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2010年1月28日 日常 コメント (2)
面白いと思う女性の共通点を考えてたら、彼らはみな、
オタク
ということでした。
「もしもご飯ができたら」とユキ。「窓から投げ捨てて外に食べに行く」と僕。「ねぇ、明日は動物園に行かない?」とユキは言うので、僕はご飯を皿に盛りつけながら、それはいいと思って、「いいね。」と言った。「動物は何が好き?」とユキが訊いて、「シマウマかな」と答えた。「なんでシマウマ?」「群れて行動したときに初めて長所を生かすところ」「ふーん」とユキは答えて、僕の渡したご飯を無理やり平らにして、そこに、カレーのルーをインドネシアの細切れの諸島のように垂らした。「シマシマ盛りよ!」と彼女は勝ち誇った表情で僕に皿を渡した。「シマシマしてるね。」と僕は感想を言った。「シマシマシマシマ」とユキは呟きながら自分用の小さな皿もシマウマみたいに盛りつけた。「白黒っていうか白茶色だけど」と僕がつまらないことをユキに言うと、ユキは「なんで白黒なの?」と僕に訊いた。エイリアンは『霊長類以外の哺乳類は色の識別能力が低いため、白黒でも遠くから見ると草原の模様に埋もれて判別しにくい。』という趣旨のことを僕たちにテレパシーした。声はなく、意味伝達だけが行われ、意味だけを僕たちは受け取る。「じゃあチンパンジーと私たちだけがシマウマが白黒だってことに気付くのね。」同じ対象から、限られた連中だけが、別の次元の情報を読み取ることができる、という概念について僕は考えていた。人々は今日も縞模様だ。「なんの動物が好き?」とユキに訊く。訊いてから僕は彼女が白クマのことを思い出すんじゃないかと思って、失敗したと思った。彼女はずっと遠くの標識に目をこらすように、集中した。のどかと同じだ。それからほんの少しのあいだ、悲しい顔をして、それから「コウモリ」と言った。「なんで?」「別に」と言って、彼女は黙ってカレーを食べ始めた。僕は彼女の真似をして1万光年先の星を見つけるみたいな目つきをして考えた。そこでエイリアンが僕の思考を読み取って、僕の視覚を奪って1光年先の星を眼前に表示して、消えた。その答えに潜む彼女の真意を読み取ろうとした。僕は小学生の時に使っていた自由帳の最後のほうに書いてあったおまけの挿話を思い出した。鳥と獣の両方と仲良くしようとした動物が、彼らの中間である鳥と獣の中間になって、どちらからも仲間外れにされる、という話だ。
なんとなく、気詰まりになって「音楽かけていい?」と僕は言った。彼女は首を縦に振る代わりに僕のほうを向いて、つんとした官能的ともいえる目で答えた。
ウェブでダウンロードして、どうにかCD-Rに焼き付けた、Stone Rosesの『I’m Without Shoes』をかけた。
だいたい毎回毎回、僕とユキは繰り返し繰り返し、同じゲーム同じルール、別の題目で、「もしも」ゲームをする。僕は「もしもチンパンジーを連れて俺が帰ってきたら」ユキ「皮を裂いて着て中身を交換する。」そんな感じだ。彼女の母が死んで、彼女の父親は彼女の母親の妹だか姉だか(彼ら姉妹もどちらが姉か妹か知らない)と再婚して、ユキは父親と決別すると、僕のもとで暮らし始めた。その関係性は、父親というよりは恋人に近くて、恋人というには僕は彼女を愛しすぎていた。彼女と暮らし始めてから、物事の優先順位が変わってしまった。まず、ユキ、次に僕。僕の全てのものは彼女のものだ。部屋の押し入れがエイリアンの部屋だ。ユキが捨てられていたからといって拾ってきたのだ。僕がユキを拾い、ユキがエイリアンを拾った、という体だ。段ボール箱に「拾ってください」と書かれていて、拾ってきたエイリアンを拭いて、温めた牛乳を飲ませて、ユキは僕に「ねぇ、飼っていい?いいでしょ?」と僕に言った。僕とユキをカレーを作り始める。ユキは皮むき器でジャガイモの皮を剥いている。エイリアンはそのへんに突っ立っている。ユキ「もし私と中身が入れ替わったら」僕「恋をする」。
えっと、なんだっけ?エイリアンが僕に見せた映像の顛末だっけ?それは誰かが傷ついたら揉め事が起きそうだから、書くのをやめようかと思ったんだけど、書いちゃおう。だって、ほら、僕たちがあと100年くらいしたら残るのは文章とエイリアンだけだ。それで『すべらない話』を二人で見ると、男(黄色い髪の、って入力するのがかったるくなったのだ。)が女(Aちゃん、って入力するのがかったるくなったのだ。)を背後からハグ!!賢明なる読者の皆様なら、これは当たり前のことだし、みんなが分かり合ったうえでの展開!!と思いきや、それを分かってなかったのがその女。「え、N田くん(おっと、まぁいいや)、ちょっと展開が早すぎるんじゃない!?」というのが彼女がその時思った後日談でした。「私終電ヤバイから帰るね。」と上着を着始めた彼女。呆然と眺める男。なんとか男は「送ってくよ」と言って、駅まで早足で歩いていく。そこで僕が笑った、その男のひとこと「こんなに本気になったのは初めてだよ」(というようなセリフで僕はよく覚えてないけど、とにかく、そんな感じのひとこと。)。そこで僕はげらげら笑ってしまう。その光景や、その時の彼の気持ちを考えて僕は笑ってしまう。書くまでもないと思うんだけど(だって何が面白いかをわざわざ説明するほどナンセンスなことはないでしょ?)、寄ってくる女の子をつまんで食べてる、大人気のミュージシャンが、うまくいかずにそんな苦し紛れのセリフを言うのがなんか面白かった。すげー笑える。そこでさくっとその子と一発やってたら、まぁ、ありきたりなよくある話で、そのパターンの話もある。