたり飲み込んだりの繰り返しになっただけだった。また、顔を僕の腹(きっと彼女の小さな乳歯の歯形が付いているいるだろう。ところで、歯科医で採る歯形のことを印象と言う。ユキが僕に与えた印象。)にうずめて、それからひどく弱った北極に住む肉食動物のように「がぁ。」と唸った。しばらく立って彼女が泣き始めたとき、彼女を腕に抱えると、ユキが「だっこして。」と恥ずかしそうに言ったので、僕は微笑んで、頬にキスをして、背中に担いだ。
彼女のゆったりとしながらも間隔の短い寝息を首もとに感じながら、夕暮れの太陽を眺めながら僕は動物園のわきの坂を下っていった。その坂の上を行った所には、僕が通った小学校があって、その小学校の下には動物園があって、動物園に隣合わせるように中学校がある。中学校の反対側には6階建ての大きな図書館になっている。学校にうんざりしてサボったときにはいつもそこに行って、社会から弾かれた人たちが書いた小説や詩を読んだ。その坂を下りきった所には場外馬券場があって、土曜日になると、社会から打ち据えらえらた男達が群をなして、馬券を買い、そして競争が終わると、馬券売り場のわきの飲み屋に行く。彼らが投じた金の一部は、僕の通った動物園にいるライオンやキリンや象や、そして、もしくはシロクマや、鹿やワラビーの餌代になり、そして、僕がほんのすこしも好きじゃなかった学校を運営する資金や、僕が逃げ込んでいた図書館(僕が投資に関する書物に初めて触れたのもそこだった。その本は投資で成した財産で持って恋人と世界一周をする男の自伝だった。)になる。僕は言葉にできない悲しみを感じた。それらはすべて、いつか終わってしまう。ユキはいつか今日のことを忘れて、自分自身をいかに効率良く傷つけるかを学ぶだろう。彼女はいつか無条件に与えてくれる慈悲や庇護感を求めることを諦めてしまうだろう。もう僕には耐えられないと思った。正しくないプランのうえで、行われ、それらはすべて損なわれたまま、失望したままいつか僕たちは死んでしまうのかもしれない。せめて、この子だけでも、と僕は生まれて初めて祈った。自分の力が届く限り彼女のをあらゆるものから守りたかった。
新宿のクラブ行った。

俺のほうをチラチラ覗き見る綺麗で繊細そうな女の子と話そうとすると、逃げていくから、追いつめて、壁際に顔に多い被さるように両腕を立てかけて目を真っ直ぐ見て、「俺のことが怖い?逃げたいんでしょ?ほら、目を逸らした。逃げたい?逃げてもいいよ。」(というような趣旨のこと。実際何言ったかよく覚えてない)って脅したら、両腕を抜けて逃げていった。
DJの人に「+は女の子に逃げ道を作ってあげないと。」って言われた。なるほど、その通りだと思った。

そのあと一度もその女の子とは言葉を交わしていなかった。
明け方クラブの外、酔いつぶれた友達をタクシーに乗せようと、タクシー代引き出すためにATMが入ってる公衆電話のボックスのような場所で端末を操作してると、その女の子が入ってきて、「このあとホテル行こう。」って僕に告げた。

歌舞伎町のホテルはどこも満室で、道玄坂までタクシーで行った。
もちろん、そのあいだの会話で酔いが醒めてることなんてお互いに分かりきっていたから、ホテルに入ったあと、彼女があくまで酔っぱらっているふりをしたのになぜか苛立って、わざとセックスをしないで放っておいた。
そうすると、そのうち彼女のほうからすり寄ってきた。

女の子のことはよく分からない。

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