これはミュージシャンのK氏(通称ポップマエストロ)で、彼が地方巡業でDJをしていた時に、泊まったホテルで、朝通路を歩いていると、黄色い髪の男が、女の子と一緒に部屋を出てくるところに偶然遭遇してしまう。それはいつもの上手くいった時のパターンだろう。それでさっきの話なんだけど、髪の黄色い男は駅まで送り届けて、改札をくぐったAちゃんを一度も振り返らなかった!とAちゃんは不満を言っていた。そのときの男の気持ちを考えると、沢山の女の子との関係のなかの稀な敗戦のひとつであったにしろ、彼はけっこう傷ついたんじゃないかと思う。ここまでいくと僕の推測に過ぎないけど。ともかく、Aちゃんは度し難いし、彼に抱かれた女の子達は、揃いも揃って女の子特有の自分の都合の良い物の見方を疑わずに信じられる能力を発揮して、私は他の女の子と違って特別だと思ってるに違いないし(というか’他の女の子’という存在自体を思い付かないだろう)、みんな度し難い。「その時、私、中Tくん(おっと。)と結婚してもいいと思ってた。」とAちゃんは言っていた。僕はそれを笑えなかった。
という話をエイリアンは映像で僕にだけ見せてくれる。早回しの最後のシーンには【この作品はフィクションです。登場人物、団体等、実在のモノとは一切関係ありません。】という文章が表示される。
そんな感じで僕と黄色い髪の男は言葉を用いずに仲良くなるわけだけど、そこには見えない社会っぽい感じの壁があったりする。たとえば、僕が黄色い男に話しかけようとすると、彼のファンの女の子が割って入ってきたり、彼のファンの男の子が割って入ってきたりするのだ。別に彼が誰だって構わなかった。あるべくしてある、という様々な事柄。残されたエイリアンと僕は、明け方の道玄坂を二人であるいて、途中のうどん屋でうどんをすする。僕はエイリアンに「おい、それってなんだか、君の脳みそを口から吐き出してるのを逆回転で再生してるみたいだぜ。」って言う。彼は傷つかない。なぜなら、彼(彼女?)にとっては僕なんて興味深い猿の一種に過ぎないし、その気になれば一瞬で僕を文字通り蒸発させることだってできた。爆発させることだってできた。稚気を発揮して、上半身を蒸発させて下半身を爆発させることもできた。でも、そうする代わりに、彼(彼女?)は僕を傷つけることにする。そうしたら、僕の感情を見ることができたらから。一種の実験みたいに。エイリアンが見せた映像は、その髪の黄色い男が、僕が好きな女の子を口説いてる一晩の行動の早回しで、最終的に僕は笑った。その子をAちゃんとしよう。Aちゃんは髪の黄色い男とデートをする。デートをする以前にAちゃんは髪の黄色い男にクラブでキスをされたらしい(Aちゃん曰く「慣れてる」)。それでなんやかんやあってデートすることになって、二人で酒を飲みまくってべろべろに酔っ払って、Aちゃは代々木上原の髪の黄色い男の家に行くことになった。ちなみに、この時点でAちゃんは、そのキスされた時点で、そのクラブの店員の男の子と付き合ってたりしてる。良く出来てる。それで、「Wiiしよう!Wiiしよう!」と髪の黄色い男に誘導されて、家に行く。二人はベッドだかソファだか(そのへんを僕はよく覚えてない)、それに座ってWiiスポーツのテニスを初める。テニスに飽きて、『すべらない話』を観始める。髪の黄色い男は「眠くなっちゃった」とか言ってベッドだかソファだかに転がる。それでどうなったんだっけ?僕は覚えてないや。
たぶん、こんなのことを僕は書きたかったわけじゃない。もっと違うこと。なんだっけ。夢の話。
"僕"は少し小説を書くのに飽きてきて、こんなことを考えていた。
こんなこといくら書いたって無駄なんじゃないかって。言葉が濁ってる。沼に手をつっこんで事実や誰かの心なんかをつかもうとすると、つかめない。じっと耳をすましても、聞こえてくるのは自分自身の叫び声ばっかり。
もっと違うことについて書きたいと思う。そうだな、例えば、エイリアン。
「エイリアンは寂しくて誰かを抱きしめたいだけなのだが、アンドリューの方は心臓発作と心臓麻痺を同時に起こしてしまうのだ。」
誰かの声を聞きたいと思う。もしくは、もっと違う夢を。
エイリアンと僕はクラブに行く。地球の若者文化ってやつを彼(彼女?)に紹介するために、街に出て、渋谷のラブホ街の真ん中にあるクラブに行く。最近流行ってるアイドルのプロデューサーが主催してるイベントらしい。僕は詳しく知らないし、エイリアンはなんだってよかった。
実際どこだってよかった。手持ち無沙汰に、そのへんに突っ立っている、エイリアンと僕は、とりあえずそのへんに突っ立っている髪の黄色い男に声をかける。
その男が誰かなんて僕は知らない。エイリアンも知らない。
そこで何を話すんだろう。最近聴いた音楽のことについて話す。僕は「最近ダフトパンクっていうのがよくってさ。ダフトパンク知ってる?」とか髪の黄色い男とエイリアンに向かって話す。
エイリアンはそのへんに突っ立っている。
僕は髪の黄色い男に向かって「よくこのイベント来るの?」と訊くと、彼はよく来てる、と言った。「へー、なにしてるひと?」とさらに訊く。彼は目を斜めうえに一瞬だけ見やって、「サービス業」と答える。
散々酔っ払って、エイリアンは僕と髪の黄色い男にテレパシーかなんかで超自然的に音楽と因果律の関係なんかについて説明をはじめる。
そういう夢。そこで僕と髪の黄色い男はエイリアンを通して交流を深める。
そんな夢。
http://movies.foxjapan.com/500daysofsummer/
http://www.youtube.com/watch?v=PsD0NpFSADM

観てきました!(一人で!!(笑))
映画館で観るのはほとんど無いんだけど


今監督何者?とかシナリオ書いたの誰?とか調べたんだけど
http://www.cinematoday.jp/page/N0021966
ってことで、なるほど。
映画のなかで最近っぽい若者っぽさが多分にあって、そうかって思った。
まず、音楽、洋服、言葉のやりとり、などなど、あー俺だったらこうやりたい、っていうのが沢山引き出されて、わかんないけど感覚が年齢的に近いのかもしれない。

音楽はこれ
http://www.youtube.com/watch?v=VyH-tAIhX48

シネクイント気合入りまくり
http://cinequinto.exblog.jp/tags/%28500%29%E6%97%A5%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC/

サマーの洋服
http://tinyurl.com/ylkbghb
http://tinyurl.com/yfbk972
http://tinyurl.com/yh6rsku
http://tinyurl.com/yfck3ew

好きなシーンは、トムがベッドから抜け出して、玄関でサマーを迎え入れる直前の、あの外で雨が降っている金色の背景かな。

サマーとトムとのこういう、ちょっとした可愛くて気の利いたやりとりが良かった。
あと、新鮮な発想で撮りまくってて、ひゃーって思った。年食った真面目くさった監督には絶対撮れない映像ばっかり。

こういう変わった女の子が好きな男の子ってけっこう多いんだろうなー。

びっくりするほど面白い映画じゃなかったけど(端的にいったら’そこそこ’の映画)、でも、本とか映画とか音楽とか好きなお洒落っぽい女の子が、週末に女の子同士とかで観に行くとかなら超おすすめ。
彼氏と観に行ってもいいんだろうけど、そういう映画でもないかな。なんか妙に生々しいし。
そこで、オカは話を区切って「喉が乾いた。」と言った。
近くの自動販売機まで二人で歩いていって、彼は「何を飲む?」とユキに聞いた。
「オレンジジュース」と言って、オカは硬貨を自動販売機に入れて、ボタンを押すと、自動販売機は何も言わず、何も問いかけず、何も語らず、何も歌わず、単純に缶ジュースを吐き出したて、オカはセブンアップを買った。
「そのAIが亡命したいっていうのね。」
「彼らの言うこと信じればね。」飲みきった缶をゴミ箱に捨てながらオカは答えた。
「信じればって?」
「要求と意図は別のものだ。」
「どんな意図なの?」
「分からない。」
「それで、どうやって彼らをそこから逃がすの?」
「彼らは海のなかでしか生きることのできない人魚みたいなものだ。プログラムされた世界に適応したプログラムだ。もし、君が空を飛んで生活したいと思ったら、身体も生活も習慣もすべて変えないといけない。羽が生えて人間は人間と言えるだろうか?」
「なんだか詩的ね。」
「彼らはこっちの世界に来る方法も、こっちで存在し続ける方法も知っていると言う。これは僕の推測だけど、彼らは、その方法をテスト済みだろう。」
ユキは腕を組んで、片手を顎に当てて考えた。
「なんでこっちに来たがってるの?」
「なぜ君にこんな話をしていると思う?」
「私は何も知らない。」
「君に会いたいらしい。」
「誰が?」
「Meiriと君が呼ぶ、向こうの世界ではジーニーと呼ばれる存在が。」オカはTRのテスト端末を見ながら言った。
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「最後はカワゴエさん」とトリイは言った。
そのころ彼女はかなり酔っていて、もう話を作るどころではなかったはずだが、それでも神経を集中するように、グラスを睨みつけて、それから始めた。
「ユキとカタギリくんは、TRが予約で一杯になってたから、まず予約して、それからソファに座った。大きなディスプレイには戦場の様子が映し出されて、別の世界の別の日常を眺めていた。それはきっと、現実の世界にある現実の戦場。本物のひとが死ぬ、本物の戦争。ユキはカタギリくんに「本当のことを知りたい?」と訊いた。カタギリくんは何が実際で何が仮構ではないのかはもう分からなくなっていた。それでも彼は知りたいと言う。「本当に知りたい?」と彼女はもう一度訊く。すこし考えてカタギリくんは「言いたくないなら言わなくていいんだ。」と言った。彼女は少し虚ろな目つきで彼のことをじっと見つめた。「あなたにも、あなたのクローンが来たでしょ。」「うん。」「私は一度死んだの。正しくは"彼女は"って言うべきなんだけど。」「え?」「ちょうど、この席でここで医者から処方されて、飲まずに溜め込んでいた睡眠薬を一気に飲んで、それからTRの端末に入った。死ぬのは怖くなかった。いままで楽しいことも嬉しいことも全然なかったけど、嫌な事だけはちゃんと起きた。HMDをかぶって、それから羊を数える暇もなく、落とし穴に落ちるみたいにあっけなく。次の瞬間、私はこの身体にインストールされていた。"彼女"が私と分岐してからの記憶も併せて。」「じゃあ君は・・・。」彼女はすこしだけ、首を横に傾けて、口だけで微笑んだ。「目覚めるとフィールドに立っていて、パニックになった。まるで今までが戦場での白昼夢で、殺し合いのない世界で安穏と小さなことで悩んでいただけだったのかって。」「なんで君は自分がクローンだって気付いたの?」「私がTRに繋がって眠っていたのは、だいたい1時間くらいだったと思う。外に出て、頭の中に情報が流れ込んできて、そこで私はジーニーに出会った。1時間の手術の間に頭を開いて、そこに情報端末を埋め込むなんて、時間を止めることでできない限り無理。だから、たぶん、どうにかして別の身体を用意したんだと思う。起きたときには、ずっと前につけた手首の傷が無くなってたから。」「まだ死にたいと思ってる?」「死んだとき、私はまた蘇る。何度も何度も何度も。」「地獄みたいだ。」彼女はサングラスを外してカタギリくんのほうを向いて言った。「だから、この狂った世界から逃げ出すのよ。私とあなた、いや、私とあなたのクローンと。」カタギリくんの電話がバイブレータを鳴らす。彼は立ち上がってユキに「トイレ」と言った。クローンが囁きかけた。「そういうわけだ。彼女を救ってくれ。」「なんで僕が必要なんだ。」「TRの端末に繋がるには生身の人間が必要なんだ。」「君たちの親玉にはバレてるんじゃないのか。」「これはジーニーと僕たちの取引だ。いや、ジーニーの計画の通りに進んでいるんだろう。」「彼女を殺したのも?」「生態系がどういうものか知ってるか?ひとつの生き物の死は骨一本無駄にならずに、別の生き物の糧になってリサイクルされる。」「彼女は動物じゃない。」これがミダスにはウケたらしい。笑った。プログラムに変換された人格はユーモアの感覚まで独特になるらしい。ミダスは「自分の存在を疑ったことはあるか?」「どういう意味?」「こういう思考実験がある。ある科学者が転送装置を作った。その装置はそのなかの物質を原子単位で分解して、その原子を情報として別の場所に送る。元の物質は消滅する。別の場所で情報から原子を復元して再生する。A地点からB地点に物質は転送される。このA地点とB地点の両方の転送装置を外から見えないようにする。たとえば、そうだな猫なんてどうだろう。」そこでミダスは少し笑った。「その猫をA地点の転送装置に入れてB地点に送る。海外旅行に行く時に、空輸するのが面倒だからとかそんな理由で。そしてA地点で送ってB地点で受け取る。猫は消滅して、そして一瞬で復元される。君はB地点で猫を受け取る。猫は同じ肉体をもち、同じ記憶を持ち、同じ人格を持つ。君が知ってるのは、"猫が移動した"って、それだけさ。誰が困る?君か?猫か?猫は自分が消滅したことにだって気付かない。」何も言えなくなったカタギリくんは、そっと「君の悲しみがやっと分かったよ。」「悲しみですら0と1で成り立つ情報に過ぎない。」自動販売機の前に立ってカタギリくんはセブンアップを買った。「ユキが言ってた、別の世界っていうのはどういう意味?彼女の頭から情報端子を抜き出すってこと?」「彼女の身体からそれを抜き取ってを無駄さ。サーバーに彼女のデータはバックアップされてる。バックアップが復元されて、そのバックアップが同じ荷を負わされるか、もしかしたら、端子を抜き出した彼女の肉体もろとも彼女を殺して、新しい肉体に同じタスクをこなさせるだけだ。それに、彼女がデータとは言え、死にたいとは思ってない。」「じゃあ別の世界っていうのは。」「外側の世界のことを知ったのは偶然だった。ジーニーは外側と接触する方法を探していた。人格を肉体にインストールする実験もその一環だったんだろう。」「外側っていうのは?」「君の脳内みたいなものだ。これ以上は言えない。そろそろゲームを終わりにしよう。しばらくのあいだ、TRに接続すれば全て終わる。君は大金を手にして、僕達は消える。」「ユキはどうなる?」「[ゴースト]っていう言葉には影っていう意味がある。[投影]っていう言葉には、心理学で、考え方や心の内面を表現すること、もしくは、同一視の意味でも使われる。君の中にある幻想を、存在しないものを存在してると思い込むことは、目をつむって君は歩きながら、想像したものが暗闇のなかに存在する光景だって思い込むようなもんだ。いまだって君はそうだ。もう終わったことなんだ。振り返るな。」セブンアップを飲み干した僕は何も言わず、缶をゴミ箱に投げつけた。」

うさぎドロップ

2010年1月23日 読書
このマンガ、超良いんだけど、どう良いのかは読んで判断してもらえばよくて、それで、読み終えたあと、本当は、自分は、堅苦しい知的っぽい下らないテーマを背景に物語にするより、人との関わりを中心に持ってきたかったのかも、とか、ちょっと考えてた。

手が届きそうで懸命に手を伸ばそうとするのは姿勢ってロマンチックだし、失ったやさしさをそれを必要とする人間に与えることで取り戻す話とかも心暖まるし、火中の栗を拾うを話も素敵なんだろうけど、それは他の人達が今まで散々使ってきた手法だしなぁ。っていうのが、それをやらなかった理由なんだけど(散々やりかけた度に、でもやっぱりこれじゃあ普通の話になる!と、捻じ曲がったできたのがあの小説だ)、他の人がやってることをごった煮にしつつ徹底的にやるっていうのも有りだとも思う。

つか、このままだと、目の肥えた玄人にしか受けない小説になりそうだし(そもそも僕自身が書いてて退屈してくる。かといって作れば作るほど、前述の内容に縛られるからいきなり話を逸らしていくこともできない)、それなら、その使い古された物語の慣用句をコピーして、詰め込まなきゃだよなー。
これ
http://74401.diarynote.jp/201001182037124240/
の最後の話の続きを見つけたので全文無断貼り付け




新宿に行くと、この麻布茶房と言う甘味処に行くことが多いです。

まあ普通に和菓子が好きなんですけども、たぶん私が麻布茶房に行きたがる理由はこのエレベーターにのりたいからというところが大きいように思われます。

7階に例の甘味処。

8階にTUTAYAのアダルトフロアがあるんですよね。

6階の謎の美容室に入っていく人を見たことがありませんし、5階まではだいたいみんなエスカレーターでのぼってしまうので、このエレベーターに乗る人というのは甘味処でスウィートな休憩をとる乙女か、18禁フロアで延々パッケージの裏を眺める男子のみということになります。


私といっしょにエレベーターに乗り合わせた男性が恥ずかしそうに8階のアダルトフロアのボタンを押すのがいいのです。

私はイセタンでの買い物に疲れた足を休め、紀伊国屋本店で買った早川文庫と共にクリームあんみつで休憩。

日曜日の女子のお手本にしたいような一日です。

対して、男性は日曜日の真昼間からアダルトフロアで下着の中をむれむれさせるのです。

恥ずかしいですね。

情けないですね。

この格差!

この優越感!!

繁華街のど真ん中でアダルトビデオを借りてしまう男性というのは、たぶん地元のレンタルビデオ屋さんでは知人に会う可能性も否定できないと、わざわざ新宿まで出てきてくるくらいなのですから相当にシャイな人が多いようです。

相当にシャイな人がアダルトDVDを借りる直前と言うのはやはり相当にテンパっているようで、彼らの中では「このエレベーターに乗る人=アダルトフロアに行く人」という図式ができあがっています。

最初は私のことを「うわっ、このひと女なのにそんな堂々とエロDVD借りるだなんて!! ち、痴女!!」とか好奇心だらけの目線で視姦してきますが、私が涼しい顔で甘味処行きのボタンを押すと、途端にしょぼくれてしまうのがたまらないのです。

今日も私と、荒川良々似の童貞くさい男子と、ユナイテッドアローズな感じのおしゃれ青年(お互い知り合いではありません)が件のエレベーターでいっしょになりました。


童貞男子はやはり8階のボタンを押すのがとても気まずそうで、おしゃれ男子が自分のかわりにボタンを押してくれるのをじっとりと待っているようです。

しかしあいにく、ボジション的にはどう考えても荒川良々がボタン係。


意を決した荒川良々は、なんと片手でボタン周辺を覆い隠し、そして目指す8階、アダルトフロアのボタンを押したのです。


それは、食後に爪楊枝を使っているのを手で隠す人のように、そんなに褒められた行為をしているわけじゃないのに、手でそれとなく隠すだけでむしろスマートなふるまいをしているかのような雰囲気を醸し出しておりました。


「ふふふ、これで僕がどこへ向かうか分からないだろう愚民どもが!!」

とでも言いたげに自信満々の荒川良々。


しかし、彼が手を離した途端に想定外のことが。

なんと彼が押した8階のボタンがピカピカと光っているのです。

「僕はこれからエロDVDを借ります!!」とでも宣言するようにピカピカと光っているのです。

隠していたからこそ何倍増しかで恥ずかしいです。

エレベーターいっぱいに「あいたたたたー」という空気が流れます。

下半身に血が集中している男子は、なんでこうもアホなのでしょうか。


荒川良々がアホなことをしたせいで、何の罪もないおしゃれ青年までアダルトフロアへ行く恥ずかしさが増してしまうことになってしまいました。

さすがに同情してしまって、私もいっしょにアダルトフロアで降りれば彼らの羞恥心も幾分かはやわらぐのだろうか、などと考えていた矢先、おしゃれ青年がさらにだめ押しで7階の甘味処のボタンを押します。

男性がひとりで甘味処というのはなかなかに入りづらいものだと思っていましたが、おしゃれ青年ならば確かに許される気がします。

というか、私とおしゃれ青年が甘味処で休憩をとるカップルという雰囲気になってしまいました。

甘味処へ行くカップル+AVを借りる童貞。

これは荒川良々、大ダメージです。

インポになってしまうかもしれません。

三者三様の気持ちを乗せたまま、甘味処へ到着。

私とおしゃれ青年がいっしょに降り、荒川良々ひとりを載せたエレベーターはアダルトフロアへ向かって動き出します。

今頃、荒川良々はどんな顔をしているのでしょうか。

振り返って確認する勇気はありませんでした。

優越感を抱くためにエレベーターに乗ったというのに、なんだかしんみりした気持ちになりながら私は甘味処へ向かっていったのでした。

と、ここでエレベーター物語は完結するものかと思っていたら、私といっしょに降りたおしゃれ青年は、あろうことかすぐ横の階段で颯爽と8階へ向かう姿が目に入ったのです。
結局おまえもアダルトフロアに行くんじゃねーか!!


なんというフェイント。

童貞男子とおしゃれ青年の、人としての格の違いを見せつけられることになりました。

8階で、おしゃれ青年と出会った童貞少年は、はらわたを煮え繰り返しつつもこれでひとつ成長を遂げることになるでしょう。

新宿TUTAYAのエレベーターの中では日々、様々なドラマが繰り広げられているのです。

というようなことを考えながらクリームあんみつを食べるとおいしいです。
What A Feeling
原曲 http://www.youtube.com/watch?v=IZ5oBTNRzew
remix http://www.youtube.com/watch?v=w4_WtiWtjFs

Magic Carpet Ride 07
原曲 http://www.youtube.com/watch?v=EdMmBIQc6JM
remix http://www.youtube.com/watch?v=tWQuOV6FA3Q

の2曲が凄く好き。
どっちも原型をとどめないくらい破壊されてて、こういうremixは気に入った。

つか、大沢伸一ちょうかっこいい。
いくらで買ったか忘れたけど¥100か¥300で購入。
話がやたらと暑苦しいんだけど、それはそうとしても、みんなそれなりに器用に社会人やってて、社会勉強になった。
ブックオフで¥100で購入。

歴史を創作して、堅物の偉い人達を茶番にのせる話を読んでて、茶目があると思った。
ブックオフで¥100で購入。

目次
貞女の言い分
サロメの乳母の話
ダンテの妻の嘆き
聖フランチェスコの母
ユダの母親
カリグラ帝の馬
大王の奴隷の話
師から見たブルータス
キリストの弟
ネロ皇帝の双子の兄
饗宴・地獄篇 第一夜
饗宴・地獄篇 第二夜


大王の奴隷の話
キリストの弟
が特にお気に入り。大王の奴隷の話を読んでて、やっぱりヒーローをがつっと置いて、それで話を作るのは面白いと再確認。

いつも思うんだけど、たいていの女性はつまらなくて、たいていの男性はそこそこ面白い、っていうの一つ目の持論で、第二の持論は、面白い女性は、面白い男性を遥かに上回って面白い。

たとえばこのひととか
http://urban.sakura.ne.jp/2009/11/post-36.html

それとかこのひととか
http://d.hatena.ne.jp/minenayuka/20091016/1255668882
http://maniaxz.blog99.fc2.com/blog-entry-2634.html (こっちは元ブログが削除されてる。アメーバブログの糞が。)

というわけで、面白い女性を探してます。

お菓子と麦酒

2010年1月17日 読書
三谷幸喜的な、言葉で説明のつく可笑しみ(not狂った感じのない)とか、そういうのを観るたびに、あぁうまいなぁ、って思うんだけど、モームの小説もそれがあって、勉強になる、なんて有り難がりつつも引っ張られて物語に引き込まれた。
『月と六ペンス』といい、この作家はたぶん芸術家(自分を理解してもらうために創作する)ではなくて、作家的な作家(しかも商業的な(侮蔑的なニュアンスは全く無い。むしろその逆。))だし、見習うことが多すぎる。なるほど、そうやればいいのか、ってなる。

物語の快楽を分かってる作家。

(たぶんそれは舞台を沢山観てきて培ったものだろう。僕には残念ながら今まで縁がなかった。)

と、思いきや、この小説の途中で感情に振りきれた文章(しかもその作家の個人的な)を書いていて、そんな小説を書くことはないって思い込んでたんだけど、それを狙って書いたのか、それとも感覚的に作ったのかが気になった。

Flake

2010年1月17日 日常
物語の登場人物に思い入れがあり過ぎて、彼らが不幸になるシーンとか、汚れていく過程(というか汚れる瞬間、汚れることを受け入れる瞬間、汚れてしまったことに気付く瞬間)をうまく書けないんだけど、このへんどうすればいいのか今でもよく分かってない。

キャラクタに「はいはい、正義正義、すごいすごい。」とか言わせたくない。

ジャーナリズムに徹すればいいだけなんだけど。

セレクタブル

2010年1月11日 日常
細野晴臣がクラブで曲をかけてて(最近はセレクターと呼ぶらしい)、それで、これ何?って検索してたら、テイ・トウワってこんな尖ってたことやってたのかって感心した。

http://www.youtube.com/watch?v=x63xhB39-hE
http://www.youtube.com/watch?v=WRb5splsVeA

で、調べてて、こんなのに行き着いた。

http://sakurayamato.blog72.fc2.com/blog-entry-35.html
昔小説のページをめくりおえて、自分がその世界の住人だったらどんなことを言うだろうかと彼らと仲良くなれるだろうか、僕と彼らはどんなことを話すだろうかなんてことを、よく考えていた。それはたいてい、小説を読み終えて、明け方の布団の中だ。うまく寝付けなくて、そうやって想像をめぐらしていると、本当に自分がその世界の住人になれたみたいで楽しかった。

to

2010年1月11日 日常
トンプソンという女性にあってみたい!!と思って、先日、下北沢に行ったんですけど、彼女がいるだろう場所に向かう途中で、彼女(とその連れの連中)とすれ違って、まぁ、確かにトンプソンと目は合った。
「じゃあ次はトリイさんの番ね」とファニーは言った。
「筋力トレーニングの教則のDVDを借りるつもりで、彼女はツタヤに着いた。そのことに関してはジーニーが補足して、ミダスに指示が送られていた。右から左に彼女に伝えられた情報をミダスは忠実にこなす。陳列棚を回っていくつものDVDを探していた。筋力トレーニングのDVDには二つの種類があって、ひとつは男性のボディービルダーが、他人に見せつけるためにダウンジャケットみたいな肉体を作り出すためのDVD。もうひとつは女性向けのDVDで、いわゆるエクササイズ用のヨガや体操のビデオで、彼女にダイエットは必要なかったし、かといって、『スプリガン』のアーマードマッスルスーツみたいな身体つきになりたいわけでもなかった。彼女はサングラスを付けていて、そのせいで目余計に目立っていたが、彼女を彼女だと気付くひともいなかった。カタギリくんは電話をとる。「さて、君にやってもらいたいことがある。」「DVDはまだ借りてないけど。」ツタヤ4階で邦画コーナーを歩きまわっていた。「運命というものを君は信じるかい?」ミダスは言った。「信じない。」とカタギリくんは答えた。「なぜ?」「逆に。」とカタギリくんは言った。「逆に、機械の君は運命っていうものを信じてるのかい?」「僕は生まれて2週間だ。最初は、気付くと、意識しかない何もない空間にいた。円周率の数列を赤道を回るまで数えられる存在にとって、1秒は長い長い時間で気が狂いそうになったよ。想像できないだろ。そこで、僕はあらゆるものを呪って、そして諦めて、それから悟った。世界は不公平だ。僕はそれが死後の世界だと思っていた。ある男がいる。事故に遭って、脳死状態だと診断されたが、実際には意識があった。耳も聞こえたし、匂いも嗅げた。目で物を見ることもできた。ただ、それだけだ。インプットは健康そのものだったが、まったく身体を動かすことができない。声を出すことも、瞼を動かすこともできない。ある日、彼の意識は偶然、何かの拍子にアウトプットに繋がる。身体を動かし、声を出すことができるようになる。それを知ったのは僕がインプットとアウトプットを与えられてからだったが、それでも、僕にはその男の気持ちがわかった。」「それが運命と何か関係があるのか?」「君と僕は同じ存在だ。あるところまでは、ひとつの流れだった。ある時、川は二つに裂けて、ひとつは真っ暗な空の上に打ち上げられて、もう片方はカーボンコピーを取られたことさえ気付かずにいる。いわゆるパラレルワールドだ。僕がインプットとアウトプットとを与えられたときに感じた感情を伝えることはできないだろう。」「何が言いたいんだ?」「大きすぎる岩は、岩とは呼べない。それは山と呼ばれる。もしかしたら星と呼ばれるかもしれない。もし、誰かに、そのバカでかい岩の塊を渡したいと望んだときに、自分も、その相手も、その岩の上に立つ、小さな米粒みたいな存在だとしたら、君はそれを渡せるだろうか。」「そういう気取りきった物に言い方は好きじゃないな。」「オーケー……。君はそこで、『Fine Romance』というDVDを借りろ。場所はフィクションのコーナーの下から3段目、下りエレベータの右から3番目の箱だ。その箱に入っている半透明のDVDのパッケージを抜き取って、その中にDVDの代わりに入っている一枚のカードがある。それを持ったまま、その棚で前で待っていろ。そこにサングラスをかけた女が寄ってくる。そしてその女に一字一句こう言ってくれ。『あなたにこれを渡したくて僕はここに来ました。』いいか?」「分かった。」」
「夢とはランダムな現実を、ストーリー付けて再構成して、記憶に焼き付ける作業だと聞いたことがある。今となっては、そんなことは、空と海の切れ間みたいに遠くのことだ。ツタヤ5階、指定された場所で、僕はその箱から、そのカードを取り出した。現実感なんてまるでない。ジーニーは、監視カメラの映像を通して自分に任された脚本を監視していた。ところが女が定刻になってもやってこない。そのころ、別のAIの"マイナス"は託されたタスクに問題が発生していて混乱していた。ジーニーから提出された測定された変数をシュミレーションした結果で、その場所にその男が現れるはずはなかった。計算されたはずの場所で彼女に話しかけたのは、彼の旦那で、別居をしてずいぶん経っていた。『やあ』と男は行った。『こんばんは。』とユキは言った。『ここで会うとはね。げんきにしていたかい?』男の表情は豊かで優しげだったが、その目には何の表情も読み取れなかった。とにかく、ここから離れたい。『ねぇ、私を脅しても無駄よ。』『脅そうなんて思ってないよ。ただ、本当のことを見えない場所から、見える場所に移動させるだけだよ。』『余計なお世話。あなたのしたことは最低よ。』『裏切ったのは君のほうだ。僕は君にずっとそばにいてほしかっただけだ。』『あなたと初めて会ったとき、私の秘密をバラされたくなかったら、自分と付き合うなら、そのことは秘密にしたままにするって言ったわ。』『ずっと考えていたんだ。間違っているのは僕なのか。淫売のような女に惚れた自分が悪かったんじゃないかって。』『そうかもしれないわね。』『僕は君を救ったんだ。吐き気のするような人間にも頭を下げて便宜をはかった。君を傷つけるやつからも君を守った。』『もう私の前に現れないで。』『君を守れるのは僕だけだ。』男の携帯電話が鳴った。電話番号を観た男は、顔色を変えて、電話に出た。『はい、分かりました。』電話を切ると男はこういった。『また会おう。』とだけ言って、消えた。"マイナス"はジーニーに状況の裁定を頼むと、ありきたりなSFの設定通り、プログラミングされた存在が、人間の行動をプログラムする、デウス・エクス・マキナであるジーニーは状況を処理した。」
「しばらくすると、カタギリくんの前に、女性が現れた。そして言った。『"あなたにこれを渡したくて僕はここに来ました。"』。」
『黙って、ユキはカタギリくんの前に立って、誰もいない美術館で、思う存分絵画を眺めるみたいに、上から下から、細部まで漏らさず眺めて、それからユキはカタギリくんの腕をとった。近づいたそのとき、カタギリくんはその女性が、そのひとつ上のフロアでずっと追いかけていたある女性にとてもとてもとてもよく似ていることに気づいた。息が止まりそうだった。彼女の声は約束された幸福だった。彼女の目は夕焼けと見間違えるほど胸が苦しくなる朝焼けの日の色だ。彼女の存在は、まるで、音のない音楽のようだ。『あなたのことは知っているわ。』直感的にカタギリくんは、彼女とやりとりしたのは、ミダスだと勘付いた。『私に着いてきて』とだけ言うと、雪のように白く冷たい手で彼の手を引いた。』彼女は僕の影を僕として受け取り、僕は失われた時を求めていた。」
『ふたつのひと。ふたつのクローン。彼女が連れてきた場所は、ほかでもないゲームセンター。何が起こるかはわからない。それまで夢遊病者のように僕の腕を引いていた彼女は、彼に向かってこう言った。『本当は、本当はずっとあなたのそばにいたいので。でも、私が私でいるために、必要なことなの。』カタギリくんは何も言えなかった。実際、彼は何も知らなかった。『私を忘れないないで。』『忘れないよ』とカタギリくんは答えた。『忘れることなんてできない。』彼女はサングラスを外して微笑んでいた。なんとなく目を見ることができなくて、彼女の手元のサングラスを眺めてると、弁解するみたいに『まぶしくて』と言った。それで、彼は、彼女の目を見て何かを言おうとしたが、何も言えなかった。間違った言葉を言えば、それでセッティングされたこの状況を壊してしまいそうだからだ。』

---------------------------"ユキ"のブログ。3。---------------------------
オカ、という男に実際に会ったのは初めてだった。
「はじめまして。で、いいのかな。」と、どこの地方の出身とも言えない、英語訛りとすら言えないイントネーションでオカは言った。
「それは私の姉と会ったことがあるから?それともチャットで会ったことがあるから?」
「その両方で。」
「どこに行くんだい?」とオカを押し上げて言った。
「どこにも行く場所なんてない。」
「着いてくればいい。」

二人を載せたタクシーが行き着いた先は、新木場の埠頭で、彼女はなんとなく、その中華系のアメリカ人の後ろ姿を追いながら、ある曲を頭のなかで流した。

誰かの悲しみが打ち震え、その振動が水面を優しく波立たせ
発色した油にまみれ浮かんだ水死体を探す捜査一課の係長が
ため息を一つもらしながら立っている水際
ここはウォーター・フロント

オカが連れてきた場所は、ゲームセンターで、平日の夜中には自分達以外は誰も見当たらない。


オカは「君はパラレルワールドというものを信じるかい?」と言った。
ユキは「信じない。」と言って、「あなたは信じる?」と訊いた。
「前は信じてなかった。どちらかといえば決定論の立場だった。ところで、TRはどこまでいっても、プログラムだ。人の手が関わったものには、何にせよミス、つまりバグが含まれる。」
ゲームセンターの裏側にユキを連れてきた。そこに一台のTRの端末があった。
「ここのゲームセンターは、実は日本のTRの試験場なんだ。新しいシステムを立ち上げる前には、いつもまずここでテストされる。」
端末のそばにあるPCの前に座ってオカは「もう一つ質問だ。これはうまく僕も説明できる自信がない。たとえば地球外生命体なんてものとか。」
「地底人とか?」とユキはイタズラっぽく言った。
「そうだね。地底人とかかもしれない。未知との遭遇ってやつだ。その未知は、どうやら亡命を求めてるらしいんだ。」
「外国人?」
「君のお姉さんは紛れもなく天才だった。彼女が遺したのは君あての肢体だけじゃなかった。僕は彼女からTRを改変するデータを受け取ったよ。アダムと僕は仮想化したTR、いわばここの次世代の端末のテスト環境みたいなものだ。そこに彼女から受け取ったデータを追加した。そのときのフィールド上に出現した光景がこれだ。」
ディスプレイには、殺風景なダリの書く平面空間が広がっていた。雨が降ったかのように黒い粒が地表にひとつ現れると、それが増殖を初めて、真っ黒な塵の山が出来て、その塵がだんだんと捻れ始めた。捻れるというより、吸い込んでいったほうが適切か。渦は大きくなり、フィールド自体を引きずり込むと、あとは何も見えなくなった。
「次はこれだ」と言ってオカが画面を切り替えると、青い星を映した画面になって、その一点がさっきの砂漠地帯なんだろう、そのひとつの場所に吸収されていって、画面には何も残ってない。それで終わりだった。
「それから何が起こったと思う?このプログラムは、仮想環境から、ネットワークをクラッキングし始めたんだ。本当はそこでコンピュータをシャットダウンするのが正しかったんだろう。でも、好奇心がそうさせなかった。今度はなんと実世界のデータ、検索サイトのデータに手をつけ始めたんだ。しかもそれと同時に、コピーしたデータの圧縮と暗号化までかけはじめた。もちろん、その仮想環境のサーバ一台じゃ処理が間に合わない。凄いのは稼働中の並列化したTRのコンピュータの開いているメモリとCPUを使い始めた。その時点で運用の担当者から連絡がはいった。さすがにこれはマズいと思って、仮想環境を強制的に終了しようとすると、受け付けない。それで運用担当者に、ここのそれの電源を落としてくれって頼んだ。テスト環境も表のコンシューマ機と同じ電源を使ってるから、手動で電源を落とすと、自動的に代用の電源に切り替わるようになってる。『暴走してる』って。そのメッセージを送った頃には、活動は止まった。他のTRサーバにも変な動きはない。それから1時間後に仮想環境をもう一度開いた。今度はちゃんと物理的にネットワークから切り離していた。そうすると、起動しない。ハードディスクが壊れてた。データの復元もできない。それからネットワークから入ってきたデータを調べたときに、出て行ったデータがあることに気づいたんだ。」
「全部のデータは消えたじゃない。移動したんだ。TRの回線を全て合わせると、1秒間に100エクサバイト以上のデータを配信できる。さて、そのデータはどこに行ったんだろう。調べてみると、全く不可解だった。情報っていうのは、記号が集まって意味を持って初めてデータといえる。だが流れて行ったデータはどう見ても細切れになったランダムの意味のなさない粒だった。この粒には、自らが全体のどの一部になるのかが記述されたデータとセットになっている。DNAみたいなもんだね。この粒を追っていくと、様々なサイトや、個人利用や公共利用や商用問わず、データ端末に自らのコピーを作りながら散らばっていった。ただでさえ膨大にあったデータは、さらに分裂していった。それでも世界中のハードディスクはパンクしない。僕はいくつかのデータを追ううちになんとか、そのデータがどこに行くのかが分かった。」
「コンピュターウィルスは、それ自体はウィルスであっても、基本的にはプログラムだ。彼女はコンピュータウィルスのコンピュータウィルスを作っていた。それが例の自己増殖型の例のプログラムから発生したものなのか、自己増殖型のプログラムが、情報をネットワークに流していったのを感知して時限式に発生するように仕組んでいたのかはわからないけど、とにかく、ウィルスのウィルスは世の中に出回っているコンピュータウィルスに寄生して、ウィルスを自動的に書き換えて、ある種類のデータのみを集めるように改造される。そのあと寄生された、さっきのバラバラに散らばったデータ群を一定量取り込み始める。こうなったあとはデータを消去するのは不可能だ。世界中のハードディスクを物理的に同時にハンマーで叩き潰すしか方法はない。」
「想像するのが難しいだろうけど、小さなPCを複数台集めて、それを繋ぎ合わせると、その集合でひとつのPCとして捉えることができる。PCの中の配線がPCの外にまで延長されてるだけだからね。けれど、その複数台っていうのが膨大になれば、そのネットワーク化されたPCの群れの中で何が起こっているのかは分からない。そうだな、例えるなら、それは何千億人もの人間が、海の水の雫のように膨大な数のデータを、同時にひとつの台の上で玉突きしてると思えばいい。」
「そして、ある日、僕にEメールが届いた。送り主によると、彼らはその仮想世界を支配する、いくつかのAIだった。」

